令和3年度「全国キャリア教育・就職ガイダンス」(下)JASSOインタビュー「教職員の悩みに応えたい」

オンラインセミナーリポート

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これまでキャリエデュでは、2回にわたり日本学生支援機構(JASSO)主催の「令和3年度『全国キャリア教育・就職ガイダンス』」の記事をお届けしました。同イベントは、情報過多になっている大学生の就職、情報の少ない障害のある学生や外国人留学生の就職について、大学教職員の皆さまが「どのような情報を持っていたら役立つのか」、実際に「大学生に役立つのか」と、試行錯誤を重ねたJASSO職員の方たちによって開催されました。そんな産学官の各方面と連携し学生の就職支援に注力するJASSO職員ならではの視点で、イベントの振り返りもふまえて就職支援の課題について語ってもらいました。

「令和3年度「全国キャリア教育・就職ガイダンス」(上)大学・企業の最新事例をオンラインで発表」はこちら
「令和3年度「全国キャリア教育・就職ガイダンス」(中)これからの留学生の就職支援のあり方」はこちら

情報の充実・共有で、情報格差をなくす

今回話をお聞きしたのは、独立行政法人 日本学生支援機構(JASSO)学生生活部学生支援企画課 キャリア教育室の京和泉 玲三さん、山根 野亜子さん、砂金 里奈さんの3人。「学生のために」をモットーに、「大学間の情報格差をなくすこと」「大学間の連携などによる就職情報の充実、共有」「さまざまな大学向け就職関連サービスの周知」などを課題として挙げ、就職支援に取り組んでいます。

教職員の皆さんが自信を持って就職支援ができるよう支えていきたい

――「令和3年度『全国キャリア教育・就職ガイダンス』」(以下、就職ガイダンス)では、大学の就職支援、企業の採用、学生の就活体験など、さまざまな話がありましたが、どんな視点でイベントを手掛けたのですか。
r3jasso_3_2.jpg キャリア教育室長 京和泉 玲三さん

京和泉さん コロナ禍になってから、多くの大学教職員の方が、オンライン世代と呼ばれる学生をどうケアしていけばいいのか試行錯誤されています。コロナ禍での就職という今までにない状況において、いかに「先進事例」「好事例」を情報として提供できるのか、今年の就職ガイダンスはそこに力を注ぎました。

砂金さん 大学による就職支援の事例発表も、国立・私立、短期大学、女子大学、大学院大学などに参加をお願いしました。いずれかの就職支援事例には、「自分と同じ環境で課題解決に向けて取り組んでいる」と感じていただけるよう発表内容を構成しました。

就職支援をする企業さんや採用状況などを発表いただく企業さんを集める際には、あらゆる就職パターンに対応するよう、さまざまな業界、企業にオファーをかけました。大手企業から中小企業、留学生の就職支援をしている企業、起業家志向の学生を支援している企業や、I・Uターン就職希望者向けに地域に密着した企業などです。

就職情報サイトにおいては、様々なサービスがあることを知っていただきたいと思いました。就職情報サイトの多様化で学生側の就職チャンスは広がる一方で、教職員の方がそうした情報をキャッチできていないケースがあります。最近存在感を増している就職情報サイトとして、学生自身のプロフィールを登録して企業からのオファーを待つサイトがあります。それは教職員の方もご存じだと思いますが、サイトの存在を知っているだけでなく、運営している企業から実際にその仕組みなどについて話を聞くことで理解を深められれば、学生に自信を持って話すことができると思うのです。

教職員の皆さまが学生向けの多くの就職関連サービスを深く理解することで、「学生を支援することに自信を持つ」。そこをJASSOとしては支えていきたいと思っています。

山根さん 最近は、就職に成功したという元学生がリアルな就活のハウツーを、SNSや動画で配信しているのもよく見かけます。そうした多くの情報に触れている学生に対して、教職員の方たちは「学生に何をしてあげたらいいのか」と、悩んでいることがあると思います。

砂金さん 学生は知識として多くの就職情報サイトがあることは知っていますが、結局、自分にとって何が良いのか判断するのは難しいようです。そういうときに、教職員の皆さまが就職サイトのことをよく理解していれば、「このやり方がいいんじゃない?」といったアドバイスができますよね。

r3jasso_3_4 .png キャリア教育室主任 山根 野亜子さん

山根さん 企業でも大学でも、規模や地域、形態で、さまざまな対応に差が出ていることもあります。オンラインでの対応や就職支援そのものが十分でなく、「どうすればよいだろうか」と思っている大学があれば、「JASSOの発表事例にあったこれをやってみよう」「あの人に聞いてみよう」と、すぐにできるかもしれないことを見つけていただければありがたいです。そうした出会いを、発信していけたらと思っています。

京和泉さん 大学によって、キャリア教育・就職支援にかかわる教職員の人数が少ないとか、大学内で情報共有ができていないというケースもあります。JASSOは大学、短大、高専など、就職情報の格差をなくすことも一つの目的として、就職支援やガイダンスに取り組んでいます。

大学が外国人留学生と中小企業をつなぐ役割を

――外国人留学生は、日本へも来られない、母国へも帰れないという状況が続いています。留学生の就職についてはどのように見ていますか。

京和泉さん 外国人留学生支援の部署から聞くのは、日本人学生と同様に留学生も大企業を志向しますが、留学生も大企業に就職するのは難しいようです。

r3jasso_3_3.png キャリア教育室 砂金 里奈さん

砂金さん 業種によっては、コロナ禍で外国人留学生の求人が減少していると聞きます。せっかく日本で学んだ優秀な留学生が多くいるのですが...。こうした問題解決に向けて、大学が留学生と中小企業の間をつないでいただけたらと考えています。留学生には視野を広く持って就職先を選んでいただきたいですね。

山根さん 就職ガイダンスの視聴申込者を対象としたアンケートでは、「留学生関連の情報がほしい」という声が目立ちました。具体的には、留学生がいざ就職活動を始めても、求人や就職状況などの情報がどこにあるのかなど、情報のアップデートができていないといったことが課題のようです。コロナ禍での就職活動の成功事例を求めている傾向があるように感じます。

京和泉さん 留学生については、インターンシップ情報も少ないという課題があります。


砂金さん 留学生がインターンシップの経験を話すコミュニティもなかなかないようです。就職ガイダンスに参加した中国人留学生も、「留学生のインターンシップ情報を大学がもっと提供してくれたらありがたかった」「インターンシップを経験した先輩の話をもっと聞きたかった」と話していました。1つの大学で、そうした情報を集めるのは難しいこともありますので、大学が連携して情報を集め発信するなど、試みていただけたらとも思います。

JASSOでは、「外国人留学生のための就活ガイド」を作成してウェブサイトにアップしています。留学生も学部生と大学院生では就職プロセスや採用条件が違うので、そうした事情に対応していくのがJASSOの課題です。就職ガイダンスへの参加を依頼した企業の中には、理系大学院留学生と直接話をしたいというケースもありました。

京和泉さん 優秀な理系大学院留学生を採用したいという企業は多いですが、院生になると、専門分野のインターンシップを探すことが困難という課題もあります。今後、就職ガイダンスでは、そうしたことも含めて留学生の就職支援に詳しい業界の方に講演をお願いしたいと考えています。

発達障害のある学生やグレーゾーンの学生に対してのサポート、情報共有を

――就職ガイダンスのアンケート結果では、発達障害のある学生支援についての情報がほしいという声も多いようですが。

砂金さん 発達障害のある学生、診断がつくほどではないが発達障害傾向のある、いわゆるグレーゾーンの学生については、大学と公的機関、専門機関、特例子会社との連携について、具体的な事例を知りたいという声が多く聞かれました。今回のガイダンスでは発達障害特性に起因する困難さがあっても、合理的配慮を提供することで力を十分に発揮できるという事例を紹介したり、障害のある学生もオンラインで参加できるインターンシップを紹介したりしました。

山根さん 「キャリア教育・就職支援の取組 事例紹介」のオンラインセッションでは、登壇者に対して「こういう学生がいるのですが、どのように対応するのがよいのでしょうか」と、この機会にしっかり話を聞いておこうという姿勢で質問をしている職員さんがいらして、試行錯誤している現場の様子をリアルに感じました。

京和泉さん JASSOとしては、今後とも障害のある学生の就職支援に努めていきたいと考えています。

来年は、ブレイクアウトセッションでの交流も検討

――課題がどんどん出てきていますね。来年の「全国キャリア教育・就職ガイダンス」は、どのようなことに注力する予定ですか。

京和泉さん 今年の6月は、オンデマンド配信とオンライン配信をしましたが、来年の開催方針等については関係者とも連携して検討したいと思います。以前は、東京ビッグサイトなどで開催していましたが、企業等の採用担当者と名刺交換ができ、それを期待している大学さんもいらっしゃいます。そうした交流をどうするかも課題です。オンラインでの企業とのセッションでは、同じ人がずっと質問したり、ウェブ会議システムやオンライン慣れの違いがあって、質問したくてもできない人がいたり、皆の前で話しづらいと感じる人がいたりと、その対応をどうするかもまた課題です。

砂金さん オンラインセッションでも皆が退出したころに、企業の方とお話ししたいと残っている人もいらっしゃいました。オンラインだと、話が終わるとブチっと切れて「雑談」ができません。今後は、ブレイクアウトセッションといった交流の時間を設けるようなことも考えています。

                   ◇◇◇
就職ガイダンスは、「大学生のために」をモットーに、学生を支える大学教職員の皆さまの悩みにも十分応えたいという、JASSO職員の方々の熱い思いが込められていることがうかがえました。JASSOは12月にオンラインで「令和3年度キャリア教育・就職支援ワークショップ」を開催予定です。ぜひチェックしてみてください。

★「令和3年度キャリア教育・就職ガイダンス」 「令和3年度『全国キャリア教育・就職ガイダンス』については、JASSOのウェブサイトから資料の一部などを見ることができます。
サイトはこちらから
https://www.jasso.go.jp/gakusei/career/event/guidance/2021_jirei.html  
動画はこちらから
https://www.youtube.com/channel/UCTtoORuUWPx3eTIaqcUeL-A  

★「外国人留学生のための就活ガイド」 サイトはこちらから
https://www.jasso.go.jp/ryugaku/after_study_j/job/guide.html

★令和3年度「キャリア教育・就職支援ワークショップ」(12月オンライン開催) サイトはこちらから
https://www.jasso.go.jp/gakusei/career/event/workshop/2021.html