コロナ禍のストレスマネジメント術(1) 学生が就活で感じるストレスの正体

コロナ禍のストレスマネジメント術宮道 力

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新型コロナによって、大学での学びも就職活動も大きく変わりました。変化にうまく対応できた学生もいれば、対応できない学生もいるでしょう。変化に対応できずにストレスを溜め込んだり、孤独になったりし、大学の授業や就職活動から遠ざかってしまう学生もいます。そんな学生を一人でも減らすために、コロナ禍におけるストレスのマネジメント方法についてお伝えします。

私は、民間企業の勤務経験を持つ実務家教員として2010年4月から2020年3月までの10年間、東京オフィスで学生のキャリア支援に携わってきました。2020年4月から本部のある津島キャンパス(岡山市北区)に異動し、現在は保健管理センターで教職員のメンタルヘルスの維持・向上に関する業務を担当しています。学部生向けには教養科目「職業と生涯発達」(法学部)、専門科目「人文学講義(産業・組織心理学)」(文学部)、大学院生を対象に公認心理師養成ための選択科目「産業・労働分野における理論と展開」(社会文化科学研究科)の授業を持っています。

コロナ禍就活で学生が悩んでいること

2020年11月下旬に、本学の高年次教養科目「職業と生涯発達」の講義を無事に終えました。この講義は、主に民間企業を志望する法学部所属の3、4年生対象です。大学生から社会人へ移行するために役立つ知識を提供して、社会に羽ばたく準備をしてもらうことを目的とした講義になります。毎回、学生たちからたくさんの刺激を受けるとともに学ぶことが多く、今年度も例外ではありませんでした。これまでと違うのは新型コロナウイルス感染拡大下(以下、コロナ禍)ということもあり、オンラインを使っての講義だったことです。

「職業と生涯発達」の受講生の多くは3年生で、これから就職活動に突入するという状況でした。私は、彼らの持っている能力を最大限発揮できる環境をつくりたいという想いを持って業務に取り組んできました。そんな中、これまでの自らの経験をふまえ、ふと頭に浮かんだことがありました。22年卒就活生はコロナ禍での就職活動を余儀なくされ、例年以上にストレスを感じ、メンタルヘルスの維持に苦しむ学生が増えるのではないかとのことです。

実際に、キャンパスで出会った複数の就活生に話を聞いてみると、「就活生どうしのつながりを持ちづらく情報交換をしづらい」「他の就活生の進捗状況が把握できなくて自分はこれで良いのかと不安を感じることがある」「企業の方とリアルな接点を持てずPCの画面越しに進んでいくことで実感が湧きづらい」「自分のキャラクターが正しく伝わるか不安である」などなど。多少の戸惑いやストレスを感じている様子でした。

そこで今回、この場を借りて全国各地で就職活動をしている学生たちに、ストレスを上手にマネジメントして良好なメンタルヘルスを維持する方法を紹介できればと思いました。

心理学的ストレスモデルを知る

「敵を知り、己を知れば百戦危うからず」という孫子の言葉を聞いたことがあると思います。ストレスはいつも敵というわけではありませんが、敢えてこの言葉を引用しました。それは「ストレスとは何か」ということを知ることが、スタートであることを強調するためです。今回は、ラザラスとフォルクマンによる心理学的ストレスモデル(Lazarus & Folkman, 1984)を知ることを目的にしましょう。

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ラザラスたちは、ストレスを人と環境との間の特定な関係と捉えました。自らを取り巻く環境から要求されることと個人が持つ資源とのバランスを「潜在的ストレッサー」とし、環境からの要求が個人の持っている資源を上回るかどうかを自ら主観的に評価すること(「認知的評価」)、個人の資源に負荷を与えたり、資源を上回ると評価された環境からの要求を処理するために行われる認知的・行動的努力(「コーピング」)を通して、慢性的なストレス反応、さらにはストレスに関連した疾患へとつながっていくと考えました。

「認知的評価」には潜在的ストレッサーを「無関係」「無害-肯定的」「ストレスフル」の3種類に評価する一次的評価、一次的評価で「ストレスフル」と評価された場合にその状況をいかに処理するかを検討する二次的評価があるとしました。「コーピング」は環境と個人との相互関係の個人に焦点を当てたものであり、問題解決に向けて情報収集を行う、計画を立てる、具体的に行動するなど、問題の起因になっていることを解決しようとする具体的努力(「問題焦点型」)と、問題を考えることをやめる、問題の意味を捉え直すなど、問題を直接的に解決するのではなく、問題から生じた不快な情動を解消・調整する努力(「情動焦点型」)があると考えました。

一般的に皆さんが「ストレスが溜まっている」と言っている状態は、「潜在的ストレッサー」について「認知的評価」を行い、「ストレスフル」だと評定して「急性ストレス反応」を知覚し、「コーピング」に失敗して「慢性ストレス反応」に至っている状態と言えるでしょうか。

「慢性ストレス反応」には、不安、怒り、抑うつ感情などの不快感情を慢性的に経験している状態(「心理的ストレス反応」)、不眠、めまい、動悸などの身体面での慢性的な不調を経験している状態(「身体的ストレス反応」)、暴力、アルコールの乱用、ミスの増加などの行動面に現れている状態(「行動的ストレス反応」)があるとされます。ストレスマネジメントとは、「ストレスフル」と評定されたストレッサーに気づき、上手に対処することで「慢性的ストレス反応」や「ストレス関連疾患」につながらないようにすることです。ここまで読んで、さらにストレスが溜まってしまったかもしれませんね。もっと簡単に、就職活動を例にして考えてみましょう。

就職活動でのストレス

就職活動の場面で、就活生が直面する潜在的ストレッサーにはどのようなものがあるでしょうか。下村・木村(1997)によると、肉体的負担が大きい、疲れが取れない、休む時間がない、交通費がかかるなどの「物理・身体的ストレス」、全体の採用人数が少ない、なぜ不合格になったのかわからない、行きたい企業から内定がこないなどの「企業関連ストレス」、どの会社が自分にあっているのかわからない、自分のやりたいことがわからない、自分の適性がわからない、何を基準に会社を選ぶのかわからないなどの「適性・興味関連ストレス」があるとされています。個人の認知的評価(一次的評価・二次的評価)によって、これらをストレッサーと感じる程度に個人差が生まれ、コーピング(問題焦点型・情動焦点型)がうまくできるかどうかで慢性ストレス反応が変わってくるということです。

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22年卒の就職活動では、皆さんもご存じのとおりここ数年の社会情勢と大きく異なる点があり、コロナ禍での就職活動を余儀なくされることです。今回はここまでとして、次回は就活生に向けてコロナ禍のストレスに対するコーピングに関すること、次々回は就活生にむけてストレスをマネジメントするうえで具体的な方法の一つとしてのリラクセーションの紹介と、就活生を支える側から私なりに考えてきたことをお伝えします。


プロフィール

宮道 力 宮道 力(岡山大学保健管理センター准教授) 日本カウンセリング学会理事、浦安市教育委員会教育長職務代理者、筑波大学働く人への心理支援開発研究センター客員研究員、公認心理師、キャリア・コンサルタント。地方放送局、人材サービス会社、就職情報会社を経た後、大学でキャリア支援に携わる。正課外活動(岡山大ハンドボール部)を基盤とした学生のキャリア発達・チームマネジメント支援を行ってきた経験を持ち、現在は教職員のメンタルヘルス維持・向上施策の企画・実施・分析に携わる。岡山大法学部卒・筑波大人間総合科学研究科生涯発達専攻(博士前期課程)修了。岡山大医歯薬学総合研究科疫学・衛生学分野(博士課程)在籍中。