新社会人基礎力の鍛錬法(下)「生涯かけて実現する夢」を持とう!

社会人基礎力を磨く久米信行さんの活動
大学教授としてアカデミックの分野から、ビジネス、非営利活動、文化・芸術の領域まで、要職に就いて活躍している久米信行さん。前回は、そんな久米さん視点で人生100年時代の新社会人基礎力の本質に迫り、学生たちとの向き合い方を紹介しました。今回は、社会人基礎力の3つの能力「前に踏み出す力」「考え抜く力」「チームで働く力」を、実際にどういう方法で鍛えるのか、久米さん流メソッドを具体的にお伝えします。

新社会人基礎力の鍛錬法(上)目指すは 「遊ぶように働き、働くように遊ぶ」

社会人基礎力を養うときに目的と手段を間違えずに

社会人基礎力の3つの能力「前に踏み出す力」「考え抜く力」「チームで働く力」を鍛える前に、久米さんが一貫して強調しているのは、それぞれの力を養う「目的や目指すところ」と、その「手段」を間違えないということ。人生100年時代の新社会人基礎力の「何を学ぶか」でも、目的は「それぞれの人の人生が幸せである・幸せになる」ことであり、「仕事をするために学ぶ」ではありません。そして「学ぶのは手段」だと。

夢があるから「前に踏み出せる」、夢の実現の強化にNPO活動を

社会人基礎力を久米さん流に因数分解すると、まず「前に踏み出す力」を鍛えるには、「生涯かけて実現する夢」を持つ「ライフワーク志向」が軸になると言います。

生涯学ぶ姿勢の久米信行さん 「年々学ぶ意欲が増す」と話す久米さん。上記の図(記事冒頭の画像)は久米さんの活動範囲
「『私が生涯かけて実現したい夢はこれです!』というように、夢の実現に向けて『10年後にはこれをやっています、今はこれを学びます』と、夢があるから前に踏み出せると思うのです。学ぶから、研修をするから前に踏み出せるわけではありません」

ライフワークを強化する手段には、NPO活動を勧めます。仕事のようにお金を稼いで能力を養うこと、お金に関係なく(むしろお金を使って)社会に貢献するNPO活動、この2つのバランスを取ることが人生を充実させるのだと説きます。

社会人基礎力を極める
「NPOに行くと、異業種の人はもちろん、志の高い人たちに出会えます。お金に関係なく志で本気になって動く人たちと一緒にいると人間は変わります」

付き合う人が変わると、考え方、働き方、遊び方が変わり、人脈の広がり方も変わり、結果、社会人基礎力も磨かれていくと言います。困っている人の支援をする、地域振興、文化・芸術発展に私財や労力を惜しみなく投入するなど、自分さえ良ければではなく、様々な人や事物との「共栄」に尽力する人は、人からの尊敬を集め、人の輪も広がると。

人生のロールモデルとなる師匠を探す

さらに情報源を多く持つことも提案します。学生は「今さえよければ」と、時間軸の短い人が多いことから、久米さんは、時空を広げるために「SF小説」「古典」の名著を読んだり、国際ニュース、足元の地域の情報を押さえたりすることを勧めます。過去、未来、世界、日本、地域の情報収集で、スマホの中だけでは見えない世界が見えてくるのです。

「学生が身体にチップを埋め込まれても全然OKと言っていて驚いたのですが、今の学生は、監視社会の恐ろしさを描いたジョージ・オーウェルのSF小説『1984年』なんて読んでないんでしょうね」

そして、「前に踏み出す力」を鍛える源となるライフワークの強化に、久米さんが最も大事だと思っている「10人の師匠を探すこと」を挙げました。

「私の経験から言えば、一番大切なことは、人生のロールモデルとなる10人の師匠を持つことです。このような人になりたいという人が出てきて初めてライフワークが強化されると思います。師匠が見つかったら、講演会・勉強会に行ったり、師匠の本を読んだり、SNSをフォローしたりしましょう。情報収集をしていれば師匠を見つけることもできます」

学んだことはSNSで発信、実現したいことは言い続ける

「考え抜く力」を鍛えるための提案は「知恵を受発信するハブになること」です。そのためにも「あらゆる知恵をインプットしながら、編集して発信してそれを最終的に企画にしてプロジェクトにしていく能力を身に付けてほしい」と言います。具体的なアクションとして、SNSでの発信と実現したい夢を語ることを提案します。

SNSの発信は、その日に学んだことを学んだままにせずに、1日最低1つは発信して、脳と外部記憶に貯める作業をすること。学ぶ内容は師匠の哲学や方法論、師匠が勧める本や文化・芸術などが適していると言います。SNSで発信することは、考える力や構成力、文章力の養成に通じます。さらに、会社で何かプロジェクトを進める時には社外の人の力も必要になることから、SNSで様々な人材とつながっておくことを力説しました。

社会人であれば、仕事で実現したい事業や商品・サービスを職場で繰り返し語り続けてほしいと言います。

「私も実現したい事を職場で繰り返し話していました。語り続けて3日、3カ月、3年超えると自分の脳も変わり、めどは10年で、1万時間経つとブレークするという気がします」

継続的に夢を語り続けること、考え続けることが夢の実現への近道であることを教えてくれました。

職場の人たちとSNSで趣味の話を

「チームで働く力」の目指す姿は、前回も紹介した「独創共栄チーム」。夢と理念はみなで共有しつつ、一人ひとり独創的に才能を発揮し、最終的にいいチームワークが取れる――。自律型のオーケストラのような組織です。

「リーダーシップをとる場合も一人ひとりの相互尊重が重要で、偉いから言うことを聞け! は通用しません。一人ひとり同じものを見ても、感じ方が違ったり、行動が変わったりすることを前提に、『チームで働く力』を考えなくてはいけません。外国人もいますしね。違う考えを持つ人たちをまとめる、ファシリテートする力を鍛えることが大切です」

テレワークが普及する中、チームマネジメントには、テレビ会議システムやプロジェクト管理ツールの活用、エニアグラムなども有効ですが、SNSでの雑談も軽視してできないと強調します。上司も部下も趣味の話をしたり、好きなものを共有したり、プライベートに踏み込み過ぎない程度に仕事以外の話をするといった、適切なコミュニケーションを取る新しい基礎力も必要ではないか? と、久米さんは問いかけます。雑談は、夢と理念の共有のためにも、「独創共栄」のためにも必要なことでしょう。そして、久米さんは3つの社会人基礎力の鍛錬には、SNSの活用は不可避だとまとめました。

(編集部 北原理恵)