VUCA時代の会社研究(上) SDGs対応で企業の将来性を

漂流する就活

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ここ数年、国内の人材不足を背景に新卒者の就活では売り手市場が続いてきました。ところが、新型コロナの感染拡大によって状況は一変、世界の経済活動がストップし、多くの企業の業績が悪化しています。これから就活を始める学生たちは、何を頼りに就職先企業を選べばいいのでしょうか。

新型コロナで活動がストップ

順調に進んでいた学生の就職活動がストップしました。その一方で、2月以前にインターンシップに参加していた学生は、早期選考によってすでに内定を得ています。キャリタス就活を運営するディスコが発表した4月1日時点の内定率は34.7%(前年同期比8.3ポイント増)。これは早くからインターンシップ参加などで就活を進めていた学生に企業が緊急事態宣言前に急いで選考を進めた結果と思われます。実際、4月時点での内定先企業のうち67.0%は、インターンに参加した企業でした。

もともと経団連の「採用選考に関する指針」がなくなり、政府主導のルールに変わったため、採用活動の早期化が進むことは予想されていました。そこに新型コロナがやってきて、企業は採用活動を止める前にインターンシップ参加学生の選考を一気に進め、内定まで持ち込んだようです。ただ、5月1日時点の内定率は50.2%と前年(51.1%)を下回りました。4月以降企業の採用活動がほぼストップした結果、伸び率が停滞したと言えます。6月に入ってようやく採用活動が再び動きはじめました。

会社選びの重視点

前置きが長くなりましたが、本題の会社選びについて始めましょう。就活生の9割がインターンシップに参加すると言われている現在、学生はインターンシップを含めた就活初期の段階では、「給与・待遇」「やりたい仕事ができる」「社員の人柄」などを重視する傾向にあります。就活が進むにつれて「事業内容」「安定性」「企業理念」「企業規模」などを重視する傾向にあります。就活前半では働き方や給与など自分の希望に関する情報を重視し、後半は企業に関する情報を重視するのです。

このように企業選びの重視点が変化することは、学生自身と就職したい企業のすり合わせが就活期間を通して行われていることを意味します。ところが現在、インターンシップの参加時期で最も多いのは就活解禁直前の2月であり、優秀と判断された学生はそのまま早期選考へと進みます。1、2月に就活を始め、インターンシップ→早期選考→内定と進むと、企業と自身のすり合わせが行われないまま就職することになります。また、インターンシップで得た知識だけで企業を判断することになります。

会社研究=劇場型インターン

現在、多くの学生はインターンシップに参加した時の印象で、企業を志望するかどうかを決めています。インターンシップが本来の意味の就業体験であれば、実際の仕事を経験することによって仕事への適性の有無、会社・社員との相性などを確認することができます。

ところが、今のインターンシッププログラムは就業体験がほとんどなく、グループワークと社員懇親会が中心です。グループワークは学生受けの良い一部の仕事を模擬体験し、懇親会には選ばれた優秀な人材が出てきます。社員の本音を聞けたOB・OG訪問をする学生は激減し、企業が用意した劇場型インターンシップで企業を理解したつもりになっているのです。

新型コロナの影響で、企業は8~9月まで21年卒の採用活動を継続するところが多く、従来並みのインターンシップを開催することは難しいと言えるでしょう。長期インターンシップを実施できた夏休みが使えないとなると、これまで以上に就活直前の短期インターンシップが増え、学生の企業理解は不足すると思われます。

予測不能なこれから

人手不足で、企業の業績も伸びている時ならそれでも良かったかも知れませんが、リーマン以上、1929年の世界大恐慌時代の再来とまで言われる今、どんな企業研究が必要なのでしょうか。数年前から、予測不能なこの時代を「VUCA(ブーカ=変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)」時代というようになりました。新型コロナがあっという間に世界中に広がり、人の往来も企業活動もストップした今を表すにはピッタリな言葉です。

従来なら「いい会社」とは、業績・財務状況が安定した大手企業や、ある分野で業績を伸ばす成長企業など、経済的な価値を中心に見ることが大半でした。しかし、近年はそういった「会社の数字」には表れない取り組み=非経済的価値で、企業を評価する動きが起こっています。

例えば、自社製品の材料調達から生産、販売、回収まで、環境負荷が少ないプロセスをとる。災害時に役立つアプリを無償提供する。新興国で栄養改善プロジェクトを実施する。社内においては、さまざまな人材を雇用し多様性ある組織を構築している......などです。

VUCA時代を生き抜く企業は、世の中のニーズに応え、製品・サービスによって現状をより良くし、今よりも良い未来を築こうする企業であることが求められています。ニーズに応えるために社会課題に目を向けたり、新しい技術・イノベーションを育んだり、多様な働き手が力を発揮できるよう新しい仕組みをつくる会社こそが、これからの時代を生き残っていける会社と言えるでしょう。

SDGs経営を実践する企業

そのような企業が注目しているのがSDGs(エスディージーズ:Sustainable Development Goals 持続可能な開発目標)です。SDGsとは2015年に国連で採択された、人間、地球の持続可能な開発のための行動目標のことで、2030年までに達成すべき17の目標と、169のターゲットが示されています。各目標は、「貧困」「気候変動」「人権」など多岐にわたり、企業や自治体、NPO・NGOなどのあらゆるセクターが協力しあい、目標達成を目指します。

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企業は自分たちの利益だけではなく、人・社会・環境への影響を考え、ともに持続可能な方法で活動を続けることが求められています。それが「持続可能な社会」を実現し、未来を拓くことにつながるからです。その一方で、社会課題の解決は見過ごされた社会的ニーズであり、ビジネスチャンスでもあります。社会課題解決とビジネス、どちらも重視するのがこれからの「いい会社」といえるでしょう。

次回はSDGs経営を実践する企業の探し方をご紹介します。
(編集部 渡辺茂晃)
写真素材/PIXTA

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