専門人材研修会リポート(下)キャリア教育として成功させるには

インターンシップの行く先

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インターンシップ専門人材研修会を主催する、一般社団法人産学協働人材育成コンソーシアム(CIAC)代表理事、松高政京都産業大学経営学部准教授にインターンシップの教育効果や教育効果を高める方法、専門人材に必要な素養について話を聞きました。

――2019年4月に「採用と大学教育の未来に関する産学協議会」が発表した「中間とりまとめと共同提言」には、「大学1、2年生を対象とした職業観や就業意識を育むためのインターンシップは「キャリア教育」である」とあります。インターンシップの教育効果とは?

学修と社会の接点として、学んだことが社会でこんな風に生きるんだということが分かり、学びを深める効果があります。ただ、大学1、2年生が何の目的も持たずにインターンシップに行くと「初めて会社の中を見ました!」などという感想で終わってしまう。インターンシップの教育効果を高めるためには、事前事後の学習が非常に重要になります。

――事前事後には具体的にはどんなプログラムが効果的なのか?

事前であれば、インターンシップに行く理由、目的・目標の設定と言語化、事後は振り返りと言語化になります。例えば、目的が「学修で得た専門知識やスキルが仕事でどう使われているのかを見てみたい」だったとしましょう。その場合、具体的にどんな知識やスキルが使われると思っていて、それをそのようにして確認するのかといったことを言語化することです。

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事後には、「コミュニケーションが大切だと気付いた」と振り返ったとします。でも、コミュニケーションの大切さは、普段の学生生活の中でも十分に分かっているはずです。インターンのどんな場面で、どんなことがあってコミュニケーションの大切さに気付いたのかを言語化してもらうようにすることが必要になります。

このように言語化することによって、学生自身が何を目的にしてインターンシップに参加し、どんな経験を通して何を得たのか、わかったのかを気づかせることができます。これをしないと、何となく、インターンシップに行って、「普段できない経験をした!」で終わってしまいます。

――事前研修などはどこの大学でもやっているのでは?

案外やっていません。マナー研修などは実施していますが、先ほど話したような目的・目標の設定と振り返りの言語化のようなことをしている大学は1割程度ではないかと思っています。仮にやっていたとしても、それが学生に響いているのかどうか大事です。ここにある文部科学省の調査を見てください。

グラフ「大学等 事前事後教育の有無」(「インターンシップ推進のための課題及び具体的効果・有用性に関する調査研究」より、以下同)は大学等に事前事後教育の有無を聞いた結果です。事前事後ともに「なし」と答えたのは5%前後で、ほとんどの大学が「実施している」と回答しています。ところが、学生へのアンケート結果(グラフ「学生 事前事後教育の有無」)では半数以上の学生が「開始前・実施後のいずれも教育を受けていない」と答えています。

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これは企業との関係でも同じです。企業に「大学等との実施目的すり合わせの有無」を聞くと、約75%が「すり合わせは行っていない」と答えています(グラフ「企業 大学等との実施目的すり合わせの有無」参照)。でも、大学等は「すり合わせをしていない」のは39.6%なのです。つまり、大学側は学生への事前事後教育も、企業との目的のすり合わせも、している気になっていますが、相手はそう受け取っていない。そこが問題なのです。

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――インターンシップそのもので、教育効果の高いプログラムとはどんなものがあるのか?

教育的なプログラムとして成功している事例は非常に少ないのが現状です。これから大学と企業が一緒に議論しながらプログラムを作り上げていくようになるでしょう。その意味では研修会に参加して専門人材になった方々がさまざまなインターンシッププログラムを開発・実施し、成功事例を増やして共有することが大切です。

――今回の研修【発展編】では、インターンシップというよりも大学でイノベーションを起こすことを目的にしています。その真意は?

それは文部科学省が示した「大学等におけるインターンシップの推進に係る専門人材に必要と考えられる要素等」の最高レベルに「変革できる」とあるからです。ただ、変革レベルと言っても、何をどう変革すればいいのか、その方法論はありません。研修ではデザイン思考やイノベーションのデザイン、イノベーションの実行戦略立案などのセッションを用意しています。あとは現場での実践を積み、教育を変えるという志があれば変革できる人材に育つと思います。

――皆さん、研修ではインターンシップの実施から教育改革まで非常に高いレベルまで学び考えている。しかし、実際の職場に戻れば、人手不足や採用直結のインターンシップなど、理想と現実のギャップが待っている。

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今回の研修でも「孤立無援」といった声が聞かれたように現実は厳しい。教育的なインターンシップを進めるには、学内や企業との調整、就職と教育の比重など、多くの難しい場面に遭遇するでしょう。片方を優先すれば、もう一方が進まなくなる。うまくバランスを取りながら進められる人材が求められています。

研修では単にインターンシップ屋さんを作っているわけではなく、大学でイノベーションを起こせる人材の育成を目指しています。困ったときには、この研修で知り合った同じ志を持った仲間を頼ればいい。そうして、教育的なインターンシップを実施できるような人材になれば、大学の教育も必ず変革できるはずです。
(編集部 渡辺茂晃)

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