千葉・小金高校 探究学習にSDGsを取り入れ、課題発見を促す

SDGs×教育

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高校や大学が教育の中に、国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」を取り入れる動きが広がっています。高校では「総合的な学習の時間」や「総合的な探究の時間」で、大学では専門的な学修と社会との接点の理解やグローバル教育などで、SDGsが活用されています。連載1回目は千葉県立小金高校の取り組みを紹介します。

小金高校総合学科部長の椿仁三千先生は、自身が担当する生物の授業の中で、探究的な学習を取り入れ、その学習でSDGsを活用しています。椿先生がなぜ、SDGsに着目し、どのように授業で活用しているのでしょうか。

探究テーマはタピオカ?!

小金高校は2016年度から総合学科となり、将来の職業選択を見据えて自分の適性を考える授業として「産業社会と人間」が始まりました。同授業では当初、大学の専攻分野と職業との接続など、進路選択を考えるような内容でした。総合学科2年目となった年、次の学習指導要領で「総合的な学習の時間」を「総合的な探究の時間」に変更することが決まり、探究を意識した授業に変わったと言います。

SDGsedu1_1.jpg 探究学習にSDGsを活用する椿先生

「探究的な学習」とは、「課題の設定」「情報収集」「整理・分析」「まとめ・表現」といった問題解決的な活動が繰り返されていく学習活動のことを言います。そして高校では、「自己の在り方生き方に照らし、自己のキャリア形成の方向性と関連付けながら「見方・考え方」を組み合わせて統合させ、働かせながら、自ら問いを見いだし探究する力を育成する」とあります。この授業は2022年4月以降に高校に入学した生徒から授業が始まります。

椿先生は「今の生徒たちは答えを欲しがります。用意された問題を解くのは得意ですが、自由にテーマを決めて調べてごらん、と言われると困ってしまう」と、今どきの生徒の特徴を説明。仮にテーマを決めることができても、自分の知っている範囲で留まってしまうケースも多いそうです。

「"自分たちの好きなことをテーマに"と言うと、今なら"タピオカ"がどっと出てくる。タピオカをテーマにした研究となると、『なぜ若者はタピオカが好きなのか?』『インスタ映えする写真の撮り方は?』となってしまう。これでは将来のキャリアや社会との接点という観点から離れてしまいます」

生徒たちは探究が苦手

また、「テーマについて調べてごらん」と言えば、多くの生徒はスマホを取り出して、画面の中で課題研究を始めてしまいます。

「そんな光景を見たら、"課題研究なんて無理だ!""探究学習に意味はあるのか?"と思う教員がいるかもしれません。でも、今の生徒たちは課題設定や課題研究が苦手だということに気づくことが大事なのです」

実際、探究という教育を受けたことのない先生たちが、どうすれば生徒たちの視野を広げられるのか、と悩んでいたところにSDGsが出てきたのです。

「SDGsは目標が決まっていますが、その目標達成へのプロセスは自由。この自由度の高さが生徒たちの探究学習と合致しました。SDGsと生徒たちのテーマを結び付けると、生徒個人の趣味の範囲内であった課題から普段の生活や地域の課題、地球規模の課題へとつながるのです。タピオカがテーマであってもSDGsを取り入れると原材料のキャッサバからフェアトレードの話、カップやストローからマイクロプラスチック問題へと話が広がっていきます」

SDGsedu1_2.jpg 探究学習で生徒たちが発表で使った資料

物事を多面的に捉える力

単に環境問題に興味を持つだけでなく、物事を多面的にとらえる力を身につけることもできると言います。

「例えば、植物原料を使用することによってCO2排出を抑制していると謳う洗剤があったとします。原料となるパーム油はアブラヤシの実から搾油され、アブラヤシのプランテーションを作るために森林が伐採され、生物の多様性が失われている。でも、農園で働く人々はパーム油のおかげで子供を大学に行かせることができたと喜んでいる。このようなことを考えれば、環境保護は0か100かではないことが分かります」

探究学習にSDGsを取り入れるのは、SDGs17目標の達成に貢献することではなく、社会に出て活躍する際に必要な思考力を養成するためのツールとして捉えていると言います。また、生徒自身の考えと世の中の動きが結び付き、「一人よがりではない考え方ができるようになった」とも。当初はSDGsについて話しても「ふ~ん」程度の反応だった生徒たちの中から、NPOの活動に関心を持ったり、アースデイに参加したりする生徒も現れています。

「SDGによって視野が広がり、今度は課題発見にも効果が出ています。構内に設置されている自動販売機を見て、自販機のリサイクルや空き缶の回収などの問題に気づくなど、半径5メートル以内にある社会課題にも目が向くようになりました」

生徒が持続可能な社会を作る

椿先生の授業では、「テーマを決める」「調べる」「資料制作」「スピーチ」の4回の授業で探究学習を完結させています。授業中には生徒たちがSDGsに関連するキーワードを出し合う「SDGsキーワード大会」など、さまざまな工夫をしながら生徒の思考力を鍛えているのです。生徒たちが作った発表資料を前に、椿先生は探究学習にSDGsを取り入れた手ごたえを感じています。

「SDGsは2030年の目標達成を目指しています。生徒一人ひとりが持続可能な未来の社会を作っていくという気持ちを持ち、そのために今の学習があり、将来の学びがあることに気づけば、未来は明るいでしょう」
(渡辺茂晃)