社会人基礎力育成グランプリとは
社会人基礎力育成グランプリとは、大学等での授業やゼミ・研究などの活動を通して社会人基礎力などの能力、学びの姿勢を身につけ、伸ばし、成長した学生チームを表彰する大会です。学生を表彰するだけでなく、社会人基礎力の育成に効果的な取り組み事例を広く社会に周知することも目的の1つです。
「社会人基礎力とは? その意味と伸ばし方を解説」
社会人基礎力をどのように成長させたかに注目
22年度決勝大会は地区予選大会を勝ち抜いた6チームが登場しました。各チーム、教員の指導内容をはじめ、学生たちの取り組んだ活動について、そのきっかけ、目標、具体的な活動、トラブル・失敗、成果、自身の成長などについて発表します。冒頭で、社会人基礎力育成グランプリ委員会の市川純章委員長(諏訪東京理科大学工学部教授)は、「学生の皆さんが社会人基礎力をどのように成長させたのか、大会ではそこに注目しています」と、審査のポイントを説明しました。
拓殖大学――日本酒の魅力発信活動で、コミュニケーション理論を実践
最初の発表は、拓殖大学のお酒好きメンバー4人が取り組んだ「⽇本酒魅⼒向上委員会 〜お酒好きの私たちが⽇本酒の魅⼒伝える挑戦~」。日本酒の海外輸出量が増加していく一方で、減少する国内消費に課題を見つけ、若い世代に日本酒の魅力をアピールする活動を展開。インターネットのフォームを活用した日本酒に関するアンケート実施をはじめ、酒蔵での聞き取り調査、日本酒をテーマとしている他大学ゼミとの情報交換など、魅力発信の手段を探りました。情報収集で判明した「日本酒の種類が多くて選び方が分からない」という消費減少の一因の解消を目指し、まず、スマートフォンから簡単に自分に合う日本酒を見つけられるアプリの提案を試み、国税庁主催のビジネスコンテストに挑戦しました。しかし、惜しくも落選。振り出しに戻り、日本酒の魅力を記載したポスターを制作し、居酒屋に掲示することに方向転換したのです。
ポスターを掲示した居酒屋では「料理に合わせた日本酒を店員に聞く人が増えた」などの効果を得られました。学生たちは、居酒屋とのポスター掲示の交渉では、ゼミで学んだコミュニケーション理論を実践し、魅力発信について考え抜く力を身に付けたり、また目的に向けてメンバー全員で着実に活動を続けることができたと報告しました。
準大賞は大阪経済大学――デジタルで農作業軽減、考え抜く力などを培う
続いては、農作物の「収穫と選果の⼿作業を⽀援するアプリ『Sortable』」の開発に取り組んだ大阪経済大学・情報社会学部チームです。農家に関わりのあるメンバーが、就農者の減少、経験で培う技術の継承の難しさ、国内農家の9割以上が個人経営でありデジタル化が進んでいないという課題を提示しました。そうした農家の作業支援に向けて、農作物を撮影すると「大きさ、傷の状況、個数、熟れ具合」をAI(人工知能)が認識し、選別に必要な情報を画面上に表示するベータ版を完成させました。アプリ化へ活動を続けると言います。学んだことについては、ビジネスとしての優位性を考え抜くことや、チームで目標を1つに情報を共有する大切さ、インターネットだけでは重要な情報は得られないことなどと話し、準大賞を受賞しました。
拓殖大学――多国籍チームによる外国人の医療格差の解消
日本人とインド人の多国籍チームを組んだ拓殖大学では、「留学⽣と医療の架け橋に」をテーマにダイバーシティアンドインクルージョンを意識した活動に取り組みました。留学生が目の痛みを診てもらった医師から、「『眼科』に行くように」と言われたことを「がん」と受け取り、不安に陥ったという話をきっかけに、チームが目指したのは外国人向け医療情報の格差解消です。留学生を対象にインターネットを通じたアンケート調査を実施し、留学生に必要な情報が届いていないことが分かりました。そこで、既存の医療情報を拡散するためのチラシを作成して配布したり、必要情報を集約したポータルサイトを立ち上げたりしました。留学生のリアルな声を聞くことで真の課題を発見する力や、チラシやポータルサイト制作による情報発信力、コミュニケーション力が身に付いたと話します。今後も、留学生のみならず在日外国人向けの情報発信ツールを制作する活動を続けるそうです。
準大賞に北星学園大学――外国人とのトークイベントでグローバルな巻き込み力を身に付ける
流暢な英語でのあいさつから始まったのは北星学園大学の発表です。取り組んだテーマは、「異⽂化間チームビルディングのためのマレーシア企業との協働イベントGlobal Fireside Chat」。海外に興味はあるけれど、前に踏み出す勢いもなく、将来の目標も決まっていない...。そんな18人が「自分を変えたい」を目標に、すべて英語で、マレーシアのイベント制作会社のもとでトークライブイベントを企画するプロジェクトに挑みました。18人は最初に11カ国でのオンライン・グローバル・インターンシップを経験し、その後、チームが一丸となりこのイベントに取り組みました。当日はカナダやインドなど6カ国のビジネスパーソンをゲストとして招き、グローバルな仕事観について英語でトークを繰り広げ、オンラインで配信し22カ国からの視聴者を集めました。
メンバー全員がコンテンツ制作、広報、司会進行などの役割を分担し、その経験を通し、グローバルな環境下での課題解決力、考え抜く力、判断力が鍛えられたと言います。また、困難があっても諦めず粘り強く挑戦し続けたことが、多様な人との関係構築能力や、国を越えての巻き込み力につながったと話しました。世界の人々との出会いを通しそれぞれが大きく成長した姿を披露し、準大賞を受賞しました。
大阪経済大学――デジタルサイネージの機能を向上、チームで働く力に気付き
5番目の発表は、大阪経済大学による「⾏動把握によるインタラクティブなデジタルサイネージ『Act-is』」。ビジネスプランを考えるゼミで、学生たちが目を付けたのは市場拡大が続くデジタルサイネージです。広告関連企業に聞き取り調査を実施し、広告効果のデータ化が困難、広告主へのサイトへの遷移が不便、広告閲覧後の行動追跡が困難といったデジタルサイネージの課題を発見、これらの解消を試みました。デジタルサイネージに人が接近した際に表示の大小を変化させることを実現、また、デジタルサイネージの前に立ち止まった人のスマートフォンに詳細な情報を送信する連携機能を考えました。デジタルサイネージに接近した人のその後の行動をカメラで読み取り行動追跡する機能は実験を続け、大手引っ越し企業などと連携してマーケティングなどを実施しています。実際に現場の人に話を聞くことの重要性、チームで効率よく進めることでより多くのタスクをこなせるといった気付きがありました。さらに、AIを使ったシステムを構築したことのないチームでも、考え抜き一歩を踏み出し、成果を出せたことによって自信がついたと話してくれました。
福山大学――地域活性化に「新しいサウナ」を考案、大賞に輝く
最後の発表は、大賞と協賛企業団体賞をW受賞した「地域資源活⽤ビジネス『REBORN SAUNA』〜 新たな地域課題解決の⽷⼝へ~」に取り組んだ福山大学。キャリア教育科目「キャリアデザインⅠ,Ⅱ,Ⅲ」を受講した学生たちが自主的に集まった「自主ゼミ」チームです。「地元や地方に対して夢を持つ」メンバーの集まりで、21年度には子ども食堂のPR動画に取り組み、社会人基礎力育成グランプリ決勝大会に出場しています。前年の経験から「持続的な課題を解決するにはビジネス要素を含む仕組みが必要」だと気づきました。22年度は地域の事業者や支援機関とも連携。地域の特長を生かし、観光客や村人など、人々のローカルコミュニティをつなげることができる「新しいサウナ」を考案し、広島県甲奴町で「REBORN SAUNA」を事業化しました。メンバーは1カ月間、甲奴町に住み込んで地域の探索から始めたと言います。
他のサウナとの差別化を図るため、地域の未利用資源を掛け合わせた地域特有の「大自然の癒し体験『滝サウナ』」、「寺台で整える『寺サウナ』」を生み出しました。この取り組みで「せとうちビジネスコンテスト」にも挑戦し、見事優勝。プランを磨くために、週2回は大会サポーターにアドバイスをもらったり、地域の人たちに協力を得るために「ビジョンを共有する」大切さを学んだり、働きかけ力、実行力などを培ったと言います。うまく進行しない時は、チームでお互いのToDoを可視化するなどし、情況把握力や計画力も身に付けました。
サウナイベントはすでに3回実施し、「自分たちで考えた事業でお客様からお金をいただいた瞬間は、うれしくて忘れられません」と、生きいきと話すメンバーたち。この事業は、後輩に引き継いでいくと言います。地域の活性化、継続が可能な地域の特長を生かしたサウナの事業化、学生たちの成長などから大賞と協賛企業団体賞を受賞しました。
◇◇◇
2023年度も社会人基礎力グランプリは実施される予定です。授業やゼミで、同グランプリに取り組んでみてはいかがでしょうか。
■「社会人基礎力育成グランプリ」に関する情報は下記の一般社団法人「社会人基礎力協議会」ウェブサイトをご参照ください。
一般社団法人「社会人基礎力協議会」ウェブサイト