企業の人事担当者が語る、21年卒・22年卒の採用活動とは

漂流する就活

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日本経済新聞社デジタル事業メディアビジネスユニットは2020年8月27日、ワークス・ジャパンと共催でオンラインセミナー『WORKS REVIEW 2022新卒採用展望 ~2021採用総括から予測する~』を開催しました。ここでは、企業3社が登壇したパネルディスカッション「ニューノーマルに備える採用変革」を紹介します。

●ファシリテーター
HRエグゼクティブコンソーシアム 代表 楠田祐氏
●登壇企業
サイバーエージェント 取締役 曽山哲人氏
ヤフー コーポレートグループ ピープル・デベロップメント統括本部コーポレートPD本部長 金谷俊樹氏
ソニー 採用統括課長  浅井孝和氏


パネルディスカッションでは、20年春入社の新入社員の状況から21年卒向けの採用選考、22年卒向けのインターンシップまで、3世代にわたる幅広い内容でした。最初の話題は20年春に入社した新入社員の入社式から新入社員研修、就業までについてです。

入社式前日にオンライン化を決定

サイバーエージェント(以下、サイバー)は入社式前日の3月31日にオンライン開催を決定しました。「事前に何かあったらオンラインにすると伝えていたので、大きな混乱はなかったです。新入社員からは感染予防含めて"リモートになって安心"といった声がありました。1週間の新卒研修もすべてオンライン開催です」(曽山さん)。

works_nikkei_2.jpg 左上がサイバーエージェントの曽山さん、右上がソニーの浅井さん、下がヤフーの金谷さん

ソニーとヤフーも入社式はオンラインで対応。ソニーは入社式後に研修やワークショップをしながら2カ月の自宅待機となったそうです。ヤフーは仕事に使うPCを手渡すために4月1日から3日間に分けて新入社員に出社してもらったといます。事前に医師や専門家に感染リスクの低減策を聞き、万全の準備をして新入社員を迎えました。ソニーも自宅待機が想定以上に長引いたためにリモートワークのセッティングをしたPCを新入社員約400人に配送、新入社員は6月から業務を開始。サイバーも入社式後に始まる新入社員研修中にPC配送を終えました。



オンライン面接で見える点、見えない点

新入社員の受け入れと同時に進んだのが21年卒向けの採用活動です。ヤフーは通年採用をしているため2月からオンラインに切り替えて面接を実施。一部、東京以外の学生には以前からオンライン面接を実施していたため、大きな混乱もなくオンライン選考に移行できました。ソニーは例年、延べ5000回を超える個人面接を実施、今年はそのすべてをオンラインで実施しています。サイバーも3月末以降はすべてオンライン対応に切替わっています。

各社、面接のオンライン対応はできたものの、サイバーの曽山さんは「雑談をするとか、オフィスを見てもらうなど、オンラインだけでは対応できない部分もある」と指摘します。ファシリテーターの楠田先生から「オンライン面接では言語的なコミュニケーションはできていると思うが、情熱などの非言語的なコミュニケーションの確認はどうしているのか」という質問がありました。

ヤフーの金谷さんはオンライン面接を始めた5、6年前に「全身が見えない、入室してから面接を受けるまでの所作が見えない、通信環境が悪かった場合、本人の責任ではないのに悪く見えてしまう」といった問題点が表面化したといいます。その経験を活かし、今では「オンライン面接では画面上でしか分からないことだけを見るようにしています。つまり、仕事で活躍できる人なのかどうか? それを知るには過去の経験を聞いて、再現性があるのかどうかを確認することに集中している」(金谷さん)とのことでした。

ソニーの浅井さんは直接会えないため、無機質なテキストでしか学生に情報を届けられていない現状に危機感を抱いています。「プレイステーションは知っているけど、ウォークマンは知らない」(浅井さん)という学生に対して、いかに正しいソニーの姿を伝えられるかが課題だと話しました。

「僕って承認欲求高めなんです!」

話題が最近の若者の傾向について移ると、笑うに笑えない発言が飛び出しました。まずは、サイバーの曽山さんは自己PRで「『僕って、けっこう承認欲求高めなんですよねー』という学生が多い」と。これについては各社担当者も笑いながら頷いていました。その上で、「彼らは"ほめられたら頑張る"ことが能力の1つだと思っているので、その点をうまく引き上げると力を発揮する」と、若者の育成方法に言及しました。

ヤフーの金谷さんが最近の面接でよく聞く学生の発言として「今日のフィードバックお願いします」を挙げました。面接官が面接の最後にする質問「最後に質問など何かありますか?」への回答です。最近ではインターンシップのグループワークなどでも担当者からフィードバックを受けることが当たり前になっています。金谷さんはフィードバックしつつ、「『もしクリティカルなことがあった場合には絶対に伝えないから話半分で聞いた方がいいよ』と伝えている」と教えてくれました。

採用活動の主流はインターン選考に?

サイバーの曽山さんは、学生たちが志望企業の選考に関するあらゆる情報を知り、共有しているといいます。人事からのメールやSNSのコメントなどはスクリーンショットで保存でき、WEB面接なら面接官とのやり取りを録音も録画もできてしまう。採用する企業側はあらゆる情報が保存・拡散される可能性があることを意識しなければならないのが、オンライン採用の時代の特徴といえるでしょう。かつては自宅で受検できるWEB適性検査のなりすましが問題になったこともありましたが、オンライン面接の時代には隣で誰かが最適な回答を考えて被面接者がそれを読み上げることも可能になります。

そうなると、インターンシップが最も信頼できる選考になると曽山さんは言います。「インターンシップは学生自身のことを知るだけでなく、学生同士のリアルな交流を見ることができます。コミュケーションや関係性作り、議論の着地の仕方など実践を見て判断できます。最近ではインターンシップを重視し、面接を減らしています」(曽山さん)。ヤフーの金谷さんもインターン経由の採用を重視しており、インターン経由で入社した人材は、内定の受諾率が高く、入社後の評価も良いと説明します。ソニーの浅井さんもインターンシップによるマッチング効果の高さを指摘しました。

話題は22年卒のインターンシップに。3社とも今年はオンラインインターンシップを実施しています。zoomのブレイクアウトセッションを使ってグループワークをしたり、海外留学中の学生が参加したり、一度に100人が参加するアイデアソンを企画したり、オンラインでできることをうまく活用していました。

アフターコロナの採用活動

最後、これからの採用活動はどうなるのかが話題に。サイバーの曽山さんはオンラインによって地方の学生に会える機会が増えるものの、首都圏の企業の情報が少ない地方学生に「自社の情報をどう伝えるかが難しい」という課題をあげてくれました。ヤフーの金谷さんも同様の難しさを感じているといい、「以前は、就活ナビサイトを見て学生が応募してくれましたが、今はナビサイトの利用率も下がっており、どこにどんな情報を出せば学生に届くのかが分かりにくくなっている」と頭を悩ませています。

コロナによってリアルな企業との出会いの場がなくなり、企業の情報を得にくくなった結果、学生は名前を知っている企業に集中する傾向にあるという意見も出ました。ソニーの浅井さんは実際にエントリー数が増えていると話しますが、「ソニーという会社をどこまで理解しているのか疑問に思う学生も増えている」と、応募増を手放しで喜べないと話します。

新型コロナの感染拡大によって強制的にオンライン対応となった企業の採用活動と学生の就職活動。誰もが初めて経験したオンライン中心の採用活動・就職活動は今後、成功や失敗が共有され改善されるていくでしょう。すでに22年卒向けの就職活動は始まっています。企業3社の声は新しい就活支援の参考になるでしょう。

協力: 株式会社ワークス・ジャパン(http://www.worksjapan.co.jp/)