大学レポート〜特徴のある教育事例を紹介〜

大学は社会のニーズに応えようと、学生にさまざまな教育を行っています。特徴ある取り組みを紹介します。
※日経産業新聞『大学』面から記事を転載しています。
 肩書などは当時のままです。最新記事は日経産業新聞をご覧ください。

世界大学ランキングに挑む

 政府の成長戦略の一環として、日本の大学は今後10年で世界の大学ランキングの100位以内に10校が入る目標を掲げ、国際競争力の強化に乗り出した。アジアの有力大学は研究開発力などを伸ばして存在感を強めている。巻き返しに動く日本の大学の姿を紹介する。

第3回

東大、論文数伸び悩む――経済・社会科学底上げ(2014年6月2日 日経産業新聞)

「急速な経済発展に伴い、アジアの大学教育と研究規模は驚異的に成長した。日本の大学は長年アジアのリーダーだったが、その地位は脅威にさらされ、深刻な兆候を見せ始めている」。世界大学ランキングを手掛ける英教育専門誌、タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(THE)のフィル・バティ編集担当は日本の大学に警鐘を鳴らす。

「深刻な兆候」とは世界からの孤立化だ。バティ氏は「日本の大学は世界の有力大学と提携する国際化に消極的だった。グローバル人材を育てる機会を失い、重要な研究について海外とのパートナーシップを進めてこなかった」と指摘する。日本の国立大学は2004年の国立大学法人化後も横並びの給与体系、縦割り組織などを温存させ、世界標準への対応が遅れた。英誌の編集者の目には世界で浮いた存在に映る。

海外から優秀な研究者や教員を迎え入れようとしても、硬直的な組織では人材の入れ替えも難しく、世界水準を意識した研究は進まない。研究の影響力を示す論文引用件数も伸びない。

ランキングに大きく影響する論文数の推移を見てみよう。01年から12年までに世界の論文数は70%(トムソンロイター調べ)増加したが、日本の論文数は5%の微増にとどまっている。

日本勢の退潮を最も重く受け止めているのは東京大学だ。東大の論文数は18%増で、国内では健闘しているが、世界の伸びには遠く及ばない。その理由は研究費などの資金が増えていないことだけではない。東大の松本洋一郎副学長は「論文の最も効率的な執筆者である博士課程の学生が減ったためだ」と打ち明ける。

東大では01年に修士から博士への進学率は42%だったが、12年は29%と13ポイントも下がった。先駆的な研究活動に必要な資金が十分に確保できず、若手の教員や研究員の非正規雇用が増えた。将来のキャリアパスが見えにくいことから、博士に進まずに修士で就職する学生が急増したのだ。

東大は世界の有力大学の論文を詳細に分析し、戦略を立て直している。論文の平均引用数で比較すると、東大は米ハーバード大学の半分程度。引用される頻度が低い経済学などの社会科学系を底上げする一方、物理、化学、バイオテクノロジーなどは一段と高い水準に引き上げる計画だ。

「良い論文を一生懸命に書こう」。危機感を募らせた東大の合言葉だ。文部科学省が旗を振る「スーパーグローバル大学」などの支援策の活用を目指す一方、研究者の地道な努力も欠かせない。「20代の博士課程の学生が指導教員や同僚と何度も議論を重ねて磨き上げた論文こそが世界の研究者から引用される良い論文になる」。松本副学長は若手に奮起を促している。

ロシアのプーチン大統領は「20年までに世界100位内に5校が入る」成果を大学に求めている。インドでも「上位200校にインドの大学が含まれていないのは驚きだ」(シン前首相)と大学の研究強化を目指す発言が目立つ。新興国の台頭で、国際競争は厳しさを増す。日本勢の巻き返しに残された時間は少ない。

(日経HR編集部 鈴木和夫編集委員)

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