渋谷教育学園渋谷中学高等学校×ユニリーバ 中高生が「ほしい未来」について考えた

SDGs×教育

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企業や大学、自治体が取り組む国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」は教育現場にも浸透しています。学校教育にSDGsを取り入れた事例を紹介する「SDGs×教育」。2回目は、渋谷教育学園渋谷中学高等学校の特別授業「ほしい未来をつくろう(特別協力:ユニリーバ)」です。SDGsへの取り組みに力を入れるユニリーバと中高生が一緒に「ほしい未来」について考えました。



SDGsへの取り組みは140年前から

2020年11月26日、放課後に開催された特別授業には、中学2年~高校2年合わせて約70人の生徒が集まりました。特別授業の話を先生から聞き、自ら手を上げた中高生たちです。SDGsの17目標の中から関心のある目標別にグループに分かれ、企業から出された課題にグループで取り組む1時間半です。


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特別授業はユニリーバ社のプレゼンテーションから始まりました。ユニリーバ社は世界最大級の消費財メーカーとして「ラックス」「ダヴ」「リプトン」などのブランドで知られ、約190カ国で毎日25億人が同社の製品を使用しています。

ユニリーバ社は1884年に高品質で低価格の石鹸を発売したのが始まりです。この石鹸は、英国に手洗い文化を根付かせ、清潔を暮らしの"あたりまえ"にしていきました。約140年前からすでにSDGsの考え方の根本であるサステナブル(持続可能性)を企業経営に取り入れていたのです。



2010年には「ユニリーバ・サステナブル・リビング・プラン」を導入しました。「10億人以上のすこやかな暮らしに貢献」「製品ライフサイクルからの環境負荷を1/2に」「数百万人の経済発展を支援」の3つがプランの柱です。それぞれの柱について、ビジネス成長とサステナビリティを両立する具体的な戦略と数値目標を策定し、SDGsが世に出る5年も前に発表しました。「この経験からユニリーバの当時のグローバルCEOが国連に招聘(しょうへい)され、SDGsの草案作成にも携わりました」とアシスタントコミュニケーションマネジャーの新名(しんみょう)司さんは胸を張ります。「このプランの下、サステナビリティを戦略の中核に組み込んでいるブランドは、その他のブランドに比べて77%速く成⾧しました。サステナビリティに本業として取り組むことは企業の成長を促し、価値を高めるのです」(新名さん)。

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自己否定→自己肯定は一人ひとりの活躍へと

このような先進的な取り組みの中でも、ビューティケアブランド「ダヴ」の自己肯定感を高めるプロジェクトの動画を熱心に見入る生徒の様子が印象的でした。日本の10代の女性のうち、自分の容姿に自信を持っている人は約7%しかいません。これは世界でもっとも低い数値です。これを受け、都内の高校で学生証の写真を撮り直すドキュメンタリー動画です。

前半は学生証に写る自分の姿に自信が持てず、否定的なコメントをする女子高校生の表情が映し出されます。後半は写真の再撮影へ。撮影前の彼女たちが目にしたのは、クラスメートからの自分へのコメントです。「目が優しい」「表情に内面が出ている」「黒髪がきれい」など、クラスメートの目に映る自分の姿を知ることで、表情がみるみる明るくなり、その人らしい魅力に溢れた学生証ができあがりました。特別授業に参加した生徒も、身近な題材に共感する部分があったのでしょう。



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※動画はこちらからご覧になれます。https://www.youtube.com/watch?v=UH1bScBydeY

先進企業としてさまざまな取り組みをしていても「ユニリーバだけでは世界は変えられません」と新名さんは強調します。SDGs17番目の目標は「パートナーシップで目標を達成しよう」。一人ひとりの「私はできる」という前向きな気持ちとアクションがSDGs達成には不可欠なのです。



中高生の視点×ビジネスの視点

  ユニリーバ社のプレゼン後はグループディスカッションです。ユニリーバからの課題は「ほしい未来をつくろう」。「気候変動」「ごみ問題」「ジェンダー平等」などの関心のあるテーマごとに11チームに分かれ、高校生をリーダーに中学生と学年混合チームで課題に挑みます。各チームにはユニリーバ社員や渋谷教育学園の先生、日経HR社員がファシリテーターとして参加し、「ほしい未来」をつくるために話し合う生徒たちをサポートしました。

気候変動やごみ問題のチームでは、「森林破壊につながるような商品は買わないようにしている」「シンガポールには廃棄物を適切に処理する人工島がある」などの意見がありました。エシカル消費(倫理的消費)経験や海外の最新事例をあげるなど、日頃から環境問題への関心が高いことがうかがえました。

ジェンダー平等のチームでは、「女子はリボンやスカート、男子はネクタイやパンツと決まっているけど、着たいものを選べるようにしても良いのではないか」と自分たちの制服に言及していました。「吹奏楽部の男子はいつも重たい楽器を運んでいる」といった声も。男性だから、女性だからという決めつけ、ステレオタイプに対する違和感を口にする生徒など、日頃の学校生活で感じるジェンダー観に疑問を抱いている意見が多くありました。



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議論のあとは各チーム2分のプレゼンタイムです。SDGsをキーワードに「いまの生活が未来にどう関わっているのか」「ほしい未来をつくるために日々できることは何か」について思いを共有しました。

この特別授業の発起人、渋谷教育学園の真仁田智先生、筒井優希先生は「本校では、中学の総合学習の時間で「SDGs」を学んでいます。総合学習で得た知識を先進的な企業とのディスカッションを通じて、"実践できる"ように考えてほしい」と特別授業の狙いを語ります。その狙い通り、ユニリーバ社員からビジネス観点のアドバイスを受けた生徒たちの発表は、「中高生の視点×ビジネス視点」の新しいアイデアに溢れていました。

「『未来を知る最良の方法は、未来を創ることだ』というピーター・ドラッカーの言葉があります。先が見えにくい世界だからこそ、未来は自分たちの手で変えられます。そのことに気づき、変化を起こしていただけることを応援しています」(新名さん)叶えたい未来を想像し、アクションを起こす重要性を生徒たちは感じたことでしょう。

今回の特別授業はSDGsの中でも環境問題への関心が高い生徒が多いと思いきや、ジェンダー論に興味・関心が高い生徒も多く、多様な視点から議論が進みました。中にはプラスチックを減らすために活動する学生団体を立ち上げたメンバーもいて、イベント終了後にも自分たちの活動を熱く語ってくれました。中学2年生はこのまま年度末まで総合的な学習の時間にSDGs研究、実践を続けると言います。今回の体験を通じてビジネス視点をもった生徒たちの研究報告が楽しみです。