企業が社員を通わせたい大学院 企業派遣はたったの2割(大学イメージ調査から)

企業の人事担当者から見た大学イメージ調査

日本経済新聞社と日経HRの共同調査によると、直近3年間で社員を大学院に通学させたことがあると回答した企業は全体の約2割に留まりました。政府は人生100年時代の「学び直し」を推進していますが、企業が社員の学び直しを積極的に後押しするという状況にはなっていないようです。


日本経済新聞社と日経HRが実施した「企業の人事担当者から見た大学イメージ調査」※(回答数815社)で、大学院の活用について聞きました。質問の「直近3年間で、社員のスキルアップ、教養・資格などの習得のため、大学院(科目等履修生含む)に社員を通学させたことはありますか」に対して、「はい」19.8%(161社)、「いいえ」76.1%(620社)、無回答4.2%(34社)でした(図1)。


【図1】企業が社員の大学院通学を支援、2割

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社会人の学び直しが必要な2つの理由

社会人の学び直しが必要だといわれる理由は大きく分けて2つあります。1つは、人生100年時代の到来です。社員の定年を65歳に延長する企業が増える一方で、年金支給の年齢引き上げがささやかれています。現在企業勤めの人は60歳以降も何らかの形で働き、自ら稼ぐケースが一般的になるでしょう。従来は60歳、65歳で一区切りついた仕事人生がさらに続くわけで、新たなキャリア設計が必要になるからです。


もう1つは、AI(人工知能)などの技術革新によって、仕事に必要とされる知識やスキルを日々更新する必要があることと、AIなどに代替されにくい業務をする能力を身に付けなくてはならないことです。新しい専門知識を定期的に習得し、さらにAIができない能力に磨きをかける必要があります。


ところが、日本は大学・大学院などで学ぶ社会人が少ないと言われています。日本人の多くは企業に就職すると、現場重視で「学び」から離れる傾向にあります。しかし、若いときの学びの蓄えだけでは、人生100年時代、AIと共存する時代には生き残ることは難しくなってきていると言えるでしょう。


学ばせたい大学院は東大、東工大、早慶グロービスなど

質問の「社員のスキルアップ、教養・資格などの習得のため、学ばせたい大学院があれば 3大学までご記入ください。あわせて学んでほしい領域、 理由もお聞かせください。(自由回答)(領域は選択式)」で、名前の挙がった大学院と学んでほしい領域の主なものを表にまとめました。


「特定の大学院はない」と回答する企業もありましたが、名前の多く挙がった大学院は、国公立では東京大学大学院、東京工業大学大学院、私立ではグロービス経営大学院、慶應義塾大学大学院、早稲田大学大学院など。ビジネススクールとして知名度・実績のある大学院が挙がるほか、データサイエンスなどAIビジネスを支える領域や、最先端の研究機関だから、との声もありました。新技術・研究プロセスを学ぶことへの期待もあるようです。


大学院を選んだ理由を見ると、早稲田大学大学院=「海外留学生が多いので国際社会の中でのビジネスリーダーを育成できる」(卸売・小売業)など、グローバルリーダーの育成に期待する声や、京都大学大学院=「社会変革型医療データサイエンティストの育成に注力するという発表があった」(医薬品)、筑波大学大学院=「研究活動が先進的(学会への投稿論文での印象)」(サービス業)、など、研究内容に関心を持つ声も目立っています。自社の社員が先進的な研究や新技術に触れたり、多様な環境で切磋琢磨したりすることはイノベーションを生む土壌となるでしょう。今後は大学院活用の差が企業競争力の差となる可能性があると言えます。


【図2】企業が社員に学ばせたい大学院(名前の挙がった大学院で数が多かったもの)東大、東工大、早慶、グロービスが挙がった
大学院名 学んでほしい分野 理由
東京大学大学院 データサイエンス、医療・福祉など「AIといえば東大というイメージが強い」(情報・通信業)、「優秀人材との協業、連携が期待できる」(繊維・紙・パルプ)
東京工業大学大学院データサイエンス、建築・土木など「竜巻など風に特化した研究に優れた機関。流体に関する学識やシミュレーション技術を学ぶことは当社の施工に役立つ」(建設業)
グロービス経営大学院マネジメント、リーダーシップなど「学問を学ぶだけでなく、実践に生かす視点を持って勉強できる」(情報・通信業)、「派遣した人材の成果に結び付いている」(化学)
慶應義塾大学大学院マネジメント、マーケティングなど「実業界で活躍している人材を多く輩出している印象がある」(精密機器)、「日本を代表する経営管理を学べる」(情報・通信業)
早稲田大学大学院マネジメント、財務など「海外留学生が多いので国際社会の中でのビジネスリーダーを育成できる」(卸売・小売業)、「大規模大学ならではの多様性」(サービス業)

【図3】そのほか名前の挙がった大学院
大学院名 学んでほしい分野 理由
茨城大学大学院会計、財務など「事業内容にマッチする」(輸送用機器)
大阪大学大学院統計・数学、医療・福祉など「ビッグデータ対応が充実」(化学)
小樽商科大学大学院マーケティング、グローバルマネジメントなど「社会人教育に熱心」(情報・通信業)
香川大学大学院マーケティング、事業創造など「(学べる内容の)イメージがしやすい」(不動産業)
金沢大学大学院リーダーシップ、データサイエンスなど「包括連携の関係をより生かしたい」(化学)
岐阜大学大学院会計、財務など「過去に実績があり、会社でその実績が生かされている」(化学)
九州大学大学院グローバルマネジメント、事業創造など「船舶系の最先端の研究」(輸送用機器)
京都大学大学院データサイエンス、知財など「社会変革型医療データサイエンティストの育成に注力するという発表があった」(医薬品)
神戸大学大学院グローバルマネジメント、経済・商学など「学習できる選択肢の豊富さ」(精密機器)
筑波大学大学院マネジメント、建築・土木など「研究活動が先進的(学会への投稿論文での印象)」(サービス業)
東北大学大学院データサイエンスなど「高い研究力」(機械)
長岡技術科学大学大学院その他「当社取り扱い製品の研究開発をしており、即戦力になる」(電気機器)
名古屋大学大学院リーダーシップ、事業創造など「国立大学であり、独自性があるのでレベルの高い工学系の専門教育を受けられる」(電気機器)
一橋大学大学院マネジメント、経済・商学など「全ての要素においてトップランク、優秀なオールラウンドプレイヤーを育成できる」(卸売・小売業)
北海道大学大学院マネジメント、その他など「これからの社会で求められていることを学び、その上で必要な専門知識を学べる」(その他製造業)
愛知工業大学大学院事業創造、建築・土木など「専門知識の習得に力を入れている」(化学)
金沢工業大学大学院データサイエンス・情報セキュリティーなど「東京にもサテライトキャンパスがある」(情報・通信業)
東京理科大学大学院データサイエンス、統計・数学など「私学の理系大学でトップクラス」(情報・通信業)
ビジネス・ブレークスルー大学大学マネジメント、リーダーシップなど「構想力・論理思考力・問題解決力の育成に重点を置いている」(サービス業)
立命館大学大学院マネジメント、事業創造など「過去にMBA派遣の実績あり」(機械)

金融、化学は大学院活用に意欲的

直近3年間で、大学院に社員を通学させた企業を属性別で見てみましょう。業種では金融業(13.0%)、化学(11.8%)、建設業(9.3%)が多い結果となりました。比較的、企業規模が大きく、かつ、IT化やグローバル化による業界再編が起こっている業種に大学院への派遣が多いといえそうです。従業員規模では、1000人~3000人未満(29.1%)、500人~1000人未満(23.6%)の企業に意欲的な傾向が見られました。地域別では、東京(63.4%)が圧倒的に多く、東海・北陸(14.9%)、近畿(11.2%)が続きました。


社会人の学び直しの重要性が指摘される今、企業は従業員を大学院などに通わせる余裕があるのか、その価値を認めるのか。働き方改革などで就業時間が減りつつある今、従業員は余った時間を学び直しに使うのかどうか。大学は企業のニーズに合ったカリキュラムを提供できるのか。三者三様の課題を抱えています。


【図4】業種別 金融、化学、建設が多い

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【図5】従業員規模別 1000~3000人未満、500~1000人未満が意欲的

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【図6】地域別 東京、東海・北陸、近畿の比率が高い
seminar_23_img_06.png ※「企業の人事担当者から見た大学イメージ調査」概要
全上場企業と一部有力未上場企業4779 社に、大学院の活用について、「直近3年間での大学院への企業派遣の有無」「社員に学ばせたい大学院」などについて聞いた。調査時期:2019年2月18日~3月22日。有効回答社数815 社。大学院で学んでほしい領域は、以下の20項目から選択式。1マネジメント、2会計、3財務、4人事組織、5マーケティング、6リーダーシップ、7事業創造、起業、8知的財産、9コーポレートガバナンス、10グローバルマネジメント、11データサイエンス、12情報セキュリティー、13数学・統計学、14経済・商学、15法律・行政、16国際・環境、17社会・文化、18医療・福祉、19建築・土木、20その他。