これからの就活ルール(1)新卒一括採用から通年採用へ?

漂流する就活渡辺茂晃

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企業と大学の共同提言。その中身は?

2018年秋から揺れ始めた学生の就職活動。経団連の中西宏明会長が2018年9月、「経団連が採用の日程に関して采配すること自体に極めて違和感がある」と発言し、10月には選考・採用時期などを定める「採用選考に関する指針」の廃止を決めました。政府主導で新就活ルールが決まり、2021年卒業予定者も現行スケジュールで就活が進むことになっています。その一方で、経団連と大学からなる「採用と大学教育の未来に関する産学協議会」が今後の採用やインターンシップについて話し合っています。この連載では産学協議会が発表した共同提言を見ながら、今後の就職活動がどうなるのかを考えてみます。

就活ルールを廃止した経団連が12月4日に「今後の採用と大学教育に関する提案」を発表し、その中で「大学と経済界との継続的対話の枠組み設置」を提案、1月31日に「第1回採用と大学教育の未来に関する産学協議会」が開かれました。そしてが4月22日、「中間とりまとめと共同提言」を発表したのです。提言には「Society 5.0時代に求められる人材と大学教育」「今後の採用とインターンシップのあり方」「地域活性化人材の育成」の3つの分科会で議論された現状の課題、今後の改革の方向性などと、「政府への要望」「今後の具体的なアクション」が記されています。

共同提言の中で、就職活動に直接関係があるのは「2.今後の採用とインターンシップのあり方」です。これは(1)Society5.0時代の雇用システムや採用のあり方―ジョブ型を含む複線的なシステムへの移行― (2)多様な人材の採用の方向性と課題 (3)学修成果の評価と評価する時期 (4)今後のインターンシップのあり方 に分かれ、その中でいくつかの提言がされています。それぞれを見ながら、問題点や今後の方向性を考えていきましょう。

ジョブ型採用の先にある年功序列と終身雇用

(1)Society5.0時代の雇用システムや採用のあり方―ジョブ型を含む複線的なシステムへの移行―
・新卒一括採用(メンバーシップ型採用)に加え、ジョブ型雇用を念頭においた採用も含め、複線的で多様な採用形態に、秩序をもって移行すべき。
・学生の学修経験時間の確保を前提に、学生の主体的な選択や学修意欲の向上に資する就職・採用方法と、質の高い大学教育を企業と大学の共通理解によって実現していく。

(「中間とりまとめと共同提言-概要-」より)

共同提言ではSociety5.0時代の求める人材像を「課題発見・解決力」「未来社会の構想・設計力」「論理的思考力と規範的判断力」に加え、これらを支えるリテラシー(数理的推論・データ分析力、論理的文章表現力、外国語コミュニケ―ション力など)を持った人材としています。このような人材は、採用後に人材を育成するというポテンシャル重視の「新卒一括採用(メンバーシップ型採用)」だけでは対応できないため、専門スキルを重視したジョブ型雇用を念頭に置いた採用を含めた複線的な採用が必要だと指摘しました。

ここで語られているジョブ型雇用、実際にはロボットや人工知能(AI)、あらゆるモノがネットにつながるIoTといった、Society5.0時代に対応したビジネスを展開するベンチャー企業や外資系企業はすでに取り入れています。例えば、DeNAは「エンジニア職AIスペシャリストコース」を用意し、年俸600万~1000万円を提示、サーバーエージェントも高度な技術や実績、成果を持つエンジニアには最低年俸720万円以上を支払うとしています。こうしたIT企業に人材獲得競争で遅れをとらないように、今春以降、ソニー、NEC、NTTコミュニケーションズ、富士通などが同様の制度を取り入れ始めています。

ただ、経団連に加盟している大企業の多くはメンバーシップ型採用を続けており、ジョブローテーションによってさまざまな職種を経験しながら昇進する年功序列型の賃金制度を維持しています。経団連が2018年10月に発表した会員企業を対象にした「2018年3月卒新規学卒者決定初任給調査結果」では、大卒事務系213,743円、大卒技術系215,293円が初任給の平均額でした。このため、経団連に加盟しているような大企業が高度な専門知識を持った新卒者を採用するには、年功序列型賃金制度や終身雇用制度など日本型雇用制度をやめる必要があるのです。

経団連の中西会長は5月7日の定例会見で、終身雇用について次のように発言しています。「働き手の就労期間の延長が見込まれる中で、終身雇用を前提に企業運営、事業活動を考えることには限界がきている。外部環境の変化に伴い、就職した時点と同じ事業がずっと継続するとは考えにくい。働き手がこれまで従事していた仕事がなくなるという現実に直面している」(経団連ホームページより一部抜粋)。また、日本経済新聞(5月20日付)は政府の規制改革推進会議が、「職務や勤務地、労働時間を限定する「ジョブ型正社員」の法整備を提言する」意見書をまとめる方向だと報じました。

法整備を含めてジョブ型雇用導入に向けて日本型雇用の転換への土壌作りが進んでいると言えます。共同提言の「今後の採用」を考えるにあたり、日本企業の人事制度が変わらなければ、採用部分での大きな変化は望めないでしょう。ただし、年功序列・終身雇用に関しては、現在働いている労働者にとって大きな衝撃を与えることになりますし、この2つの制度の恩恵を最も受けている企業の経営層が本気で変えることができるのか難しいところです。だから「ジョブ型雇用を念頭に置いた」という表現に留めているのかも知れません。

学生は時間があっても学修しない

もう1つ、学生の密度の濃い学修や海外留学を含む「学修時間の確保」を前提とした就職・採用方法が必要で、これを阻害するのが採用の長期化・早期化だとしています。2018年10月22日付日本経済新聞の「経済教室」で、同志社大学の奥平寛子准教授が採用日程の繰り下げと大学生の教育投資の関係について分析しています。そこでは、調査の結果「日程の繰り下げが教育投資を増やすという結果は得られなかった」とし、「日本の大学生が勉強できなかったり、留学できなかったりしたとすれば、それは本質的に就職活動というよりも学生の意思決定の問題だ」と結論づけています。大学生の学修時間が少ない理由を就職活動だけにしていると、いつまで経っても、中身の濃い学修を経験した学生は現れないかもしれません。

通年採用は既卒のみ

最後に「通年採用」について。新聞等の報道では「新卒一括採用から通年採用へ移行」といった報道がされ、「新卒一括採用がなくなり、通年採用が始まる」と思っている方も多いと思います。共同提言の中に以下にような文言があります。

今後は、日本の長期にわたる雇用慣行となってきた新卒一括採用(メンバーシップ型採用)6に加え、ジョブ型雇用を念頭に置いた採用7(以下、ジョブ型採用)も含め、学生個人の意志に応じた、複線的で多様な採用形態に、秩序をもって移行すべきである。

そして以下の注記があります。
6 新規卒業者を対象とし、採用日程・入社時期を統一し、学生のポテンシャルを重視した採用。なお、現在でも卒業後3年以内は新卒扱いとするとの厚労省通達が存在するものの実質的に機能していないとの指摘がある。
7 新卒、既卒を問わず、専門スキルを重視した通年での採用、また、留学生や海外留学経験者の採用

これによって「通年採用に移行する」となったわけです。この通年採用という言葉の定義もあいまいなため、「低学年から就職活動が始まる」「1年中企業は採用活動をする」といった話が広がっていきました。こうした混乱に対して産学協議会は2019年6月25日に「Society 5.0時代の大学教育と採用のあり方に関するシンポジウム」を開催し、その中で「今後の採用とインターンシップのあり方に関する分科会」分科会長である土屋恵一郎明治大学学長が次のように話しています。

「通年制が何であるかについて明らかなコミュニケーションギャップがある。通年制採用について大学側と企業側が合意した定義がある。卒業後通年採用を意味しているのであって、採用をいつやってもいいということを意味しているわけではない」

ということで、卒業後の新卒者に対して通年で採用活動をするということのようです。これによって新卒一括採用はこのまま残り、新卒者に対する通年採用ということが明確になりました。
hyouryu1-1.jpg (『学校法人』6月号掲載記事を基に再構成)

プロフィール

渡辺茂晃 渡辺茂晃(株式会社日経HR) 1991年日経事業出版社入社、高齢者向け雑誌編集を経て、96年日本経済新聞社産業部、98年就職雑誌編集、2001年日経就職ガイド編集長、05年日経就職ナビ編集長、09年大学評価・学位授与機構「大学の「学習成果」を軸とした教育・評価・エビデンスの発信を可能とする体制についての研究」研究員、10年経済産業省「社会人基礎力育成グランプリ」運営、12年10月文部科学省「産業界のニーズに対応した教育改善」事業支援、14年桜美林大学大学院大学アドミニストレーション研究科非常勤(~19年4月)、日本経済新聞人材教育事業局「日経カレッジカフェ」副編集長、15年中小企業庁「地域人材コーディネーター養成事業」主任研究員、16年経済産業省「健康経営優良法人認定制度」広報担当、内閣府「女性リーダー育成プログラム」主任研究員、18年4月から現職。著書『実況中継 これまでの面接VSこれからのコンピテンシー面接』『マンガで完全再現! 面接対策』『人気企業内定者に聞いた 面接の質問「でた順」50』など。