愛媛Food Camp(上)学生と企業でヒット製品開発に挑戦

インターンシップの行く先

愛媛大学とリクルート新インターンシップを開発
学生のキャリアを描く一助になり、学業への意欲を向上させるようなインターンシップが実施できたら――。大学生のインターン参加が当たり前になりつつある今、参加による効果、プログラム内容も問われています。そんな中、愛媛大学とリクルートが地元企業との産学連携型インターンシッププログラムを共同開発、2021年に実施しました。このインターンプログラム開発を手掛けたリクルート就職ジャーナル編集長の中田充則さんに話をうかがいました。

共同研究のダイジェスト版をインターンシップで

ブランドの柑橘類や海産物などの宝庫・愛媛県。「地域の稼ぐ力を最大化」の観点から、地元の食品企業が特産品や付加価値を付けた製品を開発・販売できることは重要です。奮闘する地元の食品関連企業と、大学・大学院で専門知識を身に付けた学生との出会いを創出し、双方にとって幸せな採用・就職が実現できないか? 「地方活性化や学生の持ち味を活かす就職支援」に力を入れるリクルートの中田さんは、合同企業説明会でのコンテンツを工夫するなどの試行錯誤を始めましたが、ターゲットになる学生へのリーチに苦戦していました。

そこで、中田さんは、愛媛の食品産業協会の後押しもあり、ターゲットのど真ん中である愛媛大学農学部生命機能学科の菅原卓也教授を直接訪ねました。

「農学部の学生に合同企業説明会に来ていただきたいと菅原教授にお話ししたところ、説明会のようなイベント参加よりも、食品関連企業と共同研究のダイジェスト的なものとしてインターンシップができないかという話になりました。これが『愛媛Food Camp』開発のきっかけです」

産学連携してできる共同研究は1年に数回で、参加できる学生も数人。インターンシップなら、もっと多くの学生が製品開発を体験でき、そこから企業との共同研究につなげられる可能性もある。そんな「プレ共同研究みたいなインターンシップなら大学側のニーズに応えることができそう」と、中田さんは考えました。ただ、インターンシップは実施企業があって成立するものです。企業のメリットについても調査しました。

学生の持ち味と、企業の持ち味を活かし合う製品開発を

「学生は製品開発をやってみたい、大学は学生が製品開発を経験することで学習意欲を高め、大学院でさらに専門性を磨いてもらいたい、企業は大学生に自社をよく知ってほしい、大学との共同研究の芽を見つけたい――。三方で様々な希望や目的が交錯します。これらをバランスよく実現しないと、どこか一方だけに負荷がかかってしまいます。それでは効果があっても"持続可能なインターンシップ"になりません。プログラム開発にあたり、三者に話を聞いて回り、その良さやメリットとなる要素を紡ぎ出しました」

こうして、愛媛大学とともに実践学習型の10のステップのインターンシップ「愛媛Food Camp」(下記参照)を開発。学生にも企業にもプラスになることが重要だと、「学生の持ち味と企業の持ち味を活かし合う製品開発」をコンセプトにしたと言います。

自己分析、企業研究も含む実践型インターンシップのプログラム
「当社(リクルート)がこだわったことは、企業と学生、お互いの相互理解を深め、よりよい採用マッチングにつながるインターンシップにすること、それが実現できるスキームを探り新しい価値を提供することです。学生の皆さんが自分の持ち味や価値観を理解して就職活動を行い、自分らしいキャリア・働き方を選べることにつながる、そんな体験を提供することです。それがかなえば、企業は、働く個人の可能性を引き出し、組織としての生産性向上につながります。人や組織のより良い未来があると考えています」

「学生さんはインターンシップ先の企業で、学んでいることを生かせるかどうかを体験するのですから、自己分析をしてこれまで自分は何を学んできて、どういう強みがあるか、持ち味を把握することが大切です」。企業も、自社の持ち味を挙げて学生に提示、さらに学生が企業研究をして理解を深めます。

参加前の自己分析と企業研究、参加後の振り返りとなる成果報告会は大学が担う。これまでの学びの生かし方を考えて「学ぶ」を「働く」につなぎ、参加後は、今後の学びに必要なことを考えられるように教員が学生をフォローします。

「今回は、あえて学んだことを振り返り、自分にどんな変化が起きたか考える時間もとりました。そんな中で、自分には何ができるのか、持ち味は何かに気づくことができます。プログラム終了後も気づいた持ち味、どんなことをすれば自分らしさを生かすことができるのかなどを改めて考え、自分の学習やキャリアプラン考えていけるように支援しました」

4つのステップで愛媛の特色を生かした食品を作り上げる

インターンシップには、1企業に学生2~5人がグループとなり、18社に62人の学生が参加しました。企業研究の結果をふまえて企画した商品を企業にプレゼン、企業の担当者とディスカッションをしながら試作、改良を重ね、製品化を進めます。

製品開発はコロナ禍によって8割がたWebでの実施という状況で、愛媛ならではの試作品が完成しました。海産物加工・販売企業では「しらす入り魚肉ソーセージ」、豆の専門店では「みかんの皮と一緒に煮込んだ黒豆」、アイスクリーム専門商社では「柑橘類やトマトなどを使ったアイスクリーム」など。

インターンシップで学生が手掛けた製品 学生が手掛けた製品
学生からは、「新たな商品を開発する難しさを痛感しつつ、仲間と協力することで、目標を達成できることを学んだ」といった声が聞かれました。

開発した製品の中では、実際に販売されたものもあります。参加企業18社への事後アンケートでは、製品化した企業ではインターンシップ実施の満足度が高く、製品化できなかった企業でも、製品化できるまで継続してインターンシップを実施していきたいという声がありました。製品の完成にかかわらず、学生から刺激を受けて従業員が活性化するなどの効果も見られたと言います。

学生、大学、企業、みな愛媛の活性化という目的は共通

「インターンシップの目的は、学生、大学、企業でそれぞれ違いますが、『愛媛県のヒット商品をつくって、地域経済に還元する』という思いが一致、共有しています。よくパーパスと言いますけど、『何のために』といった共通のパーパスがないとインターンシップが瓦解するかもしれません。食の宝庫である愛媛には、食品業界をひっぱる人材を愛媛全体で育てていくんだという気持ちを持つ人が多く、そこに愛媛のアイデンティティを感じました」

「愛媛Food Camp」は、「愛媛県の地方創生を食品業界がリードする」を合言葉に、大学、企業、リクルートで効果測定をしながら中長期的に継続していきます。企業は自社の認知度や就職意向、共同研究の可能性、この企画で生まれた製品の収支などを測ります。大学は、学生の就業感や大学院進学率、県内就職率などを見ていきます。そして、「愛媛Food Camp」発のヒット商品が出るかどうか――。

学生、大学、企業が、それぞれが役割を担いながらメリットを享受し、地域を盛り上げる。今後のインターンシップを変える可能性を秘めた新しい試みが始まりました。