愛媛Food Camp(下)学ぶ意欲を向上させ、進学の誘導も

インターンシップの行く先

産学連携の実践型インターンシップを開発
前回は、愛媛大学とリクルートが開発した、インターンシッププログラム「愛媛Food Camp」について、リクルート側の声を紹介しました。今回は大学側の視点として同大学農学部生命機能学科の菅原卓也教授に話をお聞きしました。

「愛媛Food Camp(上)学生と企業でヒット製品開発に挑戦」はこちら

就業体験によって学ぶ目的を持つ

愛媛大学農学部生命機能学科は、「食と健康」が教育の重要なポイントです。愛媛県の地元食品メーカーとともに食べ物の健康機能を評価し、その成果を機能性食品の開発につなげるという研究にも取り組んでいます。

「いろいろな種類の健康食品を世に出し、その効果を実感してくれる人がたくさん出てくれることを考えて研究、教育に取り組んでいます。農学部なので、やはり社会実装といいますか、社会にどれだけ貢献できるかを大切にしています」

地元食品メーカーからは「学生さんと一緒に開発したい」「学生さんの意見を取り込んで製品を開発したい」という依頼は少なくありません。学生も「食品の製品開発に携わりたい」という希望を持って入学する人が多いと言います。
実践学習型インターンシップを開発した愛媛大学の菅原教授 愛媛大学農学部・菅原卓也教授

しかし、共同研究や製品開発ができるのは年に数回。学生に参加を呼び掛け、学部生から修士まで約250人いる中、1度に50人の手が挙がっても参加できるのはわずか数人。「なるべく多くの学生に製品開発を経験させる手立てはないものか?」と、菅原教授は考えていました。

「リクルートさんに、学生が製品開発を経験できるようなインターンシップができないか相談しました。大学で学んだことが企業ではこう生かせるだとか、製品開発職に就くにはもっと知識が必要だとか、そういう気付きがあれば学業にも身が入ってくると思うのです。目的なしには勉強はできませんから。学生のうちに製品開発という仕事に本当に向いているのかどうかも体験してほしいです」

学部生と修士院生で一緒に就業体験し、進学を促す

「愛媛Food Camp」の開発により、年に数人しか体験できなかった製品開発に、生命機能学科の学部生、院生合わせて62人も参加できることになりました。食品の研究開発職への就職を希望する学生が多いものの、学部卒業生の場合、半分以上は専攻とは関係のない業種や職種に就職しています。食品関連の製品開発、研究職に就くには大学院修了者が圧倒的に有利だからです。学びを生かした仕事に就けるよう、インターンシップによる大学院進学への誘導も目的の1つとしています。

「インターンシップには学部生と院生の混合チームを派遣しています。知識や経験が豊富で、リーダーシップを取る院生を見た学部生が刺激を受け、『修士まで行かなくては』と考えてくれればという思いがありました」

また、「愛媛Food Camp」は通常の企業との共同研究・製品開発とは違い、教員はほぼ介入せず、学生と企業が主体となって取り組むようにしています。学生は各企業の優位性や特徴をとらえ、ターゲットとなる消費者を想定するなど、綿密な計画を立てて製品開発を進めました。製造過程で排出され、現在は捨てているものを有効活用するSDGsにつながる観点で取り組んだグループもいました。

「製品開発には応用力が求められます。どこかに問題があって、それを解決するためには色々なアイデアを出す、その中で1番よさそうなものを試して解決できれば進み、できなければ第2のアイデアを試すという思考錯誤があります。そうした応用力は大学院での研究で養われます。企業で製品開発をするなら、『大学院で研究や実験などの体験を積んでから、就職したほうがいいんだろうな』と気づいてもらえればいいと思っています」。

成果報告会では学生の成長を実感

菅原教授以外の教員もプログラムに積極的に関わってくれたと言います。「地方国立大学は地方産業の活性化に貢献するというミッションがあります。学生が地域の企業でどれだけ活躍できるかをサポートすることも重要です」。自己分析や企業研究、就業体験の振り返りは、教員が学生の中に入ってサポートしました。

「自己分析では、18の企業グループそれぞれに教員が1人付きました。自己分析は個人情報もあるので、あまり教員も深入りできない部分もありますが、学生の今までの経験について掘り下げる作業を一緒にしました。企業研究でも、地元企業がどんな事業をし、どんな特徴があるのかを学生と一緒に理解するいい機会でした」

成果報告会では、学生の成長を実感できました。「製品化までこぎつけたグループの発表では、しっかり考えをまとめたプレゼンを見て、成長したなと感じました。『製品開発にもっと興味をもった』という学生も多かったです。もちろんうまくいかなかったところもありましたが、うまくいかないところをどう対処するかも学んできたようです」

1年目はまずまずの結果となりました。愛媛Food Campの効果を年々高めながら、地域産業に貢献できる研究者を増やす計画です。

(編集部 北原理恵)