氷河期再び? 22年卒の就職支援をどうするか

漂流する就活

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新型コロナによって2021年卒業予定者の就職活動に大きな影響が出ています。就活生から就職先として人気の高い航空2社が21年卒の採用活動を中止するなど、就活生に動揺が広がっています。ようやくインターンが始まった22年卒は、就職氷河期の再来を心配する声が聞こえ始めています。22年卒の就職環境がどのようになり、どんな就活支援が必要になるのでしょうか。

ANA・JALグループは21卒採用中止

ANAグループに続いて、JALグループも21年春卒業予定者の採用を中止すると発表しました。ANAグループはすでに内定した約600人の専門学校生については内定を取り消さないものの、残り約2600人の採用を諦めました。JALグループもすでに内定を通知した150人は採用し、自社養成パイロット訓練生と企画職の障がい者採用は継続するとしていますが、グループ全体で計画していた約1700人の採用のほとんどを見送ることになりました。

採用中止だけでなく、内定取り消しも出ています。アパレル「イッセイミヤケ」が内定を取り消したというニュースがネットで話題になりました。現在、新型コロナ感染の第二波が世界的に広がっており、企業業績に与える影響はまだまだ先が見えない状況です。

過去3度の氷河期では?

新型コロナの影響が長引けば長引くほど、心配されるのがこれまでの就職氷河期を超える就職難がやって来ることです。就職氷河期は過去30年で3回ありました。右のグラフは文部科学省が発表している「学校基本調査」を基に1988年から2019年までの就職率を算出したものです。1回目はバブル崩壊後で92年卒の88.1%から93年卒84.8%、94年卒79.2%と、2年で8.9ポイント落ちています。2回目が拓銀、山一などがつぶれた金融危機で98年卒の73.4%が99年卒67.8%、2000年卒63.3%へと、2年で10.1ポイント下落。そして、直近が08年のリーマン・ショック後で、09年卒の79.3%から10年卒の71.6%へと急降下しています。

glacialage_1.jpg ※就職率は学校基本調査のデータを基に、分子を就職者、分母を卒業者から進学者、臨床研修医を除いて計算

リーマン・ショックを振り返る

バブル崩壊と金融危機は国内だけの事情でしたが、リーマン・ショックは世界全体に影響を及ぼしており、今回の新型コロナの影響に近いと言えます。22卒以降の就職環境を推測するために、当時の状況をもう少し詳しく見てみましょう。

リーマン・ショックが起きたのは08年9月のことです。アメリカの大手投資銀行「リーマン・ブラザーズ」が破綻し、世界的な金融・経済危機が起きました。08年の就職率は、金融危機からITバブル崩壊によって起きた就職率低迷期(63-64%)から回復し、04年から5年続けて上昇した結果、81.0%になっていました。

09年卒の採用活動がはほぼ終了した時期にリーマン・ショックが起きたため、就職率は79.3%と前年比1.7ポイント減に留まっていました。影響が出たのが10年卒からで、先にも説明したように1年で7.7ポイントも悪化しました。それから11年卒、12年卒と71%台が続き、13年卒になってようやく77.3%に回復しました。企業業績に与える影響はリーマン・ショック並みかそれ以上と言われており、22年卒以降から2、3年は就職氷河期になる可能性があります。

100社受けても内定なし

就職氷河期に備えて、2022年卒以降の就活支援はどのようにしたらいいのでしょうか。ここではリーマン後の氷河期に就活を経験した人の声を紹介します(『「キャリアと転職」に関する意識調査』<日経HR調べ、2020年2月実施>より)。

「100社受けても内定がもらえず内定取り消しを2回経験。リーマン・ショック後(09年)で前年が売り手市場だったために就職課やハローワークにはやる気がないから内定がもらえないなどと罵られ、今も就活はトラウマ」
「企業側の誠実さが見えない就活時代だった。就活生は繰り返し否定され、自分も周りも非常に辛い経験だった」

10~12年の学校基本調査を見ると、大学を卒業したものの定職に就いていない人(アルバイト含む)が3年連続で10万人を超えていました。「100社受けて1社も内定を得られない」といった話も少なからずあったのでしょう。当時の就活の厳しさが分かるコメントです。

業界・企業研究不足を嘆く声

次に「こうしておけばよかった」という声を紹介します。

「セミナーやインターン、OB訪問などを自分の興味関心にとらわれず幅広く参加しておくべきだった」
「もっと異業種も受けるべきだった」
「すぐに入社を決めてしまったので、もっと多くの企業を調べ受ければ良かった」
「早々に就職が決まったため、他の企業研究を怠っていた」
「企業研究と自己分析が甘かった。 新卒採用という枠組みに捉われすぎていたため、まわりが就職する中焦って内定先を決めてしまった」
「社会に出て働くことのイメージができていなかった。様々な職種・働き方があることを知らなかった。もっと幅広く会社を見ても良かった」

就職はできたものの、業界研究や企業研究が不足していたことを反省する声が多く見られました。おそらく、実際に働いてから学生の時には知らなかった優良企業の存在に気づき、もっと視野を広げて多くの企業を見ていれば条件の良い会社に就職できたという思いがあるのでしょう。学生の目は採用を中止した航空2社のようなBtoCの大手企業に目が向きがちですが、BtoB企業を含めて幅広く業界・企業を見ていけば採用意欲旺盛な企業にたどり着けるはずです。こんな時代には安定しているように見える大手有名企業に就活生は集中してしまうでしょう。その結果、狭き門に学生が集中して「100社受けても......」となってしまいます。そうならないためにも、幅広く業界を見ることが内定への近道になります。

セレンディピティーの創出を

例年であれば、インターンシップ参加者希望者向けの合同企業説明会などに参加すれば、これまで学生が知らなかった企業との接点を持つことができました。特に、最近のイベントではスタンプラリーがあり(企業ブースを回ってスタンプを押してもらい、一定数以上に達すると金券等がもらえる)、「スタンプ目的で訪れた企業が意外に良い会社だった」などという声もよく聞かれました。

ところが、今年はコロナの影響でリアルイベントが開催されず、学生の知らない企業との接点、いわゆるセレンディピティー(偶然の出合い)の機会がなくなってしまいました。オンライン合説では、学生は知っている企業のウェビナーを予約して視聴することになります。リアルと違って人数制限もなく、「予約できなかったから他の会社を見てみよう」という動きもありません。

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では、リアルイベントが開催されずセレンディピティーを期待できない今、どうやって学生の視野を広げたらいいのでしょうか? 基本は「業界研究セミナー」になります。その中に、BtoC企業とBtoB企業が一緒に登場するコーナーを設ける、例えば人気企業とその取引先企業、人気企業とグループ企業などの座談会などです。人気企業単独では1社だけの話で終わりますが、複数社を組み合わせれば、すべての会社の話を聞くことになります。また、サイシードという会社が開催する合同企業説明会では、リアル・オンライン関係なく、イベント冒頭で全参加企業が1分間のPRタイムを用意しています。同社のイベントでは「知らない会社だったけど自己紹介が面白いからブースに行ってみた」という学生も多いと聞きます。サポートする側が、セレンディピティーの場をいかに創出するのかが、22卒向けの就活支援では重要になりそうです。
(渡辺茂晃)
写真素材/PIXTA

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