コロナ禍で見えてきた新卒採用の課題~「なぜオフィスで面接するの?」

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新型コロナウイルスの影響が心配されるなか、粛々と進んでいる2022年春卒業予定の新卒採用活動。本記事では、マイナビがメディア向けに開催した説明会と、マイナビHRリサーチ部東郷こずえ氏、神戸大学服部泰宏准教授による対談の内容を紹介します。企業調査、学生調査等をもとに分析した22年卒の新卒採用の現状・展望に加え、コロナ禍で顕在化した日本の新卒採用の課題が浮かび上がりました。

22年卒新卒採用の現状と展望

22年卒の就活動向を、まずは採用する企業側から見てみます。新型コロナ感染拡大によって業績が悪化した旅行や運輸などの業界では、新卒採用を見送る企業が出ていますが、「マイナビ2022年卒企業新卒採用予定調査」によると、企業の採用意欲(大卒)は「前年並み」が最多で約6割を占め、リーマン・ショック時と比較しても全体的に高い水準を維持しているといえます。今後、若手人材が不足する環境を見越し、「組織存続の強化」「人員構成の適正化」のために「社風に合うか」「人柄」といった「質」にこだわって人材を見極める傾向が高まっているようです。

スケジュールについても、20年卒以前と同様の動きを予想。昨年の21年卒は新型コロナの影響で途中、「延期・中止」をせざるを得なかった期間がありましたが、22年卒は予めWEB活用の準備ができており中断なく進められるためです。

具体的には、3月にエントリーシート(ES)提出や面接が開始され、4月に面接実施のピーク。「内々定出し」は4月に開始する企業が最多で(同調査・27.9%)、6月に採用活動終了(非上場企業など一部企業は12月)、というケースが多いと見ています。

続いて、学生側の動きはどうでしょうか。「マイナビ2022年卒大学生広報活動開始前の活動調査」によると、インターンシップに「応募・申し込みをした」学生の割合は92.5%(前年比0.1pt増)、「参加した」学生の割合は84.5%(前年比0.8pt減)、平均応募社数は9.4社(前年比1.7社増)、平均参加社数は5.1社(前年比0.2pt増)。コロナに関係なくインターンシップに積極的に参加していたことがうかがえます。

参加率はやや減少しましたが、その理由は2020年の夏休みが新型コロナウイルス第2波といわれる時期にあたり、参加し始める時期が後ろ倒しになったためだと推測できます。WEB形式については、95.0%の学生が経験していました。WEB開催のため参加ハードルが下がった(1日のうちに複数のインターンシップに参加する、学業の合間に参加するなど)ことも、参加社数増加につながっているのでしょう。

このように早期から活動が活発だったこともあり、4月末時点での内々定率は40.9%。現行の採用スケジュールとなった17年卒以降、過去最高となりました(「マイナビ 2022年卒大学生 活動実態調査(4月)」)。

WEB活用が広まる一方、対面の"プレミア感"が増す

選考の手法として広がっている「WEB」の活用は、時間・場所の制約や感染リスクがなく、金銭的な負担も軽く、そのメリットは大きいといえます。WEBが一気に広まった結果、「対面は、その場にいるからこそ得られる実践的な経験や情報の"プレミア感"が出てきた」と、マイナビの社長室HRリサーチ部の東郷こずえ氏は指摘します。逆の見方をすれば、プレミアを感じられる内容でないと、学生の評価は厳しくなってしまう可能性がある、ということです。

実際の選考では状況と目的に応じてWEBと対面を使い分け、選考の初期段階ではWEB、最終面接は対面で実施するという企業が多いようです。「マイナビ2022年卒企業新卒採用予定調査」によると、1次面接は「すべてWEB」で実施する企業が28.7%、「すべて対面」が27.9%なのに対し、最終面接は「すべてWEB」が5.2%、「すべて対面」が63.4%(予定含む)。対面のほうが 人材の"質"の見極めができると考えている企業が多く、「対面」での実施が好まれるようです。

そのような状況のため、22年卒の学生はWEB、対面両方の面接に対応する準備が必要です。オンラインの活動には長けていますが、コロナ禍で通学やアルバイトなどの行動が制限されてきたため、コミュニケーションをとる機会が減少し、不安や孤独を感じている学生もいるでしょう。そのような彼らへ向けて、周囲の大人たちは正確な情報を提供しフォローしていくことが大切だと東郷氏は述べていました。

コロナ禍で見えてきた日本の新卒採用の課題

コロナ禍でさまざまな活動が制約される状況は、日本の新卒採用が抱える課題を改めて浮き彫りにしました。神戸大学大学院の服部泰宏准教授は2点、指摘します。

1 選考方法やプロセスの意図を明確にする必要性
服部准教授は就活においての「デファクトスタンダード(経済用語で「事実上の標準」)」=「あたかも常識のように行われてきたこと」について、その意味を再確認する必要が出てくるといいます。

さまざまなシーンでオンラインの使用が増えた今、対面しなくても深いコミュニケーションが可能だと感じる学生も増えています。さらにベンチャー企業など「オンラインのみ」で完結する選考を経験すると、従来通りの選考を行う企業に対し「なぜわざわざオフィスへ行って面接せねばならないのか?」と、今まで当たり前とされてきたことを疑問に思う学生が増えるかもしれません。企業は、その疑問について学生にきちんと説明、つまり選考方法やプロセスの意図を明確にして納得してもらったうえで、就活を進めてもらう必要があります。

服部准教授によると、企業が学生の「納得感」を重視する傾向は既に出ており、「内定者フォロー」を手厚くする企業が増えているとのこと。オンラインでの選考・コミュニケーションが増えたことで「納得」までに個人差が激しくなり、対応をきめ細やかにしてミスマッチを減らす必要があるからです。

2 "偶然の出合い"の喪失
学生側は気付いていませんが、オンラインを主とした就活ではこれまで"偶然の寄り道"で生じていた企業との出合いがなくなりました。"偶然の寄り道"とは、「空き時間にたまたま聞いた会社説明会」や「説明会前後に見聞きした、社員同士のやりとりから感じた社風」「社員との雑談で気付いた企業の魅力」といったものです。

そうしたいわば"遊び"の部分をどう取り戻すのか? 各社の努力・工夫が問われることになります。「オンライン面接を始める前にあえてアイスブレイクの時間を設けるなど、学生と企業の情報の重なりを増やしていく方法がスタンダードになるかもしれない」と、服部准教授は指摘していました。

「ジョブ型雇用」の議論が新卒採用に与える影響とは

コロナ禍は日本人の働き方を見直すきっかけにもなりました。注目の的になっている雇用形態として、職務を明確に規定した「ジョブ型雇用」があります。職務を限定せず、広く人材を採用するいわゆる日本型雇用の「メンバーシップ型」とは、反対の働き方として捉えられることが多いです。

とはいえ、新卒採用におけるジョブ型雇用については、「マイナビ2022年卒新卒採用予定調査」では64.5%の企業が「導入を検討したことがない」と回答しており、議論が深まっている段階とはいえません。実績やスキルが十分とはいえない新卒学生をジョブ型で雇用するかについては、日本ではもう少し時間がかかると見られています。

学生には「ジョブ型雇用に近い意識が芽生えているのは事実」と服部准教授は指摘します。既に彼らの保護者も転職経験者が珍しくない世代となり、転職を前提に就職を考える学生も少なくありません。「40年後につぶれない会社」ではなく、「3年後に自分がどうなっているのか?」というビジョンを描きやすい会社が好まれるようになっている、ということです。

そうした時代に企業側に求められるのは、終身雇用を前提とした「40年後」の未来ではなく「3年、5年」といった短いスパンで、「この会社で何ができるのか、どんなことができるようになるのか」をはっきりと学生に見せること。仕事内容に関してもこれまで以上に丁寧に説明する必要性が増すでしょう。

学生もどのようなキャリアを歩んでいきたいのか、明確に考える必要があります。大学でのキャリア教育の役割はますます大きくなりそうです。