令和3年度「全国キャリア教育・就職ガイダンス」(中)これからの留学生の就職支援

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新型コロナウイルス禍で外国人留学生を取り巻く環境が変化しています。令和3年度「全国キャリア教育・就職ガイダンス」(2021年6月30日開催)では、留学生の就職支援のあり方についても現状把握や問題提起がされました。コロナ禍でどのように影響を受け、今後の見通しはどのようなものか。また、今必要とされている支援、取りかかれる支援は何なのか。いくつかのセッションの様子を紹介します。

「令和3年度「全国キャリア教育・就職ガイダンス」(上)大学・企業の最新事例をオンラインで発表」はこちら
「令和3年度「全国キャリア教育・就職ガイダンス」(下)JASSOインタビュー「教職員の悩みに応えたい」」はこちら

コロナ禍で外国人留学生の就職状況はどう変わった? ~YouTubeセッションより~

YouTubeセッション「教育機関に求められる外国人留学生就職支援の在り方」(一般社団法人留学生支援ネットワーク事務局長 久保田学 氏)によると、コロナ禍で留学生の内定獲得のハードルは上がっています。インバウンド対応など海外関係業務の減少によって外国人採用を日本人採用に転換する企業が出ている、といった理由が挙げられます。

コロナ禍で生じた就職支援の新たな課題、どう解決する?

久保田さんによると、コロナ禍で留学生の就職支援についても新たな課題が生まれています。それは「何となく就活をあきらめる」学生が増えていることです。対面でのイベント開催ができなくなり学生と教職員の接点が減少、留学生のモチベーションを維持するためのフォローができなくなったからです。メールによる情報伝達では訴求力が弱くなってしまうという現状があります。

そうした課題を解決するために、久保田さんはいくつかの提案をしています。例えば、Moodleなど大学の学習支援システム(LMS)内に就職支援プラットフォームを構築することです。授業で使うツールを用いて告知をすれば学生への到達率も高く、効果が見込まれます。集客に関する課題を解決できるだけでなく、動画や教材を置いて視聴を促せば留学生の知識の質も上がると言います。

そのほか、就活の実践的な行動を体験する取り組みとして、「オンキャンパスインターンシップ」も提案。企業研究から会社説明会まで就活の一連の流れを体験するプログラムで、例えば企業の課題解決をはかるグループワーク(GW)を体験すると学生は就活について具体的なイメージを描け、モチベーションも上がります。

久保田さんは、「全体ガイダンスを行って、日本の就活の流れや仕組みについて理解を促す大学は増えてきている」としたうえで、留学生の就職支援は大学ごとに規模や環境が異なるため、最適なものが見つかるまで長い時間をかけて試行錯誤して作り上げていくことになる、と締めくくっていました。

★「JASSO学生支援チャンネル」 JASSOが実施する学生生活支援に関するセミナー等の動画を配信。「令和3年度全国キャリア教育・就職ガイダンス」についてもオンデマンド配信されています。
・留学生のキャリア教育・就職支援に関する配信コンテンツ例
「教育機関に求められる外国人留学生就職支援の在り方」 「元留学生就職活動体験談」
(配信期間 令和3年9月30日(木曜日)16時00分まで)
動画はこちらから


留学生の就職事情 アフターコロナはどうなる? ~森興産の予測~

続いて、外国人留学生の就職を支援するWEBサイト「WA.SA.Bi.」を運営する森興産の森隼人社長によるセッション「コロナ禍における外国人留学生採用の現状と課題」の内容を紹介します。先を見通しにくいコロナ禍の影響ですが、留学生の就職事情は、アフターコロナに向けて改善の兆しは見えてくるのでしょうか。

森さんは、「今後数年間、外国人材は需要が供給を下回る状況が続くものの、4~6年後には需要のほうが供給より多くなるのではないか」と予測しています。慢性的な人手不足が背景にあるほか、2025年に大阪・関西万博を控え、インバウンド需要が見込まれるからです。

2022年春に入学した留学生は4年制なら26年春の入社になります。彼らが就職活動をする頃には、今と状況が大きく変わっている可能性もありえます。留学生は日本人学生より就活に取り組み始めるのが遅くなりがちなので、今から彼らへの就職支援・対策を考えていくことが必要です。

留学生へ向け、一歩踏み込んだ支援を

留学生にはエントリーシート(ES)添削や面接の練習など、日本人学生以上に手取り足取り伴走する支援が求められます。とはいえ、工数がかかることもあり、充実した支援を提供するには難しさもあります。「まずは、今より一歩踏み込んだ支援を」と森さんは話していました。具体的には以下のようなものです。

●母国語で最新情報を届ける
就職という人生に関わる大切な情報を確実に理解してもらうには、日本語や英語ではなく母国語で伝えることが大切です。

●学生の強み・キャリアプランを丁寧に聞く
留学生の中には、日本では文系学部に所属している学生でも母国では理系学部を卒業していた、というような事例もあります。日本での学生生活だけでなく、母国での活動についても丁寧に聞くことによって学生の強みが増え、就職先の選択肢が広がるでしょう。何年くらい日本で働きたいのか、帰国して働く意思はあるかなども確認すると、より良いキャリアパスを提案できます。

●企業と学生の出合いの場に積極的に参加する
コロナ禍でオンラインを利用した企業と学生の出合いの場は増えており、音声SNSなど、ソーシャルメディアを使った新しい採用活動も広がってきています。そうした場へ大学教職員も積極的に参加するといいでしょう。どのような企業がどのような目的で外国人材を必要としているかを確認し、情報収集すると同時に、企業と留学生のマッチングの支援もできます。

mori350.jpg 森興産が運営する「WA.SA.Bi.」
なお、日本人学生の就職ではオンライン上に情報を登録し企業とのマッチングをはかる「スカウト型」「逆求人」と呼ばれるサービスも就活における主要な手段となっていますが、留学生の就職には「あまりなじまない」と森さんは指摘します。そもそも留学生が魅力的な内容を登録することは難易度が高く、留学生採用に関するビッグデータも十分蓄積されているとは言えないことが理由です。


★「WA.SA.Bi.」(ウェブサイト「ワサビ」) 日本での生活・教育・就職情報ポータルサイト「WA.SA.Bi.」(運営・森興産)では、ビザや日常生活のことから就職にいたるまで、さまざまな情報を掲載しています。80カ国の学生が登録し、求人情報も日本語、英語のほか中国語、ベトナム語など計6言語で発信。母国語で相談受付もしています。オンラインやチャットで、就職相談や面接の練習も行っているということです。
「ワサビ」はこちらから


大学・学生と、企業がつながる場を ~JETROの支援~

最後に特別企画・JETROによる「外国人材の採用・育成・定着に係るサポート」の内容を紹介します。

work350.jpg JETRO「動画で学ぶ 日本で働こう!」

JETROというと企業支援のイメージが強いかもしれませんが、外国人材の育成にも力を入れています。高い技術力や国際的なビジネス感覚をもつ高度外国人材を採用したいという企業のニーズに応えるため、「企業」「省庁」「外国人材」の3者をつなぐプラットフォームを運営しています。ポータルサイト「高度外国人材活躍推進ポータル」では、留学生向けに日本の就職活動の方法や必要な手続きなどをわかりやすく説明した動画を掲載しています。

昨年は初めて、留学生や既卒の外国人学生向けにオンラインの合同企業説明会を実施しました。海外展開を進める全国の中堅・中小企業170社以上が、自社の魅力や仕事環境について説明。2000人以上の学生が参加し、多くのエントリーにつながりました。イベントは今年も実施予定です(詳細は下記)。
JETROは今後、大学など教育機関との連携もより深めていきたいとのことでした。

★ポータルサイトでの情報発信 「高度外国人材活躍推進ポータル」
サイトはこちらから
動画で学ぶ 日本で働こう!
動画はこちらから
★ジェトロ・オンライン合同企業説明会 2021 秋 2021年10月4日(月)~10月8日(金)9時00分~17時00分
オンライン合同企業説明会をライブ配信にて開催
説明会はこちらから


新型コロナの感染拡大が留学生の就職に与えた影響は決して小さいものではありません。これまで積み重ねてきた支援の歩みを止めず、そして留学生の将来が実り多いものになるようにするにはどうすればよいのか。新たなツールを使用する、積極的に情報を集めるなどさまざまな工夫を重ね、留学生に寄り添った支援を充実させていくことが大切だと言えるでしょう。

(編集部 木村茉莉子)

写真素材/PIXTA