オツトメ先生の教室(中) 大学名に自信がないFラン大学生

やる気スイッチの押し方遠山 直(リクノアカデミック代表取締役)

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大学生の就職支援や企業の人材育成サービスを提供するリクノアカデミック代表取締役の遠山直さんの「オツトメ先生の教室」の2回目です。"どうしようもない若者"だった遠山さん自身の話と未来ある学生の可能性についてです。

現場の外の景色が見えてきた

前回は私がなぜ学生たちに失敗の重要性を教えているのかを紹介しました。講義では失敗することと同じくらい大切なテーマがあります。"可能性"です。行動次第で未来は開けるものだということを理解してもらうために、あえて"過去の自分"を引っ張り出して、「ほら見てみろ! このどうしようもない若者を!」と自虐的に伝えるようにしています。

少しだけ、どうしようもない若者(私)の過去にお付き合いください。なぜ、私が大学進学の道を選んだかをお話しします。

高校を中退した後、多くの過ちを犯してきたもののなんとか立ち直り、建設業界での日々は充実したものでした。最初の1年は毎日、師匠から叱咤、叱咤の日々でしたが、負けん気は強い方だったので着実に成長することができ、3年後には19歳の若造が50人の職人をまとめる職長を任されるまでになりました。言わずもがな、頑固な職人たちです。一番近い年齢でも30代半ばだったことを考えると、日々マネジメント方法には苦心したことを今でも覚えています。

そんな折、建設業で独立するかどうかを考えるようになっていましたが、"建設業の職人"という社会的地位に疑問を抱くようになっている自分がいました。必死で仕事をしていた時は気にもとめなかった現場の外の景色を、今までより眺めている自分がいたのです。足場の上から見る、街を歩く人々はビシッとしたスーツや綺麗な服を着ています。もちろんそこにはホコリなんかついていません。

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街を行く学生も皆、楽しそうでキラキラ光って見えました。それは今でも忘れません。「同じ年頃の学生には将来の選択肢はどれだけあるのだろう」「これから多くの人と出会うことができるのだろう」「その分だけ可能性は広がるのだろうな」。そんなことを思い浮かべる日々が続いていると、ある日将来の自分が想像できてしまったのです。

それは後悔の多い人生を過ごした未来の自分。学校に行っていれば、転職していたら、自分の人生はもっと彩り豊かなものになっていたかもしれない。そんなことを考え、自分の子どもにはそんな思いをさせないようにと「勉強しなさい!」と口うるさく言う自分。今の時代、学歴が全てではないが未来の選択肢が広がるという点では一理ある......。

大学ネームに自信がない

文部科学省の2019年度データによると大学への進学率は53.7%で過去最高になっています。高校生であればクラスの過半数が大学へ進学している状況は大変恵まれた環境であることを学生に再認識させることが大切です。しかし、受験勉強が思うようにいかずFランク大学に通う学生や、志望校に入れず滑り止めの学校に通う学生たちがいます。彼ら・彼女らは自分たちが通う大学ネームに自信が持てず、さもこれからの人生が決まってしまったかのように自己肯定感がとても低い傾向にあります。

「そんな学生たち、どうにかならないだろうか? 一度、語りをぶち込んでほしい」

昔からよく知る大学講師に相談されたことがきっかけで、現在の私の仕事、人のキャリアに関わる仕事につながることとなりました。実際の講義では、私自身の過去を教材として物事の考え方や行動指針、今後の社会において必要なスキルはどんなものか。そしてそれをどのように学生のうちに経験として積み重ねるのか、なぜそれが大事なのかを伝えるようにしています。

滑り止めに通っているから? 偏差値が低いから? そんなことは関係ありません。大切なのは"これから何をするか"です。社会に出て仕事ができる有能な人材というのは、"イメージ"が豊富であること、それをメンバーと共有・教示できることが共通項として挙げられます。そして、そのイメージの源泉こそが"経験"なのです。過去の数々の経験が最初は疎らな点となっていますが、それが線となり、面となることで様々なイメージが可能になります。

恵まれた環境に気付けるか

とはいえ、学生にとっては、自分たちと同じ年の頃に建設現場でホコリにまみれていたやつから、偉そうにキャリアについて語られているのだからたまったものではないでしょう。しかし、講義も終盤に差し掛かると、自身と私を比較してどれだけ恵まれた環境にいるか、現状を振り返り、何が足りないかを認識し、言い訳がきかず素直に聞かざるを得ない感情が出るのだと思います。

そんなこともあってか「順風満帆のエリートの講話を聞くよりも楽しかった!」「自分を見つめ直すことができた!」「後悔しないように行動に移す!」などなど、学生からの感想はそんな気づきを示すものが多数を締めます。

私は学生に自分と同じことをやれというつもりはないし、成功体験を語って「どうだ、すごいだろう!」というために登壇しているわけではありません。周囲に流されて生きることがどういったことになるのか、例え自分の望まぬ場所にいたとしても、年齢がどうであれ、環境がどうだろうと人生は切り開くことができる。そういう可能性がまだまだ君達にはあるんだ! ということを伝えることが大事だと考えています。

「今、できない=将来もできない」ではない

「あなたは特殊な体験をしている。だから学生も共感するんだ」という指摘もあるかもしれません。確かに私は特殊な体験をしているかもしれません。私にしか伝えられないこともあるでしょう。しかし、人生が一人ひとり違うように、皆さんも様々な経験をしてきているのではないでしょうか。もし、自分にはそんな特殊な経験はないというのであれば、それは"今無い"だけのことです。

「コミュケーションが苦手」「人前で発表することができない」とリアペに書いている学生もいます。それはあくまで"今、できない"だけのことであるにも関わらず、これから一生できないかのように自分の可能性を狭めてしまっているのです。そんなマインドはどうか捨ててほしい。大事なのはできないことに対してこれから何をするかなのですから。大人ももちろん同じ。成長はいくらでもできるのです。

これまで多くの機会を頂きながらそんな話をしてきましたが、講義の終わりに興奮したようなレスポンスをくれることは一定の評価の証なのかもしれません。私の大学での講義や、提供しているサービスから少しでも何かを感じ、それを行動に移すことができる若者が増えていけば、もっと活気溢れる、新しい"今時の若者"を社会に送りだすことができると強く信じています。(つづく)

プロフィール

遠山 直(リクノアカデミック代表取締役) 遠山 直(リクノアカデミック代表取締役) 中学卒業後、都内私立高校を2カ月で中退、東京少年鑑別所に収監され、建設業の職人(型枠大工)として6年間働き50人の職人をマネジメント。その後、大学へ進学。新卒でエレクトロニクス商社へ入社、2年目に万年赤字営業所の所長となり黒字営業所への転換、退社するまで黒字を維持する。現在は求職者の就職支援や企業の人材育成サービスを提供するリクノアカデミック株式会社の代表を務める。