キャリア教育の現場から

学生の社会的・職業的自立に向けて必要となる能力等を育成するキャリア教育について、教育現場からお届けします。

社会人基礎力人材育成協議会からの報告
社会人基礎力の現状と今後

「社会人基礎力育成グランプリ2012」決勝大会において、社会人基礎力人材育成協議会(座長:諏訪康雄・法政大学大学院教授)から報告がありました。同協議会は大学教育で社会人基礎力の普及・向上を図り、産学官が連携しながら今後の日本に必要な人材を育成するための方策を議論・研究・実践することを目的に発足。これまで大学関係者や有識者、企業、経済産業省、文部科学省の担当者による3回(2011年10月28日、12月15日、12年1月31日)の議論が行われました。

社会人基礎力の現状1

経済産業省の取り組みとその背景

冒頭、経済産業省経済産業政策局産業人材政策室の水野正人室長が、社会人基礎力育成の取り組み状況を解説しました。同省では2006年に「多様な人々と共に仕事を行っていく上で必要な基礎的な能力」として社会人基礎力を提唱。07〜09年度には全国28大学で育成モデルカリキュラムを調査・研究し、10年度はモデルカリキュラムの普及セミナーを全国7カ所で開催しました。また、10年12月には教育現場での基礎力育成の事例をまとめたリファレンスブック「社会人基礎力 育成の手引き」を制作し、広く普及に努めています。社会人基礎力育成グランプリも08−11年度までの4年間主催事業として開催してきました。

では、なぜ同省が社会人基礎力の普及を進めているのでしょうか。日本企業の海外展開が増える中、幹部人材や国内で採用した人材のグローバル化が急がれていることが背景にあります。同省の「グローバル人材育成に関するアンケート調査(10年3月、165社回答)」によると、「グローバル人材の確保を目的として新卒学生を国内採用するにあたり、重視度の高いものを3つ挙げて下さい」との質問に対して、「社会人基礎力」(63.0%)、「グローバルな環境でのコミュニケーション・スキル」(44.2%)、「英語力」(41.8%)の回答が上位3つになりました。

グローバル人材には、外国語(特に英語)でのコミュニケーション力や異文化理解・活用力と並んで、社会人基礎力が求められています。若手社員であれば外国人とチームを組んで働いていく力、中堅以上の社員であれば、外国人を含めた部下を活用できる力のことです。

また、同省は11年度に「ドリームワークス・スタイルプロジェクト」を実施しています。これは、学生が早期から中小企業などとの接点を持って、教育を通じて学生の職業観の醸成や進路選択時の視野拡大を図る事業です。成長企業の経営者などによるリレー講義、学生による企業取材などを通じた成長企業の魅力発信レポートの作成などに取り組んでいます。12年3月6日には都内で、学生が考える成長企業(中小・中堅・ベンチャー企業)の魅力をコンテンツ作品として制作し、発表して競う「成長企業魅力発信グランプリ」を開催しています。

Q.新卒学生をグローバル人材の確保を目的として国内採用するにあたり、重視度の高い者を3つ挙げてください
Q.新卒学生をグローバル人材の確保を目的として国内採用するにあたり、重視度の高い者を3つ挙げてください。

社会人基礎力普及への課題

言葉のイメージと育成の難しさ、ノウハウ不足

 諏訪座長からは社会人基礎力普及への3つの課題として、「言葉のイメージから生まれる誤解」「育成に対するハードルの高さ」「活用、導入に関するノウハウ不足」が挙げられました。

「言葉のイメージから生まれる誤解」とは、社会人基礎力の「基礎」に対する誤解です。ここでいう基礎とは「ベーシック」という意味ではなく、「エッセンシャル」を意味します。このため、「基礎は十分に身につけた」とか「今さら基礎はいらない」といった考え方が一部にあるようです。また、学生や教職員の中には、「○○をすれば力が身につく」といった間違った認識(正解主義)が持たれていることも指摘されました。基礎力は特定の取り組みをすれば必ず身につくというものではなく、取り組みに対する姿勢や行動によって育成・成長するものなのです。こうした誤解を取り除くためにも、改めて社会人基礎力の概念と基本を大学や社会などに浸透させる必要があるとのことでした。

「育成に対するハードルの高さ」とは、大学教職員の思い込みです。社会人基礎力を育成するには、「産学連携型PBLが必要」とのイメージが根強くあります。PBLは教員の負担が大きくなる傾向にあるために、基礎力の育成自体に関心が向けられないことがあります。このため基礎力育成の取り組みが全学的に広がらず、特定の教員のみにとどまっているのが現実です。ただ、社会人基礎力を育成するには、後ほど紹介する東京女子大学のように一般的な講義型授業でも力を身につけることはできるのです。

「活用、導入に関するノウハウ不足」とは、企業側で感じている課題です。「社会人基礎力を社員育成でどのように活用したらいか分からない」「大学に対してPBLやインターンシップなどの協力・支援方法が分からない」などの声があります。大学に育成を頼るのではなく、企業も一緒に取り組むためのノウハウの蓄積が必要なのです。社会人基礎力は学生だけでなく、全ての社会人に必要であり、特にグローバル企業では人材育成で必須の概念です。産業界での普及も急がれます。企業での活用例については、富士通を例に見てみましょう。