「社会人基礎力育成グランプリ」大賞を3度受賞――教員の取り組みとは

社会人基礎力育成グランプリの大賞を受賞した学生たち

創価女子短期大学の教育に関心を寄せる声

授業やゼミ活動を通して社会人基礎力の成長を競う「人生100年時代の社会人基礎力育成グランプリ」(主催:一般社団法人社会人基礎力協議会)。2021年度は全国から32チームが出場し、地区予選大会を経て決勝大会で大賞に輝いたのは、創価女子短期大学でした。同短大の大賞受賞は2年連続という快挙にして3度目。短大という短い期間で「学生が成長する教育にどのように取り組んでいるのか知りたい」という大学教職員の方々の声も多く聞かれます。社会人基礎力を育むカギは何か――。学生を大賞に導いた創価女子短期大学の水元昇学長と青野健作准教授に話を聞きました。

創価女子短期大学「人生100年時代の社会人基礎力育成グランプリ」の受賞歴 創価女子短期大学が「人生100年時代の社会人基礎力育成グランプリ」で、初めて大賞を受賞したのは2018年度。水元学長の指導のもと、現代ビジネス学科の学生が、文通による「不登校で悩む子どもたちの支援」に取り組みました。

2020年度は、水元学長の指導する国際ビジネス学科の学生が、児童虐待で苦しむ親子を救うための「児童相談所虐待対応ダイヤル189」の普及活動で2度目の大賞を受賞しました。
20年度の詳細はこちらから(https://career-edu.nikkeihr.co.jp/category03/2020kisogp.html)
2021年度は、国際ビジネス学科の青野准教授のゼミ学生が『生理の貧困をなくそう』の取り組みで大賞を受賞しています。
21年度の詳細はこちらから(https://career-edu.nikkeihr.co.jp/category03/2021kisogp.html)


1年次の春学期から始まる必修のゼミ教育


社会人基礎力の育成に力を入れる水野学長 学生一人ひとりに向き合うゼミ教育に力を入れる水元昇学長

――短い期間で大きな成長を遂げる学生に驚く人も多くいます。社会人基礎力の育成など、どのような取り組みをしているのか教えてください。

水元学長 本学が力を入れているのはゼミ教育、いわば少人数教育です。学生の顔を見ながら、一人ひとりがどのように成長しているのかがわかります。教員は学生の学ぶ意欲を高めるために、しっかりと学生をサポートします。

国際ビジネス学科では、「入学から卒業まで続くゼミナール」を掲げています。 もともとゼミは2年生からの「専門ゼミナール」のみでしたが、1年次秋学期に「入門ゼミナール」を設けました。これをベースにして専門ゼミで専門性を高めます。2015年にはさらに、1年次春学期に「基礎ゼミナール」を導入しました。全学生必修です。基礎ゼミでは、レポートやプレゼンテーション、ポスターセッションなどを通してスタディスキルを磨きます。

1年次に基礎ゼミがあって、そのうえで入門ゼミに取り組み、2年次に専門ゼミに入るという流れを作りました。この「基礎から専門へ」という学びを通して、2年という短期間で成長できる体制になりました。

ゼミでの取り組みは必ず発表、共創する学生たち


SDGsをテーマにゼミに取り組む学生たち 様々な社会課題の解決に取り組む学生たち

――ゼミ教育に対する学生の様子はいかがですか。

水元学長 ゼミに対する意識は非常に高いです。2年次の専門ゼミでの活動を、秋学期に開催する学園祭の「白鳥祭」で発表する場を設けています。各ゼミでの研究内容を展示し、さらに冊子にまとめて来場者に配布するゼミもあります。最後にゼミ論文を書き上げて卒業となります。

1年次春学期の基礎ゼミでは、広く社会に目を向け、課題を見つけ、その解決に取り組むこと自体を学びの目的とし、それを通してスタディスキルを身につけることを目指しています。今は、「SDGsを通して『これからの社会を考える』」をテーマに、社会課題を調査して発表しています。レポート、ポスターセッション、さらにプレゼンテーションでの発表会でこれからの学びの土台をつくることができます。いい意味で学生同士が刺激し合いチームで取り組む「共創」という良いかたちでも取り組めています。

学外に向かっていくことの大切さを知る


ゼミ発表で社会人基礎力を磨く学生 学生たちはゼミでの「発表」を通してスタディスキル、専門性、社会人基礎力を磨いていく

――貴学の学生の受賞歴は「人生100年時代の社会人基礎力育成グランプリ」に留まらず、数々あるようですね。

水元学長 本学のある東京・八王子地域では、行政と大学・短大・高専が連携・協働する「大学コンソーシアム八王子」があり、そこでは学生がゼミなどの研究成果について発表する「学生発表会」があります。十数年前に、1年次秋学期の入門ゼミの学生を連れて発表会に参加したことがあります。

12月の発表当日、集まった大学生3・4年生、大学院生たちを見て、ゼミを始めて3カ月ほどの学生に挑戦を勧めたことを申し訳なく感じました。ところが、学生たちの一生懸命な発表に対して、なんと「優秀賞」をいただいたんです。取り組む期間に関わらず、真剣に取り組んで実力を出せれば評価していただけるということを実感しました。それから毎年参加しています。

学生たちは発表を目指して切磋琢磨し、学外の方々に評価していただくことで成長し、自信を持つようになります。様々な大会での発表に向けて、自分たちの提案を考え抜き、それぞれの持ち味を発揮して困難を乗り越え、徹して取り組むことによって、まさに社会人基礎力の「前に踏み出す力」「考え抜く力」「チームで働く力」が育成されることが分かりました。

こうして、外に向かってゼミ活動を発表しようと、様々な大会に出場するようになりました。その1つが、学生が見つけてきた「社会人基礎力育成グランプリ」です。

大会は2つ以上に出場し、最後までやり抜くこと


――大会出場に向けて、何か指導のポイントはありますか?

水元学長 取り組み自体を継続的に行うように心がけています。そのため、学生には2つ以上の大会に出ることを勧めています。1つの大会だけでは、大会が終わった時点で活動が終わってしまいます。次に挑戦することは研究や発表の完成度を高めることにもなりますし、最後までやりとげることを経験することが大事だと考えています。

2018年度に取り組んだ「不登校で悩む子どもたちの支援」は大変難しいテーマでした。学生に「そのテーマを卒業までにやりきれるのか」「どんなことを考えているのか」と、何度も問いかけました。その度にむしろ「どうしてもなんとかしたいんです」と、学生の思いは一層強まりました。

学生たちは自主的に、不登校の支援に関わる人たちや、ご家族、小学校の先生など様々な人に話を聞きに回りました。ほめられたこともあれば、叱られたこともありました。それでも自分たちで決めたことですから、あきらめなかったんですね。受賞後、学生たちはこんなことを言っていました。

「賞をいただいたこともうれしいけれど、最後まで自分たちでやりきれたことが一番うれしかったです」

「何のために取り組むか」を学生に問う


社会人基礎力育成グランプリ初指導で学生が大賞受賞 面談を繰り返し、学生の「志を育む」ことも大切にする青野健作准教授

――青野准教授は今回が初めての大会出場でした。

青野准教授 私は実務家から教員になって3年目になります。2年目の昨年、学生から「社会人基礎力育成グランプリに出場したい」と言われて取り組みました。指導教員というよりもチームの一員との自覚で参加させていただきました。

学生たちは、ゼミの研究活動を通して、学んだことが学外でどう評価されるのかを知りたいという考えがあります。そうした学生の研究成果を発表する機会として、春に2つ、秋にも2つ、学外のコンテストに出場しました。さらに「白鳥祭」の発表など、実践を通して学生とともに学びを深める中で自身の指導力も鍛えていこうとしています。

今回大賞を受賞した「生理の貧困」については、学生たちの研究や発表について、あれこれと細かく指示しないように気を付けました。ただ、「どのような問題意識を持っているのか」「なぜこの活動に取り組むのか」を問い続ける面談を繰り返しました。その結果、彼女たちの「生理の貧困で困っている人たちを支援したい」という気持ちが強まり、社会課題を他人事ではなく「自分事」として捉えることができるようになったのではないかと考えています。

――大会などの発表に向けて学生を指導する際は、出すぎても学生の自主性が失われますし、その距離感が難しいと言われていますが、どのようなスタンスでしょうか。

社会人基礎力育成グランプリ初指導で学生が大賞受賞 「学生を主役に顔の見える教育」を心がける青野健作准教授

青野准教授 本学は、開学以来、「学生第一」の精神を大事にしています。大学教員になって学生と共に学び進める中で、一人ひとり様々な考えを持っていることがよく分かりました。そうした学生の自主性を重んじるには、学生一人ひとりを理解する「顔の見える教育」が大切です。

水元学長 ゼミのテーマに取り組む際には、「何のために」という学生の志や目的感を大切にすることが重要です。テーマ設定が甘いと、社会問題への強いモチベーションが保てなくなるので、どこまでも自分たちで考え、決め、取り組んで、壁にぶつかったら教員がそこでフォローする。学生たちが最後まで自分たちでやりきったと思えることが大切です。

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教育のシステムとしてゼミがしっかり機能していること、学生一人ひとりに向き合った教育、学外に向かって学生たちの学び・取り組みを発信することなどの重要性をお聞きすることができました。10年前から学生にiPadを配付し、学生のITリテラシー向上を推進してきたこともわかりました。