2024年卒採用見通し ― 全業種で「増える」が「減る」を上回る

2024年卒 採用の見通し
コロナ禍で不安視されてきた新卒採用ですが、コロナ禍1年目での就活となった21年卒の就職率は96.0%、2年目の22年卒は95.8%(卒業した年の4月1日現在)と、リーマンショック後ほどの落ち込みには至りませんでした(※)。23年卒は、ウクライナ危機がさらなる不安をあおりましたが、23年卒の内定率も、22年10月1日時点で74.1%と、前年同期比+2.9ポイントとなっています。そして、2024年卒の採用はどうなるのか? リクルートワークス研究所の調査を基に紹介します。
※出典:厚生労働省「令和5年3月大学等卒業予定者の就職内定状況」

2024年卒の企業の採用意欲は23年卒よりも上昇

リクルートワークス研究所が22年12月21日に発表した「ワークス採用見通し調査(新卒:2024 年卒)」(調査期間:22年10月4日~11月9日)によると、24年卒の大学生・大学院生の採用は、23年卒と比べ「増える」企業は15.5%、「減る」は3.6%に留まり、「増える」から「減る」を引いた差は+11.9%ポイントとなりました。23年卒の「増える」-「減る」の差は+7.0%ポイント、24年卒は前年比で+4.9%ポイントとなりました。リクルートワークス研究所の研究員・茂木洋之さんは、2024年卒も「企業の新卒採用意欲は底堅い」と話します。

2024年卒 新卒の採用 上昇傾向

「変わらない」「わからない」はともに減少

24年卒採用について「変わらない」とする企業は、23年卒の49.4%から46.7%と、2.7%ポイント減少。「わからない」という企業は、23年卒の24.1%から22.6%と、1.5%ポイント減少しました。「以前も今後も採用しない」11.7%については23年卒から変化はありませんでした。「23年卒よりも採用人数の見通しは立てやすくなったが、24年卒も採用に慎重な企業もまだ見られる」(茂木さん)という状況です。

情報通信の採用見通しは+19.3%ポイント

業種別の採用見通しは全ての業種で「増える」が「減る」を上回るという結果でした。特に「増える」が「減る」を大きく上回っている業種(+10.0%ポイント以上)は、前年同様にコロナ禍でも採用意欲が高かった情報通信業の+19.3%ポイント、次いでコロナ禍の影響を受けた飲食店・宿泊業の+17.1%ポイントのほか、卸売業の+13.9%ポイントなどがありました。

採用意欲が高い業種は情報通信、飲食店や宿泊業など、 飲食店・宿泊業は、22年10月からの水際対策緩和による訪日外国人観光客の急増などもあり、人手不足がニュースで取り上げられています。

初任給は引き続き引き上げの傾向

同調査の「人材採用力を高めるための戦略として、初任給の引き上げ」の実施状況に関する質問では、企業規模に関わらず、大企業も中小企業も初任給の引き上げが進んでいます。引き上げ実施に「すでに取り組んでいる」という企業は全体で27.8%と、前年から6.0%ポイント増。「今後取り組む予定である」企業27.1%を合わせると54.9%となり、前年から10.4%ポイントと大幅にアップしています。

業界別に見ると、「すでに取り組んでいる」「今後取り組む予定である」で6割を超えているのは、建設業62.9%(取り組んでいる38.6%、取り組む予定24.3%)、機械器具製造業62.6%(取り組んでいる32.9%、取り組む予定29.7%)、小売業60.1%(取り組んでいる28.7%、取り組む予定31.4%)の3業界。

建設業は、コロナ禍以前より人手不足が深刻な業界ですが、初任給の引き上げ以外にも、人手不足解消や生産性向上などに向け、ロボットやIoT(モノのインターネット化)分野の研究開発を業界全体で取り組んでいます。2024年度からは時間外労働の上限規制の適用など働き方改革も始まります。

企業は人手不足の傾向が高まる

参考に、企業の人員の過不足を見る日本銀行の「全国企業短期経済観測調査(短観)」の「雇用人員判断D.I.」を見ると、全産業においてマイナスとなっています。マイナスが大きいほど人手不足を表しますが、コロナ禍1年目、2年目よりも人手不足の傾向にあり、製造業と比べ、非製造業の人手不足が目立ちます。
全業界で人手不足

採用方法、人事制度は多様化

このように人手不足もあり、新卒採用活動は活発化していますが、社内でのリスキリング(学び直し)によるAI人材への転換が話題となっているように、事務系職種を削減し、データサイエンティストなどの技術職を増やすなどのニュースも聞かれます。採用意欲は、志望業種や職種によって異なってくるでしょう。

また、大手航空は、採用活動を中止していた客室乗務員(CA)の採用を再開しました。全日本空輸(ANA)は、24年度入社の新卒者と23年度入社(経験者)合わせて500人程度を採用する見通しです。日本航空(JAL)も、3年ぶりに23年度入社の新卒者CAの採用を再開しています。

再開の一方で、ANAはCAの人事制度の見直しなどを図っています。同社は、コロナ禍での旅客需要の激減で社員が外部の企業に出向するなど在籍型の「雇用のシェア」を実施しました。今後も、キャリア形成も踏まえCAの副業を可能にするなどの制度を続けていくようです。日立製作所が職務を明確にして、それに応じて人材を採用する「ジョブ型雇用」を全グループに拡大するなど、大手製造業でのジョブ型雇用の導入も広がってきています。

企業の採用意欲を注視するとともに、多様化する人事制度を確認することがますます大事になってきています。
(編集部 北原理恵)
写真素材/PIXTA