社会人基礎力協議会 年次大会 企業、大学などの取り組み事例を紹介

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コロナ禍によってビジネスや教育のあり方が大きく変化しています。一般社団法人 社会人基礎力協議会は2021年8月20日、「人生100年時代の社会人基礎力」について産業界、教育界がともに考える「2021年次大会」をオンラインで開催しました。企業や大学、プロスポーツ界の社会人基礎力育成の担い手が集い、取り組み内容や育成方法などを発表。教育の効果のうかがえる事例が揃いました。

「社会人基礎力」についてはこちら→「採用担当者が注目する社会人基礎力とは」

社会人基礎力協議会 年次大会とは

社会人基礎力協議会は、「社会人基礎力育成グランプリ」を毎年実施するなど、「人生100年時代の社会人基礎力」育成の調査・研究・普及活動をする組織。年次大会は今回初めての試みで、第1部:講演会、第2部:研究・事例発表会、第3部:2020年度社会人基礎力育成グランプリ教育事例発表の3部構成でした。

第1部:講演~経済産業省、NEC、水戸ホーリーホック

企業も投資家も"人"の重要性を認識

大会のはじめに、経済産業省産業人材課課長補佐の片岸雅啓さんによる基調講演「人材力強化と持続的な企業価値向上に向けた人的資本経営」がありました。

企業の経営戦略として"人"を重視しており、投資家も投資先となる企業の人材戦略に注目している現状を紹介しました。日本では経営戦略と人材戦略が結び付いていない企業が多く、人事が管理部門としてみなされていることに一因があると指摘。人事部門が価値を創造する部署に変わることが必要だと説きます。

今後の人事部門や雇用コミュニティ、経営陣の役割などについて説明してくれました。そして、個人・組織を活性化させるためには、人生100年時代の社会人基礎力である「何を学ぶか」「どのように学ぶか」「どう活躍するか」を従業員側も考える必要があり、そのうえで、経営陣を含めた全員が、例えば社会人基礎力の「前に踏み出す力」「考え抜く力」「チームで働く力」などを発揮していくことが重要ではないか、としました。

学生も社会人も自ら活躍する場を作ることが大事

NECマネジメントパートナー(株)人材開発サービス事業部長の中島大輔さんは「企業活動の視点から見た社会人基礎力~VUCAの時代における人材育成について考える」をテーマに、NECの取り組みについて発表しました。

NECは現在「社会価値創造企業」となるための変革を進めているところであると言います。これまでの業務においては「お客様を深く理解 → 依頼された仕事に責任感をもってやり遂げる → 信頼を得る → そしてリピートをいただく」ことを大切にしてきましたが、これから変革を実現し、不確実性に向き合って価値を創出していくためには「答えのない問題や不慣れな状況に向き合って、対話し、考え、そして仮説を検証し軌道修正しながら仕事を前に進めていく」、こうした行動の変容が非常に重要になると話しました。

また、NECにおける「自己選択しやすい学習機会」の提供や、自ら他組織の公募業務に手を挙げて挑戦する制度や、自身のレジュメを公開して社内スカウトを受ける制度といった「自己選択型の異動制度」等の取り組みを紹介。これらの制度は従業員が自身の成長と活躍の場を自ら切り拓いていく制度です。

これからの不確実性の高い社会で活躍していくためには、学生も、社会人も、「自己選択する力」や「挑戦する気持ち」がとても大切であり、社会人基礎力の示す新たなOSは、学生や若手社員だけでなく、どんな世代の人にも「Fundamentalなもの(基盤として必要なもの)」として、その重要性はますます高まっていると言います。これからの教育の場の在り方についてご自身の考えを示すと共に、皆さんと議論して高め合っていきたいと話しました。

プロスポーツ界でも社会人基礎力を育成

第1部の最後は、プロスポーツクラブであるJリーグ「水戸ホーリーホック」の中川賀之さんと、同チームGMの西村卓朗さんによる、「社会人基礎力を活用した水戸ホーリーホックの活動報告」がありました。水戸ホーリーホックは2018年から「Make Value Project」という独自のプロジェクトを開始。クラブの内外から講師を招き、プロ選手などに向け年間20~30回ほどの講義を行っていると言います。その中に社会人基礎力に関する講座を取り入れています。

西村さんは大学卒業後の11年間プロサッカー選手として働きました。しかし、引退時に「自分は社会人として何を積み上げてきたのか」と、社会人として積み上げてきたものを正確に捉えることができずにいたと言います。そんなときに社会人基礎力と出合い、社会人の能力が定義されているということに"目からウロコ" だったと振り返ります。サッカーを通して「前に踏み出す機会や、考え抜く機会、チームで働く機会はどれくらいありましたか」と聞かれた際に、サッカー経験の中にそういう機会がたくさんあることに気づき、そこから自分の経験を棚卸しできたと言います。

そうした自身の経験から、社会人基礎力はサッカーを専門的にやってきた人が自分の経験を棚卸しする際に非常にいいフレームワークだと考え、水戸ホーリーホックの選手の研修に取り入れたということです。現在では、千葉県内の私立高校スポーツ科1~3年生の授業で社会人基礎力について講義したり、Jリーグ全57クラブの勉強会などでも、「Make Value Project」と合わせて社会人基礎力の育成について紹介したりしているそうです。

個人競技も発明家も、「チームで働く力」は必要

第1部の講演終了後、講演者らでディスカッションがありました。その中で、水戸ホーリーホックの西村さんは「なぜ社会人基礎力の能力要素は"前に踏み出す力"3、"考え抜く力"3、"チームで働く力"6の3、3、6なのか?」といった話を披露しました。この疑問を抱えていた西村さんは社会人基礎力を定義した経済産業省の担当者に会った際、「なぜ3、3、6なのか?」と質問したそうです。 そこで、「チームスポーツだけでなく個人競技のアスリートや発明家など様々な分野の方々に必要な能力を聞いてみると、最後は『チームで働く力』に行きつく。それが、『前に踏み出す力』の3要素を左上に、『考え抜く力』3要素を右上に、『チームで働く力』の6つの要素が下支えする構図となった」(下図参照)という話が聞けたそうです。登壇者や視聴者からは「初めて聞いた」「知らなかった」と、感嘆の声があがりました。

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第2部:研究、発表事例~大東文化大学、山形県立米沢短期大学

看護師の育成にTBL(チーム基盤型学習)を導入

第2部のはじめは、大東文化大学スポーツ・健康科学部看護学科の奥平寛奈先生による「看護系大学における社会人基礎力育成への取り組み ―看護専門基礎科目にTBLを導入した教授法の評価―」について実践報告がありました。TBL(Team-Based Learning)とはチーム基盤型学習と言われ、「個人での事前学習」「準備確認プロセス」「応用問題演習」をチームで繰り返す学習方法です。

看護学科では、看護の知識や技術だけなく、社会人基礎力・3つの視点に、「倫理」と「職業的アイデンティティ」を加えて「大東文化大学看護学科社会人基礎力」と定義しています。患者さんに必要なケアを計画するというフィジカルアセスメントの学習でTBLを導入し、社会人基礎力を育成しています。TBLを通して社会人基礎力の「考え抜く力」「チームで働く力」の育成に影響するのかを検証し、その育成に有用だったことが示唆されたと話されました。

どんな経験によって能力が伸びたかを分析

山形県立米沢女子短期大学は、学生に対して社会で活躍するための汎用的なスキル(以下ジェネリック・スキル)を伸ばすことをふまえ、2019年度から「キャリア支援科目」を新設。担当の後藤和也先生が、「女子短期大学生の社会人基礎力伸長に関する検証―キャリア支援科目受講生におけるルーブリック評価を基に―」を発表しました。

リクルートワークス研究所の辰巳哲子主任研究員が開発したルーブリック評価(「対人基礎力」「対自己基礎力」「対課題基礎力」)を、「ライフ・キャリアデザイン」の受講学生に3回実施。伸びた能力については「どんな経験をしたのか」を学生に自由記述してもらい、テキストマイニングでその経験を分析。グループワークで役割を果たしたことや、計画的に授業の課題に取り組んだこと、TOEICへの挑戦など、学生が学内外で様々な行動化を試みたことが示唆されたと話しました。

第2部の最後には、城西大学大学院経営学研究科の学生であり埼玉新聞事業社取締役も務める近藤信吾さんが、「労働人口問題と社会人基礎力の在り方を考える」を発表。高齢社会において、高齢者が社会で活躍するために「人生100年時代の社会人基礎力」の普及を提案しました。

―第3部:2020年度社会人基礎力育成グランプリ教育事例発表―

「失敗を経験と思える」環境づくりを

徳島県の阿南工業高等専門学校 創造技術工学科の小松実教授は、「電気技術イノベーション実習」で、2020年度社会人基礎力育成グランプリの準大賞と審査員特別賞をダブル受賞しました。2~4年生までの学生が仮想の会社を作り、会社を経営するという授業を通じ、社会人基礎力を育成したのです。

3、4年生が会社を設立、2、3年生は、入りたい会社を決め履歴書を作成し就職活動を疑似体験。入社後は営業、会計、製造、保守点検などをローテーションで担当するという仕組みです。学内で仮想通貨も作り、通貨を保有する教員や5年生から、学内の補修や電気部品の管理業務、モノづくりなどを受注し、売上まで立てていました。

第1志望の会社に入れない学生や、会社の倒産などもあり、実社会の厳しさも実感しながら社会人基礎力を身に付けたと言います。小松教授は、「失敗はすべて経験」として受け止めるように促し、学生が取り組みやすい環境づくりに力を入れたと話しました。

次は京都芸術大学クロステックデザインコースの吉田大作准教授。近畿地区代表として同グランプリに参加しました。同大学はクリエイティブ(Creative)だけでなく、Business(ビジネス)、Technology(テクノロジー)の視点も合わせ持ったBTC人材の育成を目指しています。

吉田准教授が担当する授業の一つが、伝統工芸産業の存続を目的とした「社会実装プロジェクト」。伝統工芸をビジネスとして持続していくためのリサーチ、商品開発、広報、営業までを学生が担います。
例えば、草履の鼻緒をスニーカーに取り付けた「HANAOSHOES(ハナオシューズ)」の商品化。ハリウッド女優がHANAOSHOESを履いた姿を世界に発信してくれたり、英国の老舗百貨店で扱われたりと大きな話題になりました。

吉田准教授は、「社会実装プロジェクト」を学ぶ学生に、「Protptyping+Provocation(プロボタイプ)」という考え方の大切さを何度も説いていると言います。

「10点でも20点でもいいから『試作』を出すことです。従来の『会議→会議→会議→アウトプット』ではなく、試作を出して人を刺激する。その結果、他者のアイデアを誘発してプロボケーションすることで、検証、改善することのスピードが上がる『試作→共有→検証→改善』が大切です」。

「自ら失敗を認められる文化、皆が失敗を共有できる文化、他人の失敗を許すことができる文化」、そうした「学修する組織」を作るのもポイントだと話しました。
2020年度 人生100年時代の社会人基礎力育成グランプリについてはこちら→「2020年度決勝大会 創価女子短大が2度目の大賞に」

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大会の最後、社会人基礎力協議会の長尾素子代表理事(拓殖大学商学部教授)が、「社会人協議会メンバーも常に社会人基礎力が試されているという思いでこれまで頑張ってきた。そして今日、頑張る価値のあるものだと改めて感じた」と、締めくくりました。

講演、発表を通して、「失敗を恐れず取り組むこと」「失敗を許す環境づくりをすること」「まずはやってみて、やりながら軌道修正すること」など、共通する重要視点が見えました。

「人生100年時代の社会人基礎力育成グランプリ」については、2021年度も開催されますまでの、ぜひこちらにもご参加ください。
「2021年度 人生100年時代の社会人基礎力育成グランプリ」の詳細はこちら