道内企業10社と1,2年生が課題解決―北海道大学「社会体験ワークショップ」(上)

北海道大学が社会体験ワークショップを開講

「北海道に教育改革を!」を掲げ、北海道大学が北洋銀行、大和総研の協力のもと、2022年度から「社会体験ワークショップ」を開講しました。学生が道内のゲスト企業と一緒に実社会で働くことや社会の課題解決などを考えるオンライン授業です。同大の経済学研究院・平本健太教授が授業全体を管理・運営し、大和総研リサーチ本部副部長の宇野健司さんがワークショップ講師を務めています。今回は平本教授の話を紹介します。

北海道大学「社会体験ワークショップ」によるキャリア教育の概要
・全学教育科目の授業として2単位・15回
・大学1、2年生対象
・道内の優良企業など10社からゲスト講師を招へい
・オンライン形式
・北洋銀行がゲスト企業をコーディネートし、実務家教員(宇野健司さん)が授業を進行


働くことを考えながら、主体性や行動力を身に付ける

北海道大学の「社会体験ワークショップ」は、道内の有力企業の社員をゲスト講師に迎え、これまで歩んできたキャリアを、その人ならではのエピソードを交えて学生に伝えることから始まるオンライン授業です。ゲスト講師の話を30分ほど聞いたあとは、学生はゲスト講師との質疑応答を繰り広げながら、実社会で「働くこと」を学びます。ゲスト企業に関する新規アイデアや課題をディスカッションする場なども設け、主体性や行動力を身に付けることを目指します。

ゲスト講師は学生に目線を合わせ、誰もが社会で活躍できることを伝える

「学生は単位が取得しやすそうな授業だと考えて履修したのかと思っていましたが、そうではありませんでした。自分の進路を真剣に考えて積極的に参加しているんですよ。意外でした」と、ワークショップに参加した学生の動機を話す平本教授。

ゲスト講師への質疑応答では、学生約100人から次々に質問の手が挙がります。授業への受講姿勢で評価するからだけではなく、学生目線でのゲスト講師の巧みな話しぶりが学生を引き付けています。

「学生に向けて話してもらう内容は、会社紹介に終始しないようにお願いし、『今の仕事を選んだ理由や配属先』『これまでどんな仕事をして、どんな学びや気づきがあったか』などをご準備いただいています。ゲスト講師は話が実にうまいです」

北海道大学の平本教授 「社会体験ワークショップをオール北海道で取り組みたい」と話す平本健太教授。

「企業のことを知らないと経営学はおもしろくない」という経営学専門の教授自身も、毎回ゲスト講師の話に引き込まれていると言います。

ゲスト講師は、キャリアを積んだ「優秀な自分」ではなく、失敗しながら「成長していく自分」を話しています。一つひとつ経験を積むことで、誰もが社会で活躍する芽を持っていることを学生に感じてもらいたいからです。

「次回は、参加企業10社を招いて学生とのディスカッションを予定しています。企業ごとにブレークアウトルームを作って学生を割り振るのですが、学生は『〇〇社の〇〇さんがとても魅力的なので、そこのブレークアウトルームに入りたい!』など積極的に声を上げ、授業を楽しみにしているようです」

学生同士の付き合いに終始しがちな学生にとって「社会人と学生とが同じ目線でやりとりできる社会体験ワークショップは、就職活動も含めたキャリアに向けた第一歩」だと平本教授は考えています。

進路選択の幅を広げ、新たなキャリア発見の場にもなる

社会体験ワークショップ 教室で受講する学生も、オンラインからの学生も、全員が挙手し、主体的に授業に参加。

学生が授業に積極的なのは、北大の総合入試制度も関係するのではないかと平本教授は見ています。

「北大では、学部別の入試のほか、理系か文系かだけを選択し、2年次に進級する際に専攻が決まる総合入試があります。自分が専攻したい分野に進めるかどうかは1年次の成績次第です。専攻には定員がありますから第1希望、第2、第3と、複数の選択肢を考えておかなければなりません。特に理系は、総合入試による入学者の割合が多いので将来どういう進路選択があり得るのかを常に考えています。様々な業界・職種で活躍する人の話を聞くことで、自分が想定していなかった専攻になったとしても『自分にはこっちのキャリアでも可能性がある』と、想像できるようになると思います」

北洋銀行が企業選択・スケジュール調整を担う

社会体験ワークショップは、北洋銀行がゲスト企業のコーディネートからスケジューリングまでを担っています。

「北洋銀行に道内企業10社の選定をお願いし、ベンチャー企業の調和技研や、ニトリホールディングス、『白い恋人』で知られる石屋製菓などが参加。北洋銀行にも最後10社目として入っていただきました」

多様な企業と取引のある銀行に協力を得ることが、複数の企業を巻き込んだワークショップを実施するポイントの1つ。また、ゲスト企業を揃えることを持続可能にするために平本教授は、同窓会組織の活用も試みています。

「私の所属する経済学部では、今年度から学部専門科目で展開する授業の枠を使い、4コマ分くらいを卒業生に話をしてもらう機会に充てています。これまでも、個人的なネットワークで企業の経営者らに協力してもらってきましたが、やはり人脈にも限りがあります。ワークショップも、地元金融機関とともに、いずれは同窓会組織にも協力を得ることで持続可能にしたいと考えています」

卒業生の多くが道外に就職。地元企業発信の場にも

全国47都道府県から多様な学生が集まる北大。卒業生は道外で就職する割合が高く、その活躍ぶりが企業から高い評価を受けています。その一方で、道内企業に就職する割合が低いことに、平本教授は懸念を抱いています。

「北大の学生はあまり地元企業に目を向けません。私の所属している経済学部の約8割の学生は東京や大阪など大都市圏をはじめ道外に本社のある企業に就職してしまう。道内にも魅力的な会社はたくさんあるのに、学生が気づいていないんです。地域活性化などの活動でご一緒する産官学の皆さんも、同じ問題意識を持っています」

昨年度、同ワークショップの授業プランを構築している際は、学部長として半ば義務感のようなものが実はあったという平本教授ですが、授業を始めると「地域で若者を育てることに貢献したい」「若者と道内企業との接点を作り地域の活性化にもつなげたい」という意識が自身の中でどんどん育ってきていると話します。

「いずれは国立大学、私立大学の垣根を超えて、オール北海道でこうした取り組みをしたいと考えています。学生が仕事に必要な力を育むと同時に、北海道の活性化を目指し、社会体験ワークショップを他大学とも共有するべく学内でも話を進めています」。

ワークショップが広がることが期待されます。