大学レポート〜特徴のある教育事例を紹介〜

大学は社会のニーズに応えようと、学生にさまざまな教育を行っています。特徴ある取り組みを紹介します。
※日経産業新聞『大学』面から記事を転載しています。
 肩書などは当時のままです。最新記事は日経産業新聞をご覧ください。

世界大学ランキングに挑む

 政府の成長戦略の一環として、日本の大学は今後10年で世界の大学ランキングの100位以内に10校が入る目標を掲げ、国際競争力の強化に乗り出した。アジアの有力大学は研究開発力などを伸ばして存在感を強めている。巻き返しに動く日本の大学の姿を紹介する。

第2回

過小評価の日本勢――教育改革、トップ校意識(2014年5月26日 日経産業新聞)

原正彦東工大教授

世界大学ランキングのトップ10入りを目指す東京工業大学。担当責任者の原正彦教授は2月、ロンドンに飛んだ。目的はランキングの評価機関へのインタビューだ。国内の大学では初めての試みだった。

評価機関の英タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(THE)と英クアクアレリ・シモンズ(QS)を訪問し、ヒアリングを重ねていくと問題点が見えてきた。THEやQSは「世界ランキングについて何を質問しても、日本の大学はほとんど返事をくれない」と不満を感じていたのだ。

評価機関からの質問は英文で届く。メールを受け取った大学職員が即座に返信できるわけではない。担当職員が交代しても、メールのアドレスが更新されず、そもそも質問が届いていないケースがあることも分かった。国立大学法人は3年程度で職員は異動する。評価機関の質問に対応するノウハウが蓄積されておらず、高い評価を得るための体制は整っていない。

原教授は評価方法についても情報を得た。留学生数や外国人教員の割合などの定量分析に基づいてランキングが決まることは知られていたが、定性分析があることも分かった。「定量分析に入らない日本人による英語の講義も定性分析では評価される」と助言を受けた。日本人の教員による講義でも教育内容を磨けば、評価につながるのだ。

一方、欧米やアジアの有力大学は高評価につながるプレゼンテーション用資料を独自に作成していた。香港科技大学などは資料作成に十分な予算を確保。評価機関からのデータ提供などの要求や質問に的確に対応できる体制を整えていた。

原教授は初めて知ることばかりで「目からうろこが落ちる思いだった」と振り返る。日本の大学は世界で戦える実力を持っているのに、それを説明できる体制が整わず、世界ランキングで過小評価されて損をしている。「いまや大学の国際競争はビジネスと同じ。今後は一丸となって取り組む戦略が必要だ」と訴える。

世界の先頭を走るのは、マサチューセッツ工科大(MIT)だ。QSのランキングでは2年連続の首位。その強さは何か。

「MITは来年から大教室で1人の教員が教える講義をやめる」。エリック・グリムソンMIT副学長は3月に来日し、新たな教育改革に挑む考えを示した。

従来型のMOOC(大規模公開オンライン講座)ではなく、SPOC(小規模限定オンライン講座)と呼ぶ方式だ。学生は1日の中で好きな時間を選び、自宅で学べるようになる。教員はクイズや基礎問題を課すため、どこが苦手かを学生は事前に把握できる。「教員は最初から個別指導に臨める」(同副学長)という進化形を提示する。

MITは早くからオンライン講義やMOOCに積極的だった。ハーバード大学、スタンフォード大学などとの競争を勝ち抜くために、革新的な学習法で攻めの姿勢を崩さない。

首位を走るMITの動きに、日本を代表する工学系大学の東工大も焦りを隠せない。「欧米のトップ校にキャッチアップできていない」(原教授)との危機感は強い。東工大は2016年度以降、カリキュラム、講義内容、教授法などを全面刷新する検討に入った。過小評価を跳ね返せ。世界のトップを意識した改革が始動する。

MITのオンラインコース MOOC
大学 運営 プラットフォーム
在学生(反転授業を重視) 受講者 誰でも可
取得可 単位 不可(一部可)
必須(少人数、有料) 講義 参加自由(ほぼ無料)

(注)反転学習は空き時間にオンライン教材で基礎を学び、授業では応用力分野の課題に取り組む

(日経HR編集部 鈴木和夫編集委員)
※日経産業新聞『大学』面から記事に一部加筆して転載しています。

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