学生の仕事への価値観は変わった? 就職で大事なこととは?

学生の就活支援についてリクルートなどがレクチャー
SNS(交流サイト)や動画活用は当たり前のデジタルネーティブ、リーマン・ショックの不景気を経験、大学生活はコロナ禍――。そんな時代を過ごしてきた大学生たち。就職にはどんな価値観を持っているのでしょうか。2023年1月、人材採用や入社後の人事課題解決を支援するリクルートマネジメントソリューションズが開催した情報共有会「2023年新卒採用 大学生就職活動調査からみる 『ミスマッチを防ぐ採用コミュニケーション』」から、「学生の志向・価値観の変化」などを紹介します。就職において大事なことは何か? という話もありました。

超大手志向が強まる

現在の就職環境を取り巻くキーワードには、22歳人口が大きく減少する「2022年問題」「売り手市場」に「就活の早期化」、職務内容等を明確にした「ジョブ型雇用」、入社後の配属先がわからない「配属ガチャ」「キャリア観の変化」などが挙がります。

リクルートマネジメントソリューションズのHRアセスメントソリューション統括部・主任研究員の飯塚彩さんは、「学生の志向は、その人本来の考えに加え、時代や環境の影響も大きく受ける」と話します。

就職活動の傾向としては、コロナ禍を経て「超大手志向が強まった」ことが変化の1つとして挙げられました。リクルートワークス研究所「大卒求人倍率調査(2023年卒)」によると、従業員300人未満の企業の就職希望者数は2021年卒で11.24万人まで高まりましたが、23年卒では7.22万人まで減少。一方で従業員5000人以上の企業への就職希望者は、21年卒の7.24万人から23年卒で12.91万人と、コロナ禍で中小から大手企業への逆転現象が見られました。

仕事に求めることに変化なし。「安定」「貢献」「成長」を重視

続いて、リクルートマネジメントソリューションズ「2017年~2023年 新卒採用大学生の就職活動に関する調査」から、内定までのプロセスにおいての学生の志向・価値観の変化について。

学生が「仕事に求めること」は、17年卒から23年卒までの7年間で上位3つに大きな変化は見られませんでした。「安定」(安定している、バランスがある、守られる、保証がある、安心できる)が40~45%、「貢献」(社会に貢献する、人に信頼される、人の役に立つ、人に感謝される、褒められる)が34~39%、成長(成長し続ける、自分を鍛える、現状に甘んじない、自分を試す、吸収し続ける)が30~36%を保っています。

大学生は安定、貢献、成長を仕事に求める

その企業で働くイメージを持てると志望度が向上

「内(々)定企業に応募したきっかけ」も、1位「業界に興味があったから」、2位「希望する勤務地で働けそうだから」、3位「製品・サービスに興味があったから」と、大きな変化は見られませんでした。「就職活動中の志望度向上に特に影響が大きかったこと」については、「自分がこの企業で働くイメージを持つことができた」が最も多く、企業の情報を十分に得られることなどが学生にとって重要だと、飯塚さんは説明します。

就社より就職へ、勤務地も重視

大きな変化は「内定承諾の最終的な理由」に見られました。学生が最も重視しているのは「やりたい仕事(職種)ができること」。就社よりも就職の意識が高まっています。20~22年卒までトップだった「社員や社風が魅力的である」は2位であるものの、その割合は年々低下。代わって伸びているのが3位「希望の勤務地に就ける可能性が高い」です。希望の勤務地は、前述の「内(々)定企業に応募したきっかけ」の2位にもなっています。

やりたい仕事、勤務地を重視。就社より就職
飯塚さんは、学生の傾向について、「学生が企業と直接接することで最も企業理解が深まり、志望度が高まることに変化はない。ただ、コロナ禍でオンラインなどの選考が増加したことによって、社風や社員の魅力が伝わりにくく、比較しやすい仕事内容や勤務地の重視度が高まっている」と説明。「安定を求め、現在のライフスタイルを維持できる働き方を希望している」とまとめました。

勤務地重視の傾向は、労働政策研究・研修機構が22年3月に発表した「職業と生活に関する調査」にも見られました。「不本意な人事異動の辞令を受けるくらいなら、現在の勤務先を辞めても良い」という質問に「そう思う」「ややそう思う」と回答した割合が若年層(25~34歳)では、約64%にも上ります。不本意な勤務地への配属は、配属ガチャとして離職の大きな理由にもなっています。

若年層、20代、30代は勤務地が重要

就職で大事なことは「貢献意欲」「信頼感」「成長実感・自己理解の深化」

こうした仕事への価値観の傾向に変化が見られる一方で、「望ましい就職」は今も昔も変わることはありません。リクルートマネジメントソリューションズが考える「望ましい就職」とは、「入社後に組織に対する貢献の意欲と信頼感をもって仕事に取り組み、成長実感や自己理解を深めていけること」と言います。「貢献意欲」「信頼感」「成長実感・自己理解の深化」がなければ、どんなに売り手市場で多くの内定を得ても、内定辞退や早期退職などにつながってしまうのです。

そして、望ましい就職を実現するが「就業レディネス」だと話します。就業レディネスとは、「就職先へ入社するにあたっての心の準備状態であり、社会人になるための心の準備が整うこと」を指し、学生の「自己理解」「社会人としての自覚(社会に出る覚悟ができている)」から構成され、就活への満足感を高め、入社後の活躍につながる重要なものです。就業レディネスについては、「キャリエデュ」の下記の記事もご参照ください。

「22年卒の就活振り返りと23年卒見通し(上)オンライン化で何が変わった?」

「自己理解(自己分析)」は、就職にあたって最も大事なものの1つです。飯塚さんから、「採用選考時の企業とのコミュニケーションのなかで今の学生は、『自分を大事にしてくれるか』を敏感に感じ取っている」という話がありました。そのためにも、学生が自分自身を理解し、企業に対して特長や希望をしっかり伝えることが大切になります。

就職環境や学生の仕事観が変わっても、就職において「自己理解」が大切なことには変わらないということです。

写真素材:Graphs/PIXTA