3大学合同IRフォーラム「コロナ禍における大学教育を考える」

オンラインセミナーリポート

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2020年からの新型コロナウイルス感染症の拡大により、大学教育においても、「学びを継続する」ことについて様々な試行錯誤が重ねられています。関西大学教学IRプロジェクトは3月6日、法政大学、明治大学と一緒に3大学合同IRフォーラム「コロナ禍における大学教育を考える」を開催しました。同フォーラムで語られた、大学教育のあり方や課題、今後の方向性などについて紹介します。

「衝撃的な」学生調査の結果とは? ~3大学の調査報告~

大学の「IR」とは、「インスティテューショナル・リサーチ」の略で、厳密な定義はありませんが、一般的に学内の情報を収集・分析し、その結果を教学の改善や意思決定などに役立てることを指します。

フォーラムは、3大学がそれぞれコロナ禍での授業に関する調査結果を報告、そこから浮かび上がった知見と課題を共有したのち、パネルディスカッション形式での意見交換がありました。まず、3大学それぞれの話題提供を簡単に紹介します。

関西大学 ~学生の満足度は、対面よりオンラインが上~

関西大学は2020年度、春学期にはオンライン、秋学期には対面を原則とした授業を実施しました。各学期に1度ずつ調査し(春学期;7月、秋学期;12~1月)、オンライン授業と対面授業について良かったことや困っていること、満足度について比較。関西大学の特徴は、東京の2大学と異なり、オンラインと対面の両方の授業形態を経験した学生から回答を得られたことです。これまで当たり前だった対面授業が、オンライン授業を経験したことによって相対化され、改めてその課題や意義を見つめ直さざるを得なくなったと言えます。

「衝撃的な結果」として報告されたのが、「オンライン授業61.7%、対面授業47.2%」という授業の満足度です。オンライン授業の方が高い満足度となった要因として挙げられたのは、対面授業の「一方的な講義の多さ」。今後は「双方向性」を確保した授業設計が特に大切になるといった指摘の声がありました。高校の授業でもアクティブラーニングの導入が進み、グループワークなどを経験して入学してくる学生が増えています。オンライン・対面にかかわらず、これまで以上に学び合いや友人・先生とのつながりに気を配った授業が求められるでしょう。

明治大学 ~3度の調査、スピーディーな対応~

明治大学は春学期まではオンライン授業、秋学期からはオンラインを中心としつつ対面授業を徐々に拡大しました。ただ、関西圏よりコロナの感染が広がったため、1年間ほぼオンライン授業のみだった学生も一定数いたようです。

そのような環境下、5、8、12月に学生調査を実施しました。5月の調査結果を受けて6月には教員へ授業改善の依頼文書を出し、学生に調査結果をフィードバックするなど、スピード感ある対応をしています。3度の調査結果を基に、学年別や授業形態別に受講上の問題点、満足度などを丁寧に分析し、学生のモチベーションの変化などリアルな実態を報告しました。

ポストコロナにおける対面授業とオンライン授業の関係については、対面とオンラインの両輪で授業を回していくための運用ルール作りが必要としました。現在、オンライン授業を恒常化させていくための課題の洗い出しを進めているそうです。

法政大学 ~膨大な自由記述を分析。迅速な組織内での共有~

法政大学の授業状況は明治大学とほぼ同じ。オンライン授業に対する学生調査を7~8月に実施、「授業の工夫を感じた点」「オンライン授業に対する意見」などの自由記述を、トピックモデルを用いて丁寧に分析しました。

その結果、「1年生は授業内外のコミュニケーション機会の工夫を、2~4年生は資料作りの工夫を評価する」など、学年別に異なる傾向が見られることや、教員のICTスキルの差、システムの整備など、組織的に解決すべき課題も見えてきました。

結果は全学レベルの学部長会議や教授会、学生への報告に加え、教職員向けの交流会や研修会等でフィードバック。単にデータを見て分析し、迅速に組織内に結果を共有するだけでなく、FD(ファカルティ・ディベロップメント;教員の授業改善)を同時展開し、調査結果をより質の高い授業に落とし込んだのです。また、ビフォアコロナの学生調査結果から、学生の学習成果を検証する方法の報告もありました。

コロナ禍で顕在化した、日本の大学が抱える課題は?

パネルディスカッションはモデレーターから各大学への質問が提示され、さらに議論を深めるという形で進められました。そのなかから、コロナ禍によってあぶりだされた、日本の大学が抱える課題と解決への方向性を抜粋します。

関西大学 ~オンライン授業の取り入れ方/大学で学ぶ意義~

・対面でもオンラインでも学生から共通して「指示が分かりづらい、集中力が続かない」という意見が出た。どのような授業形態でも、双方向的なコミュニケーションを確保していくのは古くて新しい課題。

・「学生の主体的な意欲をどう引き出すか」も普遍的な課題。アクティブラーニングを組み込むなど、学びを促すしかけを組み込んだ授業設計が求められる。1日の授業がすべてオンラインではモチベーションを保つのが難しいのも事実。時間割の作成方法にも工夫が必要。

・オンライン授業は通学が困難な学生が学びやすいなどのメリットがある一方、授業を2倍速で再生して聴講する学生もいることが良いのか悪いのか、容易には答えを出せない。現在は感染症予防の観点から大規模授業はオンラインだが、「コロナ後」は教育効果の観点から考えなければならない。DP(ディプロマ・ポリシー;卒業認定・学位授与の方針)、CP(カリキュラム・ポリシー;教育課程編成・実施の方針)の視点も入れて検討する必要がある。

・大学での学びは、入試のための勉強のような知識伝達型の延長線上にはない。大学の中で学ぶことの意義、人と交流するなかでこそ身に付くものがあるということを、エビデンスで証明しないといけない。

明治大学 ~今後は「反転授業」の可能性を探る/履修する授業数が多すぎ?~

・3回の調査を通じて、1年生(新2年生)の反応が変わってきた。良くも悪くもオンライン授業に慣れてきたようで、春学期は多かった授業中の質問が、秋になると減った。加えて、オンラインを支持する理由として、「通学時間や交通費がかからない」という理由が挙がってきたが、これは果たして良い変化なのかどうか。また、人間関係を十分に作る機会のないまま1年間を過ごした1年生にはケアが必要。

・今後の望ましい授業形態として、オンデマンドのコンテンツを使った「反転授業」を進めていく必要性がある。具体的には、先に動画視聴して内容を理解したうえで、教室で教員とディスカッションするというもの。依然として日本では授業以外の学習時間が少ないと言われており、それを改善する工夫の一つとしても反転授業が考えらえる。

・学生から「課題が多くやりきれない」という反応が多い。1週間に10科目以上を履修するのは多すぎる。今後、オンライン、対面など時間割の組み合せ次第では、その状況から抜け出せるのではないか。

法政大学 ~学生とのコミュニケーション、組織内の連携を大切に~

・学生に「授業を中心とした教員とのコミュニケーション」「授業環境」の両面で、いかに安心・安全な場を提供できるかが大事。オンライン授業のなかで、質問を受け付ける時間を確保したり、就職活動について話を聞く時間をとったり、ということが学生の精神面にプラスになったという結果が出ている。

・組織内の連携が一番大切。アンケート調査しかり、学生に協力してもらわなければ始まらない。それによって得られた結果に対して、教員はどのように安心・安全に配慮しつつ授業をデザインし、提供していくのか。機械トラブルへの対処体制の充実も忘れてはならならず、授業改善のため組織的な取り組みも必要。

・次年度以降は学内での組織連携をさらに推進しながら、正確かつ分かりやすい情報をIRとしてリアルタイムに提供していくことが重要になってくる。

コロナ禍で失われたものを、どう補っていくか

3大学からの報告は、大学が抱える普遍的なテーマもあれば、コロナ禍で新たに浮かび上がった課題もありました。また調査項目が共通ではなかったものの、1年生(新2年生)と2年生以上で結果が大きく異なったことは3大学共通しており、喫緊の課題として1年生へのケアの必要性が挙がっていました。

この4月の入学式を新2年生も対象として実施した大学が相次いだように、多くの大学でこのテーマを重要視していることがうかがえます。学年間だけではなく学年を超えた「タテのつながり」をどう構築していくのか、自然に任せるだけではなく、何らかの施策が必要だという意見もあり、人材を形成する場としての大学の役割の大きさを改めて感じさせられました。

コロナ禍の大学生活の様々な課題については、報道でも大きく取り上げられ、学生調査も数多く実施されています。それを実態把握だけで終わらせないためにどうすればよいのか。コロナ禍で失われたもの、オンラインを活用して新たに得られたもの、そのうえで補わなければならないものが分析・実行され、1人でも多くの学生が「充実している」と感じられる学生生活を送ることを願います。