22年卒の就活振り返りと23年卒見通し(上)オンライン化で何が変わった?

オンラインセミナーリポート

オンライン会議の様子

新型コロナウイルス禍での就職活動2年目となった2022年卒が終わり、2023年卒の就職活動が本格的に始まりつつあります。21年末にリクルートグループが22年卒者の就職活動の振り返りと、23年卒者の採用見通しに関するセミナーを開催しました。同セミナーの内容を2回にわたって連載します。1回目は、就活のオンライン化が進んだことにより、学生、企業にはどんな変化があったのか? その変化や課題に23年卒者はどう対応すべきか? についてリポートします。

「22年卒の就活振り返りと23年卒の見通し(下) 23年卒の採用意欲は回復傾向」

スピーカー 株式会社リクルートマネジメントソリューションズ
HRアセスメントソリューション統括部 主任研究員 飯塚 彩 さん / 研究員 角田 瑞樹 さん


セミナー前半は飯塚彩さんから22年卒者の調査、企業調査データなどを基にした話です。新型コロナの感染拡大によって、一時は「就職氷河期の再来」が危ぶまれた22年卒の就職活動ですが、活動が進むにつれて状況は改善していったようです。

就職内定率、12月時点95.2%に

一部の業界や企業では採用抑制や採用中止といった動きがあったものの、大卒求人倍率は21年卒並みの1.50倍(前年比0.03ポイント減)に。リーマンショック時の1.20台の落ち込みまでにはなりませんでした。12月1日時点の就職内定率も95.2%と、コロナ禍前の2020年卒水準に戻っています。

22年以降に大学4年生にあたる22歳人口が急激に減少するため、今後は企業の人材獲得がますます熾烈になることを指摘。飯塚さんは「新卒採用においてはターゲットとなる母集団は小さくなる。企業にとっても、従業員の定着・活躍がさらに重要になっていく」と強調しました。

「大学生の就職活動に関する調査(2022年卒)※」(以下、学生調査と表記)の「内(々)定の有無と社数」では、卒業年次の7月調査時点で2社以上から内定を得ている学生は約6割(57.1%)に上りました。少なくとも学生の2人に1人は内定を保持しながら就活を続けており、企業は学生の内定辞退を避けるために内定を出した後も継続的なコミュニケーションが必要です。
※調査対象:22年度卒として就活した大学4年生・大学院2年生、調査期間:21年7月14日~19日、調査人数1287人)

グラフ 内(々)定の有無と社数

オンライン化がさらに進展、「1次面接はWebのみ」の企業は約3割

続いて、「採用活動・就職活動のオンライン化」について。21年卒者と22年卒者の採用プロセスごとにWebでの実施率を比較したところ、合同企業説明会は30.5%から44.1%へ、個別説明会は53.0%から74.3%へ、面接は55.0%から65.4%へ上昇しています。1次面接をWebのみで実施している企業は約3割(32.8%)、最終面接でも約1割(8.2%)ありました。(出典:就職みらい研究所「採用活動中間調査2022年卒」)

選考のオンライン化による影響は、「学生の志望度が高まる要因」に関する学生調査のデータに見られます。要因のトップは「自分がその企業で働くイメージを持つことができた」で、これまでと変化なしですが、2位「自分のことをよく理解しようとしてくれた」、3位「ホームページやパンフレット、説明会等 企業理解のための場や機会が多くあった」は増加しています。一方、「自分にとって魅力的な社員と出会えた」「接点のあった人事・社員にはお世話になったと感じる」を選択する割合は、コロナ禍以前に比べ21年卒者から大きく低下しています。

就活の最後のプロセスである「内定承諾の最終的な理由」でも、「社員や社風が魅力的である」を選ぶ割合がコロナ禍以前の20年卒者に比べて下がっています。飯塚さんは、「21年卒者以降は非対面の選考が増加したことにより、社風や社員の魅力が相対的に意思決定の要因になりにくくなっている」と説明します。

学生と企業、相互の理解が進まないという問題

調査結果から見えてきた「採用コミュニケーションをめぐる新たな問題」と、問題解消のための「これからの採用コミュニケーションとは」について、角田瑞樹さんが説明しました。

「採用コミュニケーションをめぐる新たな問題」として以下の2つを挙げました。

【学生理解の問題】
学生はリアルな学生生活を思うように過ごすことができなかったために、エントリーシートや面接での定番質問である「ガクチカ(学生生活で力を入れたこと)」で話せるような経験がないと感じる人もいました。企業からも、例年とは経験の内容や質が異なり、「ガクチカから学生の人となりを捉えることが難しい」という声も上がりました。

【企業理解の問題】
採用選考のWeb化が進み、企業と学生がリアルで接触する機会が減少したことによって、学生は複数内定を持っていても企業の違いを見い出せず、入社する企業を決められない。企業は、学生に対して企業理解・入社意欲を高めることがなかなかできませんでした。

こうした学生と企業の相互理解の不足は「内定辞退」をはじめ、入社後の「早期離職」や「メンタル不全」「停滞(活躍できない)」といった影響を及ぼすことになる可能性があると指摘しました。

社会人になる覚悟のない学生の「就業レディネス」を高める

角田さんは、「企業の採用活動のゴールは『採用』ではなく、入社した人材が『活躍し、組織が強化』される」ということを強調し、そこで重要になるのは「就業レディネス」の醸成だと言います。

就業レディネスとは、「就職先へ入社するにあたっての心の準備状態であり、社会人になるための心の準備が整うこと」を指し、学生の「自己理解」「社会人としての自覚(社会に出る覚悟ができている)」から構成され、就活への満足感を高め、入社後の活躍につながる重要なものです。

学生調査によると、22年卒者は「自己理解」について、「できている」という学生は半数以上になりますが、「社会人としての自覚(社会に出る覚悟ができている)」がある学生は半数以下という状況でした。「社会に出ていない学生にとって社会人になることを想像するのは難しいのですが、採用選考のオンライン化で『働くイメージ』をより持ちづらくなっていると言えるでしょう」(角田さん)。

グラフ 社会人としての自覚に関する状況

採用コミュニケーションに「フィードバック」を

就業レディネスを高めるには、学生本人、学校、企業が責任を共有することが必要です。その中で、角田さんは「企業には、その学生がどのように活躍できそうかなどを、誠実にフィードバックすること」を提案。採用時にフィードバックを受けたことのある学生の7割はフィードバックに良い印象があるというデータを示しました。

フィードバックのポイントは、「人物像のフィードバック」「情報提供」「働くイメージの提示」(下図参照)の3ステップで、角田さんは良いフィーバックは「その学生の人なりを受け止め、学生が自己理解をさらに深められるもの、また、入社後のイメージを持てるようなもの」だと言います。これにより、就業レディネスも高まるということです。

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相手に伝えることを適切に言語化することも重要

就活・採用活動の各プロセスにおいて、以下のように情報を循環させながら就業レディネスを高めるコミュニケーションについての話もありました。

【自らを知る】
学生、企業がそれぞれ「自分・自社を理解(強み・弱み、価値観など)」し、適切に言語化できるようにする。
【すり合わせる】
上記を双方が開示。フィードバックをしながら相互理解を深めてすり合わせる。企業は疑問・不安解消の機会も設ける。
【合意する】
学生と企業は互いに(入社後に)期待していることなども言語化して伝え、合意する。

フィードバックは、そのやり取りの中で学生の自己理解、企業理解を深め、企業側も人物像などを適切に言語化して伝え返すことで学生への理解が深まる効果があります。また、入社先を意思決定するための拠り所にもなると言います。
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新型コロナによる就職活動・採用活動のオンライン化によって、従来以上に学生と企業と密なコミュニケーションを取って、相互理解を深める必要があります。入社後に活躍できる就業レディネスを醸成するため、学生は自己理解・企業理解を深めて言語化して伝えること、企業は学生理解と期待を言語化しフィードバックすることをより意識する必要があるでしょう。

(編集部 北原理恵)