日経HRと日本経済新聞社が実施する「企業の人事担当者から見た大学イメージ調査」では、採用した大学の学生のイメージだけでなく、「学生・若手社員に不足している力」や「新型コロナ前後の新入社員の違い」「大学に求めること」なども聞いています。今回は「学生・若手社員に不足している力」について紹介します。
企業の人事担当者が最も重視するのは「主体性」
「学生・若手社員に不足している力」を紹介する前に、企業の人事担当者が採用時に重視する力について説明します。就職力ランキングの12評価項目(下記グラフ参照)について、採用時に重視するかを「非常に重視している」から「まったく重視していない」まで6段階で評価してもらっています。
「非常に重視している」と「重視している」を合わせた「重視」が最も多かったのは「主体性」(90.3%)で、「コミュニケーション能力」(89.9%)、「チャレンジ精神」(85.4%)、「熱意」(81.0%)、「ストレス耐性」(71.7%)、「柔軟性、適応力」(71.3%)の6能力が7割を超えました。最も少なかった「高い教養を身につけている」は「重視」が20.3%でしたが、「あまり重視していない」(28.2%)、「重視していない」(4.3%)、「まったく重視していない」(0.8%)の合計は33.3%でした。
企業の人事担当者が最も不足していると感じるのも「主体性」
本題の「学生・若手社員に不足している力」のです。企業の人事担当者に「不足している力」を自由記述(どんな時にそう思うのかを含む)で聞きました。記述された文章の中から能力に関する言葉を抽出した結果、最も多かったのは「主体性」でした。以下、「ストレス耐性」や「コミュニケーション能力」「チャレンジ精神」「熱意」「柔軟性」など並んでいます。先に紹介した「採用時に重視する力」と「不足している力」が一致する結果となりました。
新卒採用の現場では、複数社から内定を得られる学生がいる一方、何十社の選考を受けても内定を得られない二極化が進んでいると言われています。上記のように、採用時に重視する力を持っている学生が少ないために、能力を持っている学生に内定が集中してしまうのでしょう。逆に言えば、大学生活を通して重視する力を身につけられれば、企業の欲しがる仕事で活躍できる人材になるのでしょう。
これらの必要な能力は具体的にどのような力で、どんなことから「不足している」と感じるのかという人事担当者のコメントと、その力の意味を紹介します。
各能力の意味と、能力の物足りなさを感じる理由
主体性
「制度やルール、空気を読みすぎてしまうのか、自ら積極的に働きかけたり主体的にものごとを解決しようとする力が足りない」
「"私は~がしたい""私は~だと思います"といった主張がもう少しほしい 」
誰かに指示をされることなく、自らやるべきことを考えて積極的に行動するのが「主体性」です。行動する力の土台となる力とも言えるでしょう。指示をされないと動かない「指示待ち族」は、仕事で活躍できない人の典型例です。人事担当者が主体性を最も重視するのもうなずけます。
ストレス耐性
「ストレス耐性が足りず、打たれ弱い学生・若手社員の割合が増えている印象がある」
「ストレス耐性が非常に低いためか、思ったよりキツイという理由だけですぐに離職してしまう」
困難や失敗があっても落ち込まずに仕事に取り組むことができる力、または困難や失敗を「良い経験」と前向きに捉えられる力が「ストレス耐性」です。人事担当者の中には、メンタルが不調になってしまう若手社員が増えているという深刻な状況を訴える人もいました。その背景としては「大学入学まで失敗や挫折を味わうことなく過ごしてきている」「叱られた経験がない」といった声があります。挫折や困難を乗り越えた経験があると、ストレスに耐え、さらにストレスをプラスに転じる力が身につきます。
チャレンジ精神
「大学入学まで失敗や挫折を味わうことなく過ごしてきている感があり、チャレンジ精神に乏しい気がする」
「チャレンジ精神が不足している。失敗することを嫌う子が多いように感じている。まだ新人なので積極的に挑戦をして失敗をしながらも成功体験を積んで、成長して欲しいという想いがある」
未経験のことでも臆せずにやってみる、やり方や方法が分からなくても試行錯誤しながら物事を進められる気持ちが「チャレンジ精神」です。仕事の現場では「教えてもらっていないから分からない・できない」という若手がいます。これではいつまでたっても成長しません。チャレンジ精神が不足している理由として、「失敗を過度におそれる傾向がある」といった指摘がありました。
熱意
「面接時に、飾らず自分をさらけ出してくれる部分は好感を持てるが、入社したいという熱意をあまり感じず、相思相愛感が薄れている」
「100点またはそれ以上を目指そうとせず、ミスのない及第点をとるような仕事ぶりが目立つ」
取り組んでいることに対して全力で向かおうとするのが「熱意」。就職活動であれば、どうしてもその会社に入りたい、その仕事をしたいという強い想い。仕事であれば必ず成功させる、仕事を通して社会に貢献したいという情熱のようなものです。熱意があれば、努力もするし、工夫もするでしょう。あらゆる行動の原動力になる大切な力と言えます。
コミュニケーション能力
「ネット社会だからなのか、文字では自分の意見等を言えるのに、対面だと発言しない、できない学生が増えているように感じる」
「伝える・話すコミュニケーション力は優れているが、質問の意図をくみ取るなど、聞く、読むといった受け取るコミュニケーション力が不足している」
話す、聞く、読む、書くといった方法を使って、他人と正しく意思疎通を測ることができるのが「コミュニケーション能力」です。自らの発信だけでなく、相手が話しやすい環境を作るための配慮や気遣い、表情やしぐさから言いたいことを察する力も含まれます。特にオンライン上で仕事を進める昨今、重要さが増しています。
柔軟性、適応力
「Z世代の価値観が強く、年配者の考え方を受入れる柔軟性がない」
「自分の希望が必ずしも通るわけではない点を意識してほしい」
意見や立場の違いを理解するのが柔軟性で、これまでと異なる環境ややり方でも同じように物事に取り組むことができるのが適応力です。働き方が変わることはもちろんのこと、これからは外国人と一緒に働くことが当たり前になるでしょう。言語や価値観、生活習慣、宗教などが異なる人々と協働できる、柔軟性、適応力が必要になります。
以上が人事担当者が「不足している」と感じる理由と、各能力の意味です。学生たちがこれらの能力すべてを完全に身につける必要はありません。ただ将来、仕事をする上で必要となる能力として認識し、大学生活でのさまざまな活動に取り組む中で能力を身につけたり、試したりするように指導するといいでしょう。
(編集部 渡辺茂晃)
写真素材/PIXTA
【調査概要】
調査名:企業の人事担当者から見た大学イメージ調査
調査期間:2022年2月14日(月)~3月22日(火)
調査対象:2022年2月現在の全上場企業(新興市場含む、外国会社は除く)と一部有力未上場企業
調査対象社数:4982社
回答社数:746社(回答率 15.0%)
調査主体:日本経済新聞社と日経HR
調査協力:日経リサーチ
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日経キャリア教育「キャリエデュ」では、「社会人基礎力診断」を開発・提供しています。「社会人基礎力」とは、以下の3能力と12能力要素からなる、仕事や職場で活躍するうえで必要な力のことです。
<3能力>
前に踏み出す力、考え抜く力、チームで働く力
<12能力要素>
主体性、働きかけ力、実行力、課題発見力、計画力、創造力、発信力、傾聴力、柔軟性、情況把握力、規律性、ストレスコントロール力
就職活動に臨むうえでも、学生たちのこれらの能力は欠かせません。まずは学生たちに足りない力を把握するため、社会人基礎力診断で学生たちの能力測定から始めてみましょう。