就活を科学する(上)就活生が会社を選ぶメカニズム

漂流する就活伊達洋駆

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このコラムでは、アカデミックな知見や企業の採用事例をもとに、学生がどのように就職活動を進めているのか、企業がどのように採用活動をしているのかを解説します。第1回となる今回は、「就活生が会社を選ぶメカニズム」について取り上げます。

前半と後半で重視される情報が異なる

学生の就職活動は、様々な情報に基づいて判断を下し、最終的に入社先企業を選び取るプロセスです。そうしたプロセスにおいて、就活生は何を重視し、どのように意思決定を進めているのでしょう。

過去に海外で行われた研究でも、日本で行われた研究でも一貫して検証されているのは、就職活動の前半と後半では、学生が重視する情報の種類が異なるということです。

具体的には、就職活動の「前半」では「自分」(学生自身)に関する情報が重視されるのに対して、「後半」では「会社」に関する情報が重視されます。前半は職業適性、キャリア展望、働き方の価値観など、自分のことを理解したい気持ちが強いものの、後半になると一転して会社のことを理解しようとするということです。

まずは絞ってから比較検討する

更に就職活動後半の企業選びは、2つの段階に分解できることが分かっています。第1に、特定の「基準」によって、候補となる企業を大きく絞り込む段階です。業界、職種、規模、知名度といった基準で絞り込むのが一般的でしょう。

社会全体を見渡すと、数え切れないほどたくさんの会社が新卒人材を求めています。当然のことですが、学生はその全てにエントリーすることはできません。とはいえ、重要な職業選択の機会です。無作為にエントリーしていくわけにもいきません。

そこで、何かしらの基準を置いて、世の中にある無数の企業から、自分が選考に参加できる現実的な数まで候補を削減することから始める必要があります。

後半の企業選びの第2段階は、学生が第1段階で絞り込んだ少数の候補を丁寧に比較検討し、自分が入社する企業を選び取るという段階です(勿論、学生もまた企業による選抜を通過しなければなりませんが、今回は就活生の企業選びに光を当てたいため、企業による選抜の話は扱いません)。

採用サイト、パンフレット、会社説明会、OB・OG訪問、グループディスカッション、面接、職場見学など、学生が企業に関する情報を得る機会は多数あります。そうした機会を通じて集めた情報を頼りに、学生は「A社とB社を比べると、B社の方が○○だからB社にしよう」といった具合に意思決定を行います。

何かしらの基準でぐっと絞り込んでから、少数の候補を比べて決めるというのは、実のところ、学生の就活に限らない、人の意思決定プロセスの一般的な流れです。例えば、商品を購買する行動についても同じようなプロセスを経ることが明らかになっています。

企業選びのメカニズムの整理

ここまでの話を整理しましょう。就活生の企業選びは全体として次のようなステップで進みます。

・初めに自分に関する情報を集めて、自己理解を深めようとする
・その中で、企業選びのためのスクリーニング基準を定める
・今度は、その基準にしたがって、受けるべき企業の候補を絞る
・そうして残った少数の候補を突き合わせて、入社先企業を選ぶ

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企業選びの基準づくりの支援が重要

企業選びのメカニズムを眺めると、一つの気がかりな特徴があることに気づきます。それは、一度ある基準で候補が絞り込まれてしまうと、そこから漏れた企業が再び入社先企業の候補に浮かび上がることが容易ではない点です。

この特徴を考慮すれば、絞り込みの基準の精度が重要になると言えますが、他方で就活生の中には、そこまで明確な理由がないにもかかわらず、世間が提供している業界、職種、規模、知名度などの基準を用いて、何となく候補を絞り込んでいる人もいます。

就活生それぞれの企業選びが、一層妥当で納得感のあるものとなるためには、就活生が初めに企業をスクリーニングする基準を定める段階で、しっかりとした支援をすることが大事です。

先ほどのメカニズムを思い返せば、企業選びの基準づくりは自己理解を深める時期に行われるものですが、そもそもまだ働いたことのない学生にとって、近い将来に職業人になる自分を分析して基準をつくるのは、原理的に難しいことです。

例えば、学生が就業体験できる場を紹介して、参加後に適性に関する振り返りを一緒に行ったり、企業や大学の関係者が学生に対して1対1でキャリアカウンセリングを丁寧に実施し、学生が企業選びの基準を考える手伝いをしたりすることが有効に機能するでしょう。

プロフィール

伊達洋駆 伊達洋駆(株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役) 神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、HR領域を中心に調査・コンサルティング事業を展開し、研究知と実践知の両方を活用したサービス「アカデミックリサーチ」を提供。2013年から採用学研究所の所長、2017年から日本採用力検定協会の理事を務める。共著に『組織論と行動科学から見た 人と組織のマネジメントバイアス』(ソシム)や『「最高の人材」が入社する 採用の絶対ルール』(ナツメ社)がある。