AIにはできない、人とのご縁を大事にする力を
久米さんは、「人生100年時代の社会人基礎力」の体現者ともいえる人物。多様な経験で社会人基礎力の3つの能力を鍛え、人生100年時代に生涯学ぶ姿勢で、活躍の場を広げています。肩書は、iU情報経営イノベーション専門職大学教授、多摩大学客員教授、明治大学講師、家業の国産Tシャツメーカーの相談役、社会貢献支援財団や日本舞台芸術振興会の評議員、ベストセラー『メール道』をはじめとするビジネス本作家、地元の観光協会理事・・・と、その一部も書き切れないほど。出会った人から誘われた仕事や活動に参加し、その活動先の出会いや成果で、新しい誘いがあり、一つひとつの縁を徹底的に大事にしてきたことで、学びと活動の場が広がっていったと言います。人との信頼関係を築くこと、ご縁を大切にすることは、AI(人工知能)にはできない人間ならではの大事な力。久米さんはそのノウハウを16カ条にまとめ(下図)、大学の授業や様々なセミナーで必ず話しています。
「初めての人と会うときは、事前準備が重要。これから会う人のことをインターネットなどでよく調べます。証券会社のトップセールスの友人が『会う前にその人は何が好きかを把握し、自分もそれを好きになれたら営業は7割終わったも同じ』と言っていました。日本の某一流経営者なども実践していますが、セミナーなどでは一番前に座り、必ず1つは質問する。そして、名刺かSNSを交換。当日中に、セミナーで学んだことなどをSNSでシェアしたり、お礼状を書いたりします。その後も、その人がイベントをやる際には参加します」と、久米さん。
この秘策を様々な場で話しても、実行している人はごくわずか。自分が特別だからできるのではなく、誰にでもできることを、やるかやらないかだと言います。
人生の目的はやっぱり幸せになること
なぜこんなにも多くの活動をこなすのかは、「学ぶ」はもちろん、楽しいから。目指しているのは、「遊ぶように働き、働くように遊ぶ」なのです。久米さんの生きる目的は「人間はやっぱり幸せになること」と言います。一方、学生に人生の目的をたずねると、「人並みに暮らすこと」が大多数で驚く。さらに、「就活するために生きている」「婚活するために生きている」の声も多く聞くそうです。
「学生は、人並みに暮らすために働かなくてはいけない、働くために学ばなければいけない、働いたらちょっとだけ遊ぶ、と考える傾向があります。目的と手段が逆転していますね。働くためにスキルを身に付けるわけではなく、学んで幸せになるのだと思います」
「幸せ」になる力も、社会人基礎力
「幸せになる」と社会人基礎力のつながりを、久米さんは次のように言います。「幸せな人は、『世のため・他人のため=自分のため』に動く人です。広島に、少年院を出た、居場所のないような子どもに食事を作ってごちそうするなど、家に来てくれる誰をも受け入れるおばあさんがいるんですね。できる範囲で無理せず楽しそうにやっています。自分も楽しく、人(他人)のためにもなる、これは究極の社会人基礎力ではないかと思います」
「幸せ」について学生に話すことも多く、「社会人基礎力を高めて、幸福をもたらしたい範囲は?」という質問を学生に投げかけると(下図参照)、「自分が幸せならいい」「自分と身内が幸せならいい」という回答の多さに驚くと言います。小学生に聞くと、「日本」や「世界」と回答する子が多く、教育を受けていくほど視野が狭くなっているのでは?と、日本の教育に疑問を持つことも。
幸せを時間軸で捉えた質問『社会人基礎力を高めて 幸福をもたらしたい期間は?』においても、「今だけ幸せならいい』という学生がほとんど。『自分が死ぬまで幸せに生きたい』とか、100年後、1000年後の幸せは考えていないのです」(下図参照)。
半分は自分を、半分は世界を見る
自分のことだけでなく大きな視点で世界平和を考えれば、世界が分断されないように、パンデミック時にワクチンを分け合うなど助け合う心が生まれます。時間軸であれば、今だけでなく100年先、1000年先の幸せを考えれば、地球環境に優しい生き方ができる――。「半分は自分、半分は世界の幸せを考える半分は今を、半分は遠い未来を考える」。久米さんはそんな視点を養うことによって、社会人基礎力も高まるのではないかと考えています。「私たちのように人に教える立場としては、他人実現、学生たちの夢の実現を考えますし、自分の孫の代を想いながらいい時代を作れば、孫もその孫の代を想って生きるという、いい循環ができますよね」
社会人基礎力の育成においても、未来に目を向けて「生涯で実現したい夢」を持てば、その実現に向けて「前に踏み出す力」が湧き、そのための一里塚として今やること、10年後やることに一生懸命になれると説きます。
「八方よし」で「独創共栄」できる人材育成
久米さんの人材育成の現場にも、「世のため=自分のため」が表れています。iU情報経営イノベーション専門職大学の教授として、久米さんが育てたいのは、みんなを幸せにできれば、自分も幸せになれる「八方よし」で「独創共栄」できる起業家です。「顧客やビジネスのパートナー、社員、地域社会、株主、地球環境、文化芸術、地域社会と、ビジネスをとりまくすべての人がハッピーでないといけないと思うのです。八方を幸せにしたら、八方から自分も応援してもらえます。独創的でありながら、ありとあらゆるものごとと共栄できることが大切です」
「独創共栄」は、「チームで働く力」にも通じ、チームで夢と理念を共有しつつ、一人ひとりがオーケストラのように独創して才能を発揮、調和するイメージだと言います。
DX革命には、趣味を楽しむ力を
そして自分自身がやることを「楽しめるか」も、重要キーワード。DX革命でAIがホワイトカラーの仕事を担い、働くことへのウエートが減るこれからの時代に楽しみを見つける力を提案しています。久米さんにとってのDX革命は、「収入が減っても、ベーシックインカムなどが生活の下支えとなり、サブスクリプションやシェアエコノミー、〇〇し放題の浸透で、お金をかけなくても、生活や、文化・芸術が十分楽しめる時代」です。仕事が減って時間ができた分は、趣味を持つなど自分の好きなことに焦点を当てて、それをSNSなどで発信して、人と共有して楽しむこと。人からの「いいね!」などは期待せず、自分の楽しさを追求し「1人〇〇クラブ」を創ってSNSで発信するのです。自分の好きなことを好きなように発信するうちに、好きなことへのアンテナや、ズームする力が湧いてきて、新社会人基礎力に通じる知的生産力がついてくると言います。しかも、けっこう誰かがそれを「いいね!」と思ってくれるものということも、久米さんは体験済みです。
「SNSで発信すれば、頭の中が整理されるばかりか、発信するための写真を撮ったり、図を起こしたり、文章をどう書くかなど様々な能力が鍛えられます。さらに、アウトプットによって脳のメモリ空間が空き、新しい情報も入ってきやすいというメリットもある」、と久米さん。これが社会人基礎力の「考え抜く力」を鍛えるのにも役立つと言います。
先生ではない誰かに褒められる、それが学生の原動力に
多摩大学の「SNS論」では次のように実践しています。「『地域のおもしろい景色を探せ』『おいしいパン屋を探せ』というお題の授業は、盛り上がりました。多摩動物園の動物を撮影・投稿して、みんなで褒め合うんです。みな撮影してきた動物も違いましたし、その人気投票をしても、みな違うものに投票するのがおもしろかったですね。学生たちも盛り上がりました」
学生たちは先生が教えても響きませんから、学生同士「Yes・But方式」で、まず褒めて次にアドバイスする。自己肯定感が高まり、「何かやってみよう!」という気が起きるようです。
「iU情報経営イノベーション専門職大学では、電車の座席の譲り合いアプリを開発したら、鉄道会社の人に私がつなぎ、鉄道会社で学生が褒められたり、商店街活性化のアプリ開発では、商店街の人に『いいね君たち』と言われたりすると、自分は社会で必要とされていることが分かり、それが学生の自信につながります」
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自分も教えるのが楽しく、学生も授業を楽しく学ぶ――。社会人基礎力は、学び合い、共鳴し、高め合うといった、集団で盛り上がる力でもあるのも、久米さんならではの発想でした。
(編集部 北原理恵)