キャリア教育の現場から

学生の社会的・職業的自立に向けて必要となる能力等を育成するキャリア教育について、教育現場からお届けします。

武蔵野大学 「組織力」でキャリア教育を推進

大学のキャリア教育の取り組みをリポートする「キャリア教育の現場から」。初回は、キャリア教育分野において先進的な取り組みを行う武蔵野大学を紹介します。10年以上も前から大学教育の一環として導入し、その取り組みは文部科学省の特色GP、現代GP、さらに就業力GPに採択されるなど大学関係者から注目を集めています。10年にわたって"改善"を繰り返してきた取り組みは、貴校のキャリア教育のためのヒントになるのではないでしょうか。

取り組みのきっかけは、大学生き残りのため

武蔵野大学が、キャリア教育に取り組み始めたのは2000年度。国内の大学でキャリア教育が施され始めたのは1990年代半ばと言われており、国内でも早期から取り組んでいる大学の1つです。「始めたきっかけは、大学の生き残りのためというのも理由の1つ」と話すのは、同大学学生支援部キャリア開発課の中塩義幸・課長。同大学はもともと文学部の単科女子大学。00年前後から少子化や全入時代を見据えて、新学部を設置したり、男女共学化(04年)を図ったりするなど大学改革が進められました。

その改革の一環として取り入れられたのがキャリア教育でした。契機となったのは高校教諭の言葉だったといいます。98年4月に現代社会学部(現・政治経済学部)を新設する際、ある教授が学生募集のために高校を訪問した際に、高校の先生から言われたのが「新学部の内容などはともかく、最初の卒業生の就職先を見てから、生徒に大学を勧めるかどうかを決める」という言葉。それを受けて、キャリア教育関連2科目を企画したことから始まりました。

00年度から取り組み始めたキャリア教育は、11年度で12年目。中塩さんは「開始当初を第1ステージとするなら、現在は第3ステージです」と話し、ステージが上がるごとに課題が見えてきたといいます。では、第1、第2ステージはどんな取り組みを行い、どのような課題が見えてきたのでしょうか。簡単に振り返ってみます。

第1ステージはキャリア教育の定義を「職業観・勤労観の涵養」とし、その柱は「キャリア開発科目群」「就職支援プログラム」「資格取得対策講座」の3つでした。「ソーシャルスキル」「インターンシップ」「キャリアデザイン」「女性の生き方と職業」を正課科目として開講。キャリア開発科目を体系化し、就職と資格取得の支援体制を確立した「キャリア開発プロジェクト」は、03年度の特色ある大学教育支援プログラム(特色GP)に採択されました。

他校の事例がほとんどなく、手探り状態で始めたキャリア教育でしたが、取り組みの中で課題も見えてきました。当時、学内にキャリア教育に関わった経験のある教職員がいなかったことから担当者はすべて外部講師。そのため取り組みが全学的に浸透しづらく、一部の教職員を除いて、取り組みへの意識も高まりませんでした。

07年度から第2ステージへ移行。特徴はキャリア開発科目の一部の科目を、キャリア教育を専門としない専任教員が担当する制度をつくったこと。「専任教員によるキャリア教育の実践」をテーマにした取り組みは、07年度の現代的教育ニーズ取組支援プログラム(現代GP)に採択されました。

専任教員は「キャリアデザイン」科目(全15回)を必ず1、2回担当し、それぞれの専門分野と関連付けて話したり、教員自身のキャリア形成について語ったりすることで、学生にキャリア・生き方を考えさせたのです。例えば、日本文学の教員は、大学の教壇に立つまでの自分の経歴を語ったり、知り合いの作家がデビューするまでどんな社会経験を経て、現在の作家という仕事に役立っているのかといったことを授業で取り上げたりしました。

ただ、第2ステージでも課題が見えてきました。「キャリア教育科目が"独立"した科目になってしまった」と、中塩さんは振り返ります。「大学での学びでは、専門科目だけでなく文学や芸術、哲学といった教養科目も大事。本来、キャリア教育は大学でのすべての学びを通して学生に考えさせ、身に付けさせるものにも関わらず、学生の関心が教養科目より、就職に役立ちそうなどの理由からキャリア教育科目に向けられることが多くなっていきました」(中塩さん)。

キャリア教育の推移
第1ステージ 外部講師によるキャリア教育 第2ステージ 専任教員によるキャリア教育 第3ステージ 教養教育と専門科目におけるキャリア教育の浸透