これからの就活ルール(2)本当に採用するのか? 留学生と文系院生

漂流する就活渡辺茂晃

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経団連と大学関係者からなる「採用と大学教育の未来に関する産学協議会」が発表した「中間とりまとめと共同提言」。前回「これからの就活ルール(1)新卒一括採用から通年採用へ?」は新卒一括採用がなくなって通年採用に移行するのか? といった話について書きましたが、今回は外国人留学生や大学院生の採用や学修成果の評価などについてです。提言の中ではダイバーシティやグローバルを意識して外国人留学生や大学院生を積極的に採用し、学修成果を重視すべきとしています。実際の採用現場はどうなっているのでしょうか。

「これからの就活ルール(1)新卒一括採用から通年採用へ?」はこちら
「これからの就活ルール(3)インターンシップ=就業体験はどこへ?」はこちら
「これからの就活ルール(4)タスクフォースでは何が決まるのか?」はこちら

(2)多様な人材の採用の方向性と課題
 企業は、ダイバーシティを意識して、外国人留学生や日本人海外留学経験者を積極的に採用する方向。また、ジョブ型採用の割合が増大し、グローバルな企業活動が拡大する中で、大学院生を積極的に採用する方向。
(「中間とりまとめと共同提言-概要-」より)

外国人留学生の35%しか国内で就職していない

現在、日本人海外留学生については、海外現地でのマッチングイベントや帰国するタイミングの6月後半から7月中旬に開催されるマッチングイベントがあり、夏・秋採用も含めて就職する機会はあります。一方、外国人留学生は就職で苦戦をしています。日本学生支援機構によると、平成29年度に大学・大学院を卒業・修了した外国人留学生(24,636人)のうち日本国内で就職した学生(8,623人)は全体の35%です。これについては、大学側の留学生に対する就職支援体制が充実していないこと、それに伴う留学生の就職活動に関する知識不足が問題点として挙げられます。企業側については、日本語能力重視、日本人と同じ採用方法の実施、海外にはないメンバーシップ型雇用などが留学生の国内就職における阻害要因と指摘されています。

大学では最近になってようやく留学生支援部署と就職支援部署の連携を図っているところや、就職支援部署に留学生担当者を配置するところも増えてきましたが、支援体制はまだまだ遅れている状態です。企業側もダイバーシティの観点から留学生を積極的に採用する企業は少なく、日本人学生の採用数の不足を補うために採用している企業が少なくありません。


大学院生の就職率は文理で差

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次に大学院生について。企業は理系大学院生を積極的に採用していますが、文系については積極的な姿勢は見られません。文部科学省の「平成30年学校基本調査」で大学院生の修了者数(進学者数を除く)に対する就職者の比率を見てみましょう。大学院生全体では86.2%(学部生86.6%)ですが、専攻別に見ると人文科学系61.2%(同85.7%)、社会科学系70.4%(88.5%)、理学系91.7%(86.6%)、工学系95.1%(92.8%)となってしまいます。学部生の文理差に比べると大学院生では大きな開きがあることが分かります。

文系大学院生の研究姿勢を見ると、提言で挙げている「Society5.0時代の求める人材像に求める能力」(前回の原稿で紹介しています)が不足しているとは思えません。企業が文系院生の知識や経験は仕事では役立たないというネガティブなイメージを持っていることも一因と考えられます。企業の採用担当者は理系学生の選考ポイントとして「研究内容だけではなく、研究に対する姿勢も見ている」と言います。文系大学院生の積極的な採用が進むかどうかは、企業側が文系院生の研究内容や姿勢への理解が必要でしょう。


文系の学修成果を評価するのか?

(3)学修成果の評価と評価する時期
学修成果の評価:より高い専門性を重視する傾向となれば、卒業・学位取得に至る全体の成果を重視すべき。卒業要件の厳格化を徹底すべき。

(「中間とりまとめと共同提言-概要-」より)

企業は本当に「卒業・学位取得に至る全体の成果」を重視するのでしょうか。2004年とやや古くなりますが、企業の考え方が分かる調査結果「企業の求める人材像についてのアンケート結果」を見てみましょう。経団連が会員企業に対して実施した調査で、「採用選考にあたっての人物評価の基準と最近の学生に対する評価」を聞いています。事務系と技術系で「志と心」「行動力」「知力」の重視度を見ると、技術系については3つの力を同等に重視していますが、事務系に関しては「知力」を重視していないことが分かります。

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また、2010年に大学評価・学位授与機構で「大学の学習成果」に関する研究で協力した際の調査も紹介します。就活生が選ぶ人気企業上位100社を対象に「大学の成績表を重視するか?」「ゼミ・研究室は重視するか?」「大学で学ぶ専門知識に期待するか?」を聞きました。その結果、「成績を重視するかしないか」の問いには、「重視しない」が60.0%と半数を超え、「重視する」が15.6%、「参考程度」が17.8%、「理系のみ重視する」が6.7%でした。「ゼミ・研究室を重視するか?」という問いには「重視しない」が66.7%、「重視する」が8.9%、「理系のみ重視する」が11.1%、「参考程度」が13.3%。「大学で学ぶ専門知識に期待するか?」を聞いたところ、「期待しない」が51.1%、「期待する」が17.8%、「理系のみ期待する」が20.0%、「職種による」が11.1%でした(「大学の「学習成果」を軸とした教育・評価・エビデンスの発信を可能とする体制についての研究」より)。

そして現在、企業の考え方は変わっているのでしょうか? 最近、採用選考の過程で履修科目と成績を提出させる企業が増えています。ただ、大学が発行する成績表ではなく、民間企業のサービスを利用しています。これは学生がWEB上で履修履歴と成績を登録すると、その情報が企業に送られるというものです。日経HRが2019年卒者を対象にした実施した調査では、「企業から就活サイトなどに履修履歴を登録するように指示を受けたことがある」学生は47.4%と半分に迫っています。しかも1社ではなく複数社から指示を受けている学生が多いことも分かりました。

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ようやく企業も学生の科目履修に関心を持ち、大学での学修姿勢に興味を持ち始めたかのように思った方もいるかもしれませんが、そうでもないようです。登録した学生に対して「面接時に履修履歴など学業についての質問があったか」と聞いたところ、「質問があった」と回答したのはわずか23.9%でした。履修履歴や成績をデータとして集めているものの、そこに興味を持って面接で質問する企業は4社に1社程度なのです。これまで何度も企業・大学双方から大学の学修成果を重視するような提言がされていますが、企業の選考での対応を見る限り、まだまだ道は険しいと言えるでしょう。

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これは企業に一方的に非があるわけではなく、大学側も卒業要件の厳格化や産業界のニーズに対応した教育を実施できているのかという点も大事になります。企業と大学がお互いに信頼関係を築き、協力しながら、Society5.0時代に活躍できる人材育成を進めることができれば、企業側の学修成果への関心も高まるでしょう。

(『学校法人』6月号掲載記事を基に再構成)


プロフィール

渡辺茂晃 渡辺茂晃(株式会社日経HR) 1991年日経事業出版社入社、高齢者向け雑誌編集を経て、96年日本経済新聞社産業部、98年就職雑誌編集、2001年日経就職ガイド編集長、05年日経就職ナビ編集長、09年大学評価・学位授与機構「大学の「学習成果」を軸とした教育・評価・エビデンスの発信を可能とする体制についての研究」研究員、10年経済産業省「社会人基礎力育成グランプリ」運営、12年10月文部科学省「産業界のニーズに対応した教育改善」事業支援、14年桜美林大学大学院大学アドミニストレーション研究科非常勤(~19年4月)、日本経済新聞人材教育事業局「日経カレッジカフェ」副編集長、15年中小企業庁「地域人材コーディネーター養成事業」主任研究員、16年経済産業省「健康経営優良法人認定制度」広報担当、内閣府「女性リーダー育成プログラム」主任研究員、18年4月から現職。著書『実況中継 これまでの面接VSこれからのコンピテンシー面接』『マンガで完全再現! 面接対策』『人気企業内定者に聞いた 面接の質問「でた順」50』など。