就労移行支援事業所 LITALICOワークス(下) 大学は「困りごと」解決のネットワークに

就職バリアフリー

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発達障害の方の就労支援について、「LITALICO(りたりこ)ワークス」の白石真基さんと伊藤渚さんに話をお聞きする後半です。今回はLITALICOワークスなどの就労移行支援事業所の役割や利用法について聞いています。

何より『自分に合った仕事で長く働けるか』どうかを大切に

――就労移行支援事業所についてよく分からないという方もいらっしゃいますが、LITALICOワークスでは、どのような就労支援をしているのでしょうか。

白石さん LITALICOワークスは、障害者総合支援法に基づいて運営している就労移行支援事業所です。障害のある方が一般企業で長く安心して働くために必要な知識の習得やスキル向上のサポート行います。まずはご本人と、本人が働くことに「どう困っているのか」の相談から始まります。何が得意で何が苦手かといった自己分析の基礎のキソとなるようなチェックするシートを用いてそれを確認しつつ、ビジネスマナーの習得やストレスコントロール、SST(ソーシャル・スキル・トレーニング)、パソコンスキルなど、200もの独自のプログラムを用いてスキルを磨いていきます。

その後、インターンシップ(企業に赴き職業体験する)を経て就職活動を開始します。何より「自分に合った仕事を見つけ長く働く」ということを大切にしていますので、内定が決まったあとも、雇用前実習をしたり、就職前面談をしたり、様々な角度から何度も何度も「その仕事でいいのかどうか」を本人と確認していきます。

伊藤さん 発達障害の方は転職を繰り返してしまうケースが多く、就職することと同様に働き続けるという課題もあります。40回もの転職の後、LITALICOワークスに支援を求めに来た人もいます。私たちスタッフも事業所内で一緒に就職準備をする中で、本人の特性や個性への理解を深めながら、仕事へのアドバイスをするようにしています。

barrierfree2_1.jpg 左が伊藤 渚(いとう・なぎさ)さん、右が白石真基(しらいし・まき)さん

企業には、発達障害の方に配慮してほしいことを明文化して確認

――発達障害の方を採用することに不安を感じている企業にはどう対応しているのですか。

白石さん 企業には、「合理的配慮※に関する総合検討資料」を入社前に作成して確認・合意してもらっています。この資料は、入社される方の特性や、業務環境において企業側に望む配慮が明記されています。同じ障害名であっても、特性は十人十色です。例えば「口頭指示を聞くことは苦手ですが、メールなど視覚で読み取ることは得意です」とか「メモにして渡してくださいますか」など。他にも「満員電車が苦手なので出社時間を遅くしていただけますか」といったことまで、一人ひとりの配慮の内容を細かく盛り込みます。明文化することは、その方への理解と、互いが安心して働くことのできる環境づくりの一歩です。
※障害のある方々の人権が障害のない方々と同じように保障されるとともに、教育や就業、その他社会生活において平等に参加できるよう、それぞれの障害特性や困りごとに合わせておこなわれる配慮のこと(LITALICOジュニアのホームページより抜粋)。

また、企業の方々が障害への理解を深めたいというニーズに応え、「発達障害とは」「精神障害とは」という勉強会も定期的に開催しています。障害者雇用について、企業側からのさまざまな要望、課題をいただいていますが、その一つひとつに対応して企業側にある障害を取り除きたいと思っています。

大学も社会支援機関のネットワークとつながりを

――こうした手厚い就職支援を大学で行うことは困難ですが、どのように取り組んでいくといいでしょうか。
白石さん 障害のある学生支援は大学内だけの問題ではく、社会全体の課題だと思います。LITALICOワークスでも、障害のある方の支援においては、支援者個人がまる抱えせず、病院やご家族と連携をとったり、相談支援事業所で生活をサポートする機関につなげたりしています。大学もそうしたネットワークに入っていただいて社会支援機関とつながると、学生に困りごとが生じたときに、その状況に応じて必要な支援を受けることができるでしょう。支援とは、サポーターをいかに作るか、作ってあげられるかが大切です。

そのためにLITALICOワークスは、大学教職員向けの勉強会を開催したり、障害者の就職に関する情報提供をしたりなどの連携をしていきたいと考えています。

barrierfree2_2.jpg プログラムで使うオリジナルテキスト

伊藤さん 大学の教職員さんとお話ししていると、教職員さん側にも「困りごと」がいっぱい出てきます。教職員さんも、一人で抱え込まないようにしてほしい。「私たちのような福祉サービスを上手に役立ててほしい」と思います。発達障害ではないかと感じる学生がいましたら「困ったらLITALICOワークスに行ってみれば?」というような、一つの情報源として持っておいていただけたら幸いです。

仕事をやってみてもうまくいかず引きこもり寸前......藁をもつかむ思いで私たちのところへやって来る人もいます。グレーゾーンの人も、いつか何かのきっかけで発達障害かもしれないとなったときに、LITALICOワークスがあることを思い出してほしいのです。誰に話せば良いかと悩む前に、相談に来てください。利用料については、公費事業で運営をしているので、利用料は利用する方の昨年度の収入に応じて変わってきますが、9割の人は無料で利用いただいています。

社会や科学の発展で障害という概念はなくなる

――LITALICOワークスの想いを教えて下さい。
白石さん 私たちは、「障害のない社会をつくる」というビジョンを掲げ、社会の側に人々の多様な生き方を実現することを目指しています。このビジョンについて、当社の代表はメガネやコンタクトレンズの例をよく挙げます。メガネは視覚補助のための器具でありながら、メガネをかけているからといってその人を視覚障害者とは呼ばない。このように障害へのフィルターは変えられるのだと。社会や科学の発展で、感じ方や考え方は変わるものだと私も思っています。障害者という概念が社会からなくなることを実現するように、就職支援を行っています。
(編集部 北原理恵)