東北福祉大学 学生・企業双方の理解が進むリエゾン型インターンシップ

インターンシップの行く先

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東北福祉大学は4学部、約6000人が在籍する大学です。インターンシップの歴史は古く、1997年に当時の文部省、通産省、労働省の三省がインターンシップを大学教育に取り入れる際の留意点などを定めた「インターンシップの推進に当たっての基本的考え方」、いわゆる三省合意が発表された翌年からインターンシップを取り入れています。2009年度に大学仲介型と自主開拓型の単位制インターンシップ、2012年度には長期型と海外型のインターンシップ、2013年度から障害を持つ学生を対象としたインターンシップを始めました。

2018年度に1年から4年まで継続して履修できる、全学共通のリエゾン型インターンシッププログラム「キャリアデザイン・インターンシップ(CDIS)」(選択科目)を開始、20年度で3年目に入ります。同大学キャリアセンターインターンシップ室長の関川伸哉教授と佐藤麻耶さんに、プログラム目的から内容、運営上のポイント、今後の計画までをお聞きしました。

1年でインターンシップの重要性に気付く

――「キャリアデザイン・インターンシップ(CDIS)」とはどのようなプログラムでしょうか。

佐藤さん 1年生の「CDISⅠ」から4年生の「CDISⅣ」まで連続したプログラムです。1年から4年まで継続して受講することによって、学生の自己成長や卒業後の就業力、生きる力を実践的に学ぶことを目指しています。プログラム開始から2年経過したばかりなので、20年度に「CDIS Ⅲ」が始まり、21年度の「CDIS Ⅳ」が終わった段階で全プログラム終了。今は成長途中といったところです。

――これまで開講されているⅠからⅡの具体的な内容をお教えください。

関川教授 「CDISⅠ」はインターンシップやキャリア教育、就職活動など全般に関する講義をし、その中で学生たちにインターンシップの重要性を気付かせる内容です。インターンシップは関係ないと考えがちな教育学部の学生から『インターンシップを通して社会との接点を持ち、世の中のことを知ることによってより良い先生になれると気付きました』といった感想があり、1年からインターンシップを意識させるという効果はあります。

internshiptfu1_1.jpg 福祉大のインターンシップを担当する関川教授

「CDISⅡ」は前期にインターンシップに行く事業所を決めたら、事業所を訪問して取材して記事にまとめ、事業所に内容を確認してもらって「事業所研究報告書」を完成させます。何の知識もなくインターンシップに行くよりも、業界・企業・仕事を理解した上で就業体験を始めた方が効果は高くなります。学生だけでなく、事業所も受け入れ前に「インターンシップカリキュラムシート」を作成します。就業体験中の5日間の午前と午後にどんな仕事をするのかを具体的に書いてもらいます。学生はどんな仕事をするのかを理解した上で就業体験をスタートできます。

インターン中には日報「インターンシップ研修日誌」を書き、終了後には事業所にも渡します。事業所の担当者はスケジュール通りにプログラムが進んだのかどうかを確認できます。最後、学生は「インターンシップ報告書」を作成し、こちらも事業所にも見てもらいます。事業所は学生がインターン中に何を感じ、何を学んだかを理解するとともに、事業所側の意図と学生の受け取りのすり合わせをしてもらいます。お互いに理解・納得した上で報告書を完成させ、事業所の方にも参加してもらって報告会を開催します。

1年かけてパイロットスタディを実施

――かなり考えられたプログラムになっていますね。18年以前のインターンシップで得た知見を活かしたのでしょうか?

関川教授 それもありますが、2018年度にパイロットスタディとして24人の学生を対象に、1年間かけて企業・業界研究型インターンシップを実施しました。まず事業所にインタビューをしたり講義を受けたりしながら企業研究します。その後、具体的にどんなインターンシップをするのかを事業所の担当者と一緒にディスカッションしながらまとめ、就業体験を経験し、振り返るといった内容です。まさに「CDISⅡ」のベースとなりました。

1年間の取り組みだったので受け入れ事業所も学生も大変だったと思うのですが、事業所からは「学生の考えがわかった」、学生からは「働くということがわかった」「価値の提供について考えられるようになった」といった感想があり、これまでのインターンシップでは得られなかったものが見えきました。

――受講者は何人ぐらい集まっていますか? また、受講している学生は科目が1年から4年まで続くことを承知した上で受講しているのでしょうか?

関川教授 18年度の「CDISⅠ」受講人数は約360人、19年度は「CDISⅠ」が約290人、「CDISⅡ」は約280人になりました。選択科目なので学生たちの自由意思で履修しています。かつてはインターンシップと聞いても分からない学生がいましたが、今はインターンシップへの関心が高くなっています。

 継続して受講することは強制ではないのですが、低学年の早い段階からキャリア教育としての動機付けのためにも受講するように伝えています。ただ、始まったばかりなので、学生たち全員が中身を理解した上で受けているかについては微妙なところです。我々も努力しなければいけませんね。

キャリア教育の中心にインターンシップを

――全学共通科目として単位制インターンシップを導入することに、学内からの反対の声はありませんでしたか? 大学教育とインターンシップやキャリア教育は別物と考える教員も多くいます。

関川教授 学部学科改編の中で、大学としてキャリア教育に力を入れるという方針を決め、その中心にインターンシップを据えると決めました。また、インターンシップ室として職員が常駐しているので、何かあれば相談できる体制も整えています。想像した以上に(笑)、教員側も好意的に協力してくれています。

福祉大では1年からゼミがあり、「インターンシップ報告書」には「指導教員名」を記入するスペースがある。これはゼミの指導教員が報告書の書き方、誤字脱字などをチェックして事業所に提出するためです。報告会では最後に学生が謝辞のスピーチをした際に、インターンシップ先の担当者だけでなく、報告書の添削指導をしてくれた教員にも『ありがとうございます』というコメントが目立ちます。教員と学生のいいつながりができていると感じています。

――インターンシップの受け入れ企業はどのようにして集めていますか? 最近では採用直結のインターンシップに企業の目が向いており、教育的なインターンシップに協力してくれる企業が減っているという話も聞きます。

internshiptfu1_2.jpg インターンシップ室の佐藤麻耶さん

佐藤さん 「TFUパートナーズ」という制度を作り、受け入れ企業とパートナーズ提携を結んでいます。今の学生はインターンシップも就職も企業名で選びがちですが、地元の宮城県内の企業にも良い企業はたくさんあります。インターンシップに行った学生が事業所の新たな魅力を発掘したり、企業も学生を受け入れることによって成長したりするようなwin-winの関係になれるような制度になっています。これまで付き合いのある事業所もありますが、2017年から多くの方にご協力いただき212法人になりました(20年3月時点)。今後の課題としては職種や業種のバランスをとることです。

関川教授 地元企業の魅力に気づいてもらうという意味では、インターンシップ先企業とのマッチングの段階では企業名を出さずに学生に選んでもらっています。企業側には、自社の魅力や求める人材、プログラム内容を丁寧に書いてもらい、学生にはその情報だけで企業を選ばせています。私たちも地元にはこんな面白い会社があるんだと、日々勉強させてもらっています。

協力事業所同士で情報交換

――学生の認知度が上がれば将来の採用にも結び付くとは思いますが、事業所側は受け入れ前に「事業所研究報告書」用の取材を受けたり、5日間のカリキュラムを作ったり、報告書のすり合わせをしたりと負担が大きい。不満の声は出ませんか。

関川教授 事業所の皆さんからは、「確かに事前の準備は大変だったけど、逆に準備ができていたからインターンシップが始まってからは楽だった」「学生はどんな業務をするのかを理解した上で参加しているから積極的に動いてくれていた」というご意見をいただいています。

また、事業所には報告会の際に学生の報告を聞くだけでなく、最初に全体会という形で東北福祉大学が考えるインターンシップ、報告書の目的などを説明し、私たちの考えを理解してもらっています。さらに、発表会の後には事業所の方10~20人で分科会を開き、受け入れて「大変だったこと」や「気づいたこと」「改善点」などを情報交換して共有する機会にしています。次年度参加予定の企業も入っています。

4年生は「人生を歩んでいくのか」を考える

――今年から始まる「CDISⅢ」はどのような内容になる予定ですか。

関川教授 3年生の前期ではインターン先の事業所を決めてから、事業所と身につけたいスキルなどを相談しながらプログラムを一緒に作り、インターンに行きます。後期にはパートナー事業所に限らず自主開拓型インターンシップに。これまでに行った事業所でさらに経験を積んでもいい。これは1day含む5日間以上の参加を計画しています。

4年生はまだ確定していませんが、本当の意味でのキャリア教育を目指しています。仕事を通して人生の豊かさを作り出すことがキャリアだとすれば、働く前に仕事を通してどういう人生を歩んでいくのか、そのためにはどんな準備が必要なの かを一緒に考える時間にしたい。

今までのキャリア教育は就職活動、もしくは就職がゴールになっており、その先の生き方をあまり考えていませんでした。仕事の先にある人生を考えずに働き始めてしまってギャップに苦しみ、その結果3年以内に離職してしまう若者が減らない。3年目を乗り越えるためには就職が決まったら遊ぼうではく、そこで卒業後の人生について考えてもらう。これをキャリア教育の総仕上げにすれば、従来と違った人づくりができると思っています。

佐藤さん 学生たちが社会に出たときに福祉大のインターンシップをやって良かったなって思ってもらえるようになればいいと思っています。そのためにも、卒業後の評価をしっかり測れるようにしていかなければなりません。卒業後にその価値に気づいて後輩たちに向かって「こんな大変なこともあったけど、今こうして仕事で活きているよ」って言ってもらえるようになったらいいかなと。
(編集部 渡辺茂晃)

※取材は3月に実施しました。新型コロナウイルスの影響で、今年度のインターンシップは中止となりました。現在は来年度に向けて新たなインターンシッププログラムを模索しているそうです。

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