留学生支援「英語だけで仕事をするのは事実上困難」

大学と企業の情報交換会

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日本経済新聞社『U22』( https://style.nikkei.com/college )は2019年6月14日、大学の就職支援・キャリア教育担当者と企業の採用担当者を対象に「大学と企業の情報交換会」(協力:サイシード)を開催しました。全国の国立大学など22大学24人、22社33人が集まり、就職やキャリア教育、インターンシップなどについて話し合い、両者にとって有意義な内容だったようです。三部構成のイベントの中から、大学と企業が就活ルールなどについてディスカッションした第二部の分科会の様子を紹介します。

第一部は講演『AI(チャットボット)を活用した就職相談の仕組み』をテーマに、サイシードが埼玉大学で提供するAIによる就活相談サービスを紹介、第三部は大学ブースを企業が回って情報交換をする時間でした。ここで紹介する第二部は「就職できる留学生支援とは」「地方への企業誘致と産学連携」「身体・発達障害学生への支援」「就活ルール変更」「学修成果の選考での評価」の5つのテーマについて話し合われました。各テーマの概要を5回に分けて紹介します。初回はテーマ1「就職できる留学生支援とは」です。


英語コースの留学生支援が課題

テーマ1「就職できる留学生支援」では、大学と企業側の担当者が活発な議論を繰り広げました。議論はまず、各大学が「外国人留学生にどういった就職支援をしているか」を発表することからスタート。基本的なスタンスとしては「日本人と同様の支援」という考え方が多い半面、各大学は昨今の留学生の増加を背景に、学内説明会で外国人留学生を積極的に採用する企業のコーナー設置や外資系企業を集めた交流会、「日本で働くための準備講座」の開催など、独自の施策を講じています。


なかでも、日本語が不得手な学生に対する支援について、試行錯誤する各校の姿が浮き彫りになりました。最近は大学の国際化の一環として英語だけで授業が完結するプログラムが増えており、日本語及び日本で就職することについての理解が乏しい学生が増加しているのが実状。ただ、そのような学生でも日本での就職を希望する場合、就職活動で成功するには一定程度の日本語力に加え、日本の企業カルチャーについての理解も欠かせないため、英語コースで履修する学生らにこれらをどう伝えていくのか、という大学側の課題が顕在化しました。


「英語だけで仕事をするのは事実上困難」

こういった議論を受けて企業から挙がったのは「留学生との接点を確保することの難しさや(社名の)認知度不足ゆえの苦労」「(企業の規模や知名度に関わらず)外国人留学生を積極採用している企業と接点の場を持たせてほしい」といった声です。また、日本語能力が十分でない学生に対する懸念の声も多く聞かれました。過去に、海外の大学から直接採用したものの数年で帰国してしまった経験を持つ企業をはじめ、英語だけを解する留学生を採用し一緒に働くことについて難しさを痛感している企業がほとんどでした。


たとえ社内に英語を話す従業員が多かったとしても取引先とのやりとりや仕事以外の人間的なつながりを考えると「英語だけで仕事をするのは事実上困難」という結論に達する企業が多いようです。「日本で働くうえで日本語能力は不可欠」ということ、日本独特の企業文化、日本人の働き方・雇用慣習について留学生の間で理解が進むよう、大学側にフォロー体制の拡充を望む声が多く聞かれました。(留学生の日本語能力を上げることまで大学側に頼ると大変だと思う、と前置きしたうえで)「就職するうえで日本語が絶対的に必要、と伝えてくれるだけでもインパクトがある」という意見もありました。


大学、企業の発言を通じて浮かび上がったのは、外国人留学生が大幅に増えた現在のフェーズゆえの就職支援の難しさです。一昔前は日本に留学する学生は日本語にたけた学生が多く、日本の産業界、雇用慣行への理解もある程度期待できました。外国人留学生の数が大幅に増えた現在は、日本語力や日本への理解に乏しい学生も増えています。日本語を必要としない学習プログラムの広がりは留学生増加に大きく寄与した一方、その後の(日本での)就職を考えるともろ刃の剣になっている面も否めません。ダイバーシティーを求める企業の国境を越えた人材獲得競争が激しさを増すなか、せっかく留学先に日本を選んでくれた留学生。日本の貴重な戦力とするために、大学、企業双方の一段の努力が必要となりそうです。



高等教育段階における外国人留学生の卒業・修了及び国内就職の推移

koku01_01.png (経済産業省「外国人留学生の就職及び定着状況に関する調査」)

外国人留学生の採用に関する企業の課題

koku01_03.png (経済産業省「外国人留学生の就職及び定着状況に関する調査」)