就労移行支援事業所 LITALICOワークス(上) 学生の「困りごと」を聞くことから始めよう

就職バリアフリー

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発達障害のある学生の「就職支援」を課題としている大学が増える中、「障害のない社会をつくる」をビジョンに掲げ、障害者の就職定着率※88%にまで上げている就労移行支援事業所の「LITALICO(りたりこ)ワークス」。全国80拠点以上を展開し、2019年からは大学との連携も始めています。障害者の雇用について、障害者、企業、大学の3者から相談を受け、それぞれの課題解決に尽力する同事業所の白石真基さんと伊藤渚さんにお話を聞きました。
※発達障害を含む障害者全体の就職半年後の定着率


学生相談窓口、教職員、キャリア支援センターなどで情報共有を

――発達障害学生の就職支援について、大学からの相談はどのような内容が多いのでしょうか。

白石さん 最近では「悩みを抱えた大学2年生が学生相談窓口に何百人と来ているが、その学生たちが3年となりキャリア支援センターに来た際に適切に対応できるかどうか」といった相談がありました。個人情報保護の観点から、大学内の学生相談窓口や教職員、キャリア支援センターなどの部署間で情報共有ができず、就職活動時期になってそういった学生一人ひとりの悩みを一から理解し、就職支援をしていくのは難しいという内容です。こうした学内の連携については、低学年時に学生が相談窓口にきた時点で個人情報を共有する旨を本人の同意を得て、早めに支援体制をつくるのがポイントだと思います。

barrierfree1_2.jpg 伊藤 渚(いとう・なぎさ)さん
LITALICOワークス 事業部 事業推進統括グループ
地域開発グループ地域連携担当員

伊藤さん 発達障害と診断されていないグレーゾーンと感じる学生の対応を課題としている大学も多いです。グレーゾーンの学生は、自分でカリキュラムを組むことが難しかったり、忘れ物が多かったりなど、友人や教員などが「発達障害ではないか」と感じることがあります。ただ、本人にそれを伝えることが難しいゆえにそのまま社会に出て生きづらさを感じるケースは少なくありません。障害者手帳を持っている学生には配慮すべきことがありますが、グレーゾーンの学生に対しては大学もどのような支援をしたらいいか迷いうことは多く、福祉サービスにもつながりづらいのが現状です。

グレーゾーンの学生が、何に困っているかを第一に考える

――グレーゾーンの学生たちは、発達障害ということを指摘するなどして顕在化させたほうが就職にも今後の生活にもいいということでしょうか。

白石さん 正しいかどうかは分かりませんが、私はグレーゾーンの学生に発達障害だとあえて知らせることはないと思っています。普通の人と違うと感じる部分を「障害」とくくってしまうのではなく、大切なのは、あくまでもその学生の困りごとを解消することではないでしょうか。障害という言葉に、ネガティブな印象を持たれる方もいらっしゃいます。本人は「発達障害」だと認識していなくても、「何に困っているのか」は分かっていますし、話してくれると思います。

例えば「友人とのコミュニケーションに困っています」「自分の中にあるこだわりが強すぎて困っています」とか。話をすれば困りごとが分かりますので、障害だと決めなくても、困っていることを解消することはできます。「障害」という名称は、困りごとのある方をラベリングすることを目的としたものではありません。第一に考えるべきことは、どのような特性があろうとも本人が健やかに営むことのできる社会づくりだと思っています。

伊藤さん 発達障害の知識・理解、障害者雇用をはじめとした多様な働き方を、低学年のうちに親御さんも含めて説明会を実施する大学もあります。そのような場で、客観的に聴講することで「もしかして?」と自身で気づくこともあります。学力があれば就職も問題ないと考えている方も多いですが、「学力」と「社会で問題なく働いていける」というのは分けて考えるようにはしたほうがいいと思います。

私たちは、発達障害のグレーゾーンにいる学生の今の困りごとが、"将来働き始めたときにどのような問題になるか"社会の側にどのような障害がありそうか"を一緒に考えています。たとえ発達障害によって社会の中でやりづらさがあるとしても、それが別に悪いことではないと思っていただきたいのです。

信頼関係を築くまでアドバイスはしない

――実際にグレーゾーンではないかと思われる学生がキャリア支援センターに相談に来た際は、どのようなことに配慮すべきでしょうか。

伊藤さん 私たちは、相談に来た方のお話を聞く中で「発達障害の傾向があるかな?」と感じることはありまが、その人の話をいったん全て聞く、ということに徹しています。話している内容がよく「分からない」ことや、明らかに事実ではないだろうという話をする場合もありますが、そういうことも含め、その人の発言として捉えるようにしています。

何度かやりとりして信頼関係を築くまでは、アドバイス的なことは言いません。アドバイスのなかで否定につながる言葉があると、そこから何も話してもらえなくなったり、ここでは自分の悩みは解消されないと思ったりして、それ以上は話してもらえなくなってしまうからです。

barrierfree1_1.jpg 白石真基(しらいし・まき)さん
LITALICOワークス 事業部 事業推進統括グループ
プロモーショングループマネージャー

白石さん 先ほど、学生の困りごとに対してアプローチしていくのがいいと話しましたが、やはり相談に来た学生に「今日はどうしてここに来たのか」「今何に困っているのか」という点を聞き、これを一つずつ紐解いていきます。その学生が「本当に困っていることは何か」を見つけることを第一に接するようにしています。

自分の困りごとをどう伝えていいか分からないという学生には、自分の言葉で回答してもらうオープンクエスチョンと、イエスかノーで回答するクローズドクエスチョンを使い分けて話をしてみるのも手です。これによってどのくらいコミュニケーションが取れるのかを測ることができます。(つづく)

(編集部 北原理恵)