コロナ禍のストレスマネジメント術(3)「リラーックス!」漸進的筋弛緩法

コロナ禍のストレスマネジメント術宮道 力

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漸進的筋弛緩法の紹介

今回は、リラクセーションの具体的な方法として漸進的筋弛緩法を紹介します。皆さんは、力を入れることと力を抜くことを同時にできますか。できませんよね。漸進的筋弛緩法は、筋肉を緊張させることと弛緩させることを繰り返して行います。筋肉を弛緩させるためのよい方法は、はじめに緊張させることです。各部位の筋肉を順次緊張させ、それから緩めるようにし、筋肉が緩むときに「リラーックス」と心の中で唱えながら深い息を吐き出して筋肉が緩んだ感覚を味わうようにします。まずは、イスに楽な姿勢で腰掛けて目を閉じてください。そして、それぞれの部位の筋肉に10秒ほど力を入れた後、力を抜いて筋肉が緩む感覚を味わってみましょう。

1.手と腕
片側ずつ。レモンを握りつぶして汁を絞り出そうとするイメージ。

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2.腕と肩
怠惰な猫になったイメージで腕を前に伸ばし、頭の上にそれらを高く持ち上げ、腕と肩を後方に引っ張った後に腕を横から素早く下げ、肩の力が抜けた感覚を味わう。

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3.あご
口の中にたくさんのガムが入っていて強く噛み、ガムを引き裂き、力を抜いてあごを顔から落とすイメージ。

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4.顔と鼻
ハエがあなたの鼻の上に着地したので、手を使わずに顔全体のパーツを中心に寄せ、シワを集めて取り除くイメージ。鼻だけでなく額にもシワを寄せ、口をすぼめて目を強く閉じ、ハエを追い払って力を抜く感覚。

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5.おなか
草むらに横たわっているあなたのおなかを、かわいいゾウがやって来て今にも踏もうとしているが、逃げる時間がないのでとにかくお腹を硬くするイメージ。そして通り過ぎでお腹を柔らかくする。次に、ガラスの破片が刺さった狭い柵の間を、おなかを吸い込み背骨にくっつけ、できるだけ体を細くして通り抜けるイメージ。無事に通り抜けておなかを緩めてリラックス。

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6.脚と足
大きい泥の水たまりの中に裸足で立ち、足の指を泥の中に深く押し込み、脚の力を活用して足を泥の水たまりの底に押しつけるイメージ。つま先を広げて泥がつま先の間に押し込まれる感覚を味わった後、泥の水たまりから抜け出して足の力を抜く。

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7.全身・消去
全身の筋肉がリラックスしているのを感じ、気持ちが落ち着いているのを心で唱える。こぶしをグー、パー、ひじを曲げ伸ばし、伸びをしてゆっくりと目を開ける。筋肉を少しくねらせて全身でリラックスしていることを感じる。

参考文献:Koeppen(1974). Progressive Muscle Relaxation for Children. Relaxation training for children.
Elementary School. Guidance and Counseling, 9, 14-21.

これまで紹介してきた対処法を活用してストレスと上手につきあい、コロナ禍の就職活動を乗り越えましょう。

学生を支える側として思うこと

初回に紹介した「職業と生涯発達」の講義では、講義の終盤にストレスマネジメントの内容を入れるようにしています。それは自らの経験に基づく理由があるためです。かつて私が勤務していた東京オフィスには、毎年、東京に本社のある企業の採用面接を受けるということで、学生がやってきました。

彼らは地理もよくわからない大都会のジャングルの中、慣れない満員電車に乗り、人の多さに圧倒され、押しつぶされながら目的地に向かいます。携帯電話や地図を頼りにあちこち歩き回り、目的地に到着して面接を受ける頃にはヘトヘトに疲れてしまう。自らの希望するような面接結果が出ず、自分に対する自信に揺らぎを感じ、ストレスや不安が次第に高まり泣き崩れてしまう。そのような学生に幾度となく遭遇しました。地方から単身で出てきた学生は、孤独の不安や淋しさを感じながら就職活動をしており、ここに来るとほっとすると言って自分たちを受け入れてくれる場所があることに感謝していました。

多くの学生は採用面接でネガティブな結果を受け続けたとしても乗り越えることができますが、苦戦する学生も一部います。2012年11月、自殺念慮を持つ学生との出会いが続いたことがありました。この時、苦戦する学生の支援にこそ重点的に取り組むべきではないかと気づき、私自身はストレスに強く関心を持ち始めることになりました。

苦戦する学生に寄り添う経験は、自らの学生支援のあり方、講義内容を再考する機会となりました。人は誰もがストレスから逃れることはできません。いかにうまく付き合うか。「ストレスに関する知識を得て対処法を身につけておくことは、学生たちの生涯を通して必ず役に立つだろう。就活生たちにストレスについての知識を提供し、苦戦する学生を少しでも減らすことにつながればよい。そして、生涯を通して良好なメンタルヘルスを維持し、それぞれが個人の能力を発揮して活躍してほしい。」という願いから、「職業と生涯発達」の講義にストレスマネジメントの内容を入れるようにした経緯があります。このことは、私自身の経験からみて必要なことだと考えています。

就活生同士がつながれる場の提供を

先日、本学学生総合支援センター障害学生支援室の池谷航介講師と情報交換をする機会がありました。そのなかで、コロナ禍の就職活動中の学生を、大学としていかに支援したらいいのかという話題になりました。

「採用活動のオンライン化が進むなかで大学に在籍するいかなる学生も不利にならないために、オンライン化を含んだハイブリッド型選考の仕組み、学生が対処すべき点などを分かりやすく整理したコンテンツを準備するとよいのではないか。具体的な見通しを例示してあげることで多少なりとも救われる学生も存在し、彼らにとってはストレス低減の一助になるのではないか」

大学には多様な学生が在籍しています。リアルな場での対人接触を控えつつも、就活生同士がつながりを感じることのできる場をつくる努力が、これまで以上に必要かもしれません。学生に対して何をどこまで支援するべきかということは、常に考え続けなければならないでしょう。学生たちはコロナ禍を乗り越えて新しい時代を切り拓き、社会人としての第一歩を踏み出します。すべての学生をよりよい状況で送り出すためには、私たち支える側もこれまで以上に知恵を絞る必要があると思っています。


プロフィール

宮道 力 宮道 力(岡山大学保健管理センター准教授) 日本カウンセリング学会理事、浦安市教育委員会教育長職務代理者、筑波大学働く人への心理支援開発研究センター客員研究員、公認心理師、キャリア・コンサルタント。地方放送局、人材サービス会社、就職情報会社を経た後、大学でキャリア支援に携わる。正課外活動(岡山大ハンドボール部)を基盤とした学生のキャリア発達・チームマネジメント支援を行ってきた経験を持ち、現在は教職員のメンタルヘルス維持・向上施策の企画・実施・分析に携わる。岡山大法学部卒・筑波大人間総合科学研究科生涯発達専攻(博士前期課程)修了。岡山大医歯薬学総合研究科疫学・衛生学分野(博士課程)在籍中。