キャリア支援担当者が令和のキャリア支援について考えた(上) 文科、経産、厚労3省の施策とは?

国立大学キャリア支援担当者情報交換会

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国立大学キャリア支援担当者情報交換会は8月23日、第5回目となる会合を開きました。同会には全国58大学から93人のキャリア教育・就職支援担当者が集合。経団連の採用・就活ルール廃止によって学生のキャリア支援が大きく動くなか、さまざまな課題について話し合われました。当日の様子を紹介します。


全体テーマ「新しい時代におけるキャリア教育・支援の方向性~平成を振り返り、令和を展望する~」を掲げて、第一部シンポジウム「これからの国立大学に求められるキャリア教育・支援の方向性」では、文部科学省、経済産業省、厚生労働省のキャリア関連政策に関する講演がありました。


キャリアガイダンス制度化の背景と思い

文部科学省高等教育局大学振興課大学改革推進室の髙橋浩太朗室長補佐からは、大学設置基準に「キャリアガイダンス(社会的及び職業的自立に関する指導等)の制度化」(平成22年2月改正、平成23年4月施行)を追加した背景から、現在・今後のキャリア教育までの話がありました。


制度化当時、キャリア教育を実施している大学は8割に達していました。その中で、なぜ制度化が決まったのでしょうか。髙橋さんは「就職氷河期によるニート・フリーター問題やリーマンショック後の内定取り消し問題を背景に、社会経済の変動により理不尽ともいえるほどの大きな影響を受ける大学生の就職については、学生をサポートできるのは大学しかないという思いがあった」と言います。


制度化によって、キャリア教育の教育課程内実施大学は平成20年82%(612大学)から平成28年97%(713大学)に、教育課程外での実施大学も平成20年49%(365大学)から平成28年95%(701大学)にまで増えています。「以前からも取り組んでいる大学はありましたが、制度化によって大学のキャリア教育は着実に広がっている」と評価しました。


今後のキャリア教育はどうなるのか。平成30年11月に出された「2040年に向けた高等教育のグランドデザイン(中央教育審議会答申)」では、直接「キャリア教育」「就職支援」に言及している箇所は少ないものの、関連する部分として「学修成果の把握・可視化」について説明がありました。「企業からは優秀な人材がほしいという要望があり、優れた教育を行っている大学や優秀な人材をいかに見つけやすくするかというのが可視化です。学修成果ということで教務担当が中心となりますが、これは間違いなく就職にも関係します」と。キャリア教育をさらに深めるためには、教務担当を含めた各部局との連携が重要になるとしました。


これからの人材マネジメントとは?

経済産業省経済産業政策局産業人材政策室の上浜敏基室長補佐からは、グローバル化・デジタル化による産業構造の変化、それに伴う企業の人材マネジメントや働く人のキャリアに対する意識の変化について話がありました。


第四次産業革命は、労働市場の構造にも影響を与えている。米国では、製造職や事務職の中スキルから、低スキル・高スキルの職への移動(両極化)が進んでおり、日本でも同様の現象が発生し始めている。経済成長を支える原動力は「人」であって、社会全体で人的資本への投資を加速し、高スキルの職に就ける構造を作り上げることで、一人ひとりの能力発揮を促すことの必要性を指摘しました。


生産性を決定する最も大きな要因として、「経営の質」をあげ、その中でも成果に応じた処遇・昇進などが、米国に比べスコアが低いと言います。また、企業はリソースを新規分野やリスクの高い分野に配分し、将来の成長基盤となる新たな事業を飛躍的に進める必要があり、その際に企業本体から独立した「出島」の活用が有効であることが挙げられました。


人材マネジメントの面では、「これまでは単一文化、長期雇用などの日本型マネジメントが機能していたが、グローバル化・デジタル化・少子化高齢化、個人の働き方の多様化が進む今後は従来型では立ち行かなくなる」と。これからは新卒、中途、再入社、リスキル・再配置など多様なキャリアを前提とした人材マネジメントが必要になり、それに合わせて個人は自律的なキャリア形成が求められるようになるとのことです。これによって企業と個人が対等な緊張感のある関係になるだろうとまとめました。


キャリアコンサルタント、ジョブ・カードの現状

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厚生労働省人材開発統括官付若年者・キャリア形成支援担当参事官室の寺岡潤室長補佐から、大学に幅広く配置されているキャリアコンサルタントと学生も利用できるジョブ・カード等について説明がありました。


キャリアコンサルタントは平成28年4月から国家資格化され、5年ごとの更新制とすることによってキャリアコンサルタントの知識と技能が確保されるようになったと言います。現在では4万3189人のキャリアコンサルタント(令和元年4月末)が登録されており、活躍の場は企業40.2%、ハローワーク等の需給調整機関23.8%、学校等教育機関20.2%などに広がっています。


次に、職業生活の節目でキャリアコンサルタントが従業員の主体的なキャリア形成を支援する「セルフ・キャリアドック」という仕組みや「ジョブ・カード制度」の紹介がありました。セルフ・キャリアドックはキャリアコンサルタントが労働者のキャリアの節目でキャリアコンサルティングと多様なキャリア研修を組み合わせて、キャリア形成を支援する制度。ジョブ・カードは資格や学修履歴、職務経験などを記入して応募書類等に使えるものです。「ジョブ・カードは学生用もあり、専攻分野、論文、インターンシップ先、アルバイト、ボランティアなどを書き込み、それを通して自身の卒業後のキャリアを考えるツールとして使えます」。


最後に、離職率についての話がありました。大卒者の3年以内離職率は約3割で、この数値に変化はないものの、安易に離職する事例も見られると指摘。「労働条件の悪い企業から早いうち離職することは必ずしも悪いことではないのですが、『やりたい仕事ができなかった』といった理由での早期離職は、キャリア教育・キャリア支援で防ぐことができる可能性がある。こうした点については大学と一緒に協力しながら解決したい」と締めくくりました。


講演後は会場からの感想や質問を受ける時間があり、最後にファシリテーターの家島明彦先生(大阪大学)が全体をまとめ、第二部の分科会に移りました。